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自らの健康を自らの手でコントロールする/ルイージ・フォンタナ

ルイージ・フォンタナ著/寺田新訳『科学的エビデンスにもとづく 100歳まで健康に生きるための25のメソッド』が刊行となりました。その書名どおり、いつまでも健康に生きるための方法について科学的かつ体系的に論じた本として、原著は高い評価を得ています。本書「はじめに」の一部をお読みください。

慢性疾患や精神的苦痛が遺伝子の不良もしくは運の悪さによるものであるという間違った考えをもった人々や、病気に苦しんでいる人々を毎日のように目にする。しかしながら、それはとても残念なことである。というのも、多くの慢性疾患は予防可能であることが、現在明らかとなっているからである。

公衆衛生および医学の大きな進歩・発展により、欧米諸国における平均余命が1850年からほぼ2倍に延びた。衛生条件の改善および獣疫および害虫の減少・駆除、水道水の塩素処理、国によるワクチン接種プログラムおよび抗生物質、ビタミン、インスリン、コルチゾン、化学療法用の治療薬などの発見といった科学的革新が、先祖を死に追いやってきた病気を克服し、長生きすることを可能にしてきた。

現在、男女ともにより平均余命が延びている。しかしながら、残念なことに、とても多くの人々が、心疾患、脳卒中、がん、肝臓・腎臓病、認知症、フレイル(frail)および精神疾患などのさまざまな慢性疾患に苦しんでいる。現代医学は、患者がこのような疾患を抱えたまま数十年にもわたって生きながらえることを可能にしてきた。しかしながら、そのようにして増えた時間は、楽しみ、自由、自立といったものではなく、病気、不安、抑うつ、借金、医療費の負担増などによって特徴づけられる。

欧米諸国では、医療費は数兆ドルにものぼり、その大部分は、慢性疾患の治療に用いられている。たとえば、アメリカでは、2017年に使用された330兆円の医療費のうち、約90%が病気を患った人たちに対する治療のために費やされている。この極端に高額な病気の治療・看病システムは、持続可能なものではなく、永遠に続けられるものではない。将来は、「病気の予防のためにお金を支払う」というシステム、すなわち、人々を病院から遠ざけるような対策・ケアに対して報酬が支払われるものになるだろう。さらに、疾病の予防は、医療費の削減ということ以上に、他の分野、たとえば、生活の質の向上といった面において計り知れないほどのメリットをもたらすことができる。

1948年、世界保健機関(World Health Organization: WHO)は、「健康」を「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義した。私は、診療を始めたときから、「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態」および人生において深遠なる満足感が得られる方法を探求し続けている。私の臨床診療と研究活動は、寿命を延ばすことだけを目指したものではない。栄養、運動およびその他の生活様式の改善が、健康的に歳をとり、創造的で、成功に満ち、気分も満たされた人生を送ることにつながるが、その詳細なメカニズムを解明・理解することを目指して研究を行なっている。

本書でくわしく解説していくことではあるが、動物実験や臨床研究、さらには百寿者に関する研究から、ヒトは大きな慢性疾患を発症することなく、100歳以上生きられることが明らかとなっている。健康長寿は、遺伝的素因や運による影響を受けるものの、それだけによって決まるものではないと私は信じている。WHOの推定によれば、質の悪い食事、身体不活動、喫煙、過体重といった生活様式に関連した要因を改善することで、心血管系疾患、脳卒中および2型糖尿病の発症を少なくとも80%ほど予防できること、同様に、がんの発症も40%予防できることが報告されている。この値は、かなり低く見積もられた値であると私は考えている。

より多くの人が、疾病を予防したり、生活の質を改善したり、さらには、慢性疾患にともなう苦痛を軽減したりする方法についての知識を身につけなければならない。自らの健康を自らの手でコントロールすべきときがきている。慢性疾患に対して長期間にわたって対症療法を行なうのではなく、自らの行動を変える必要がある。なぜなら、行動を変えることが、死に至るような数多くの深刻な病、さらには生態系や地球環境に対しても大きな影響を及ぼすためである。

本書で私が示したかったものは、栄養、身体活動・運動、および脳 (認知)トレーニングがどのようにして、病気に罹らずに長い人生を過ごすことを可能にするのかということ、さらには、これらの要因がどのようにして (どのようなメカニズムで)健康に対して影響を及ぼしているのか、ということである。もし、生理学的、生化学的および分子生物学的メカニズムを人々が理解することができれば、確かな情報に基づいた選択ができ、それによって、より幸福で健康的な人生を長く過ごすことができると私は信じている。加えて、マインドフルネス瞑想、健康的な睡眠法、呼吸法、社会的関係の構築、環境保全といった、幸福感をより強く感じられるような実践的な手法についても説明する。このような手法にも、しっかりとした科学的な裏付けがある。


健康長寿に対する興味をもったきっかけは?

予防医学、健康長寿、マインドフルネス瞑想さらには自己啓発などに対して、私は幼い頃から興味を抱いていた。私が5歳のとき、母方の叔父であるFrancescoは、私の母に対して家族に出す食事を変えるように強く諭していた。Francescoは、1960年代にイタリアで最初に有機栽培農家から全粒穀物や豆類を直接購入し始めた者のうちの1人である。

私たち家族の食卓はけっして貧しいものではなかった――私たちの家には庭があり、そこで野菜を育てていた。しかしながら、私が生まれたイタリア北部のトレントでは、料理の大部分が肉類、チーズ、牛乳、精製炭水化物(糖質)およびスイーツで占められていた。私の家では、母が料理を担当していた。Francescoが食事内容を変えるように母を説得した後、さまざまな種類の葉菜類やほとんど精製されていない穀物、豆類、種実類、魚介類(ビタミンB12および亜鉛の供給源として)を摂るようになった。現在、私は妻のLauraと息子の Lorenzoとともに、これとほぼ同じ内容の食事を摂っているが、慢性疾患を患うこともなく、また医薬品を服用することもなく過ごすことができている。

(以下、続く)

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