ユーザレビューを見るときの注意点あるいは高級牛丼の話
ターゲットではない客を受け入れてしまうと、お客さんもお店も不幸になってしまうなあということを思ったので書き留めておくことにしました。
2種類の牛丼屋さん
私は牛丼(場合によっては牛めし)が好きなので、牛丼を例に挙げさせていただくのですが。
1杯500円の牛丼屋さんXと、1杯5,000円の牛丼屋さんYがあったとします。
1杯500円のXは海外の牧場から牛をまとめて買うことでコストを抑え、セントラルキッチンで9割がた調理を済ませるとともに店舗のオペレーションは今日入ったばかりのアルバイトでもこなせるように簡略化。お客さんの滞在時間を極力短くすることで客数を増やし、薄利多売を追究するお店です。
1杯5,000円のYは直営牧場で育てた松坂牛を使用し、一流の料理人が注文を受けてから丁寧に調理。店内も高級感あふれる調度で固め、落ち着いた雰囲気の中で特別な一杯と時間を味わっていただく高級志向のお店です。
それぞれの顧客と満足度
この両店、客層が違うことは容易に想像がつくと思います。
仮にこれから牛丼を食べようとしている人を100人ピックアップしたら、大半はX店に向かい、Y店に向かうのはごく少数になるでしょう。
そしてそれぞれのお店で牛丼を食べた人たちは、X店の利用者は
「この値段でこの味、この量が食べられるんだから、やっぱりX店は最高だよな」
といった具合に、コストパフォーマンスに満足して帰っていきます。
一方、Y店の利用者は
「味もお店の雰囲気も最高だ。値段はたしかに高いが、それに見合った価値は十分にある」
と、味と雰囲気に満足感を覚えるのです。
ユーザレビューがあれば、どちらも高い評価がつくことでしょう。
お店……とくにY店としては自分たちのお店に満足してくれるお客さんだけが来てくれれば良いわけですが、値段がある意味フィルタの役割を果たしているのです。
うっかりターゲットではない客を受け入れてしまうと
ここで、たとえば政府から外食産業の振興のために「期限付きお食事券1万円分」が全国民に配布されたとします。
すると、少なからぬ人がこう考えるはずです。
「普段はX店で500円の牛丼を食べているが、お食事券を使ってY店の牛丼を食べてみよう!」
かくしてY店には、普段は絶対に来ないような人たちが訪れることになりますが、先述の通り、彼らの判断基準は料理のコストパフォーマンス。
「美味しい……うん、美味しいよ。でもこれに5,000円はちょっと出す気にならないなあ。値段が10倍もすることを思えば、X店の牛丼の方がいい」
こんなことを言い出しかねません。
仮にユーザレビューを求められたら、X店に「コスパ最高!」と高評価を、Y店には「たしかに美味しいけれど、この値段出して食べる気はしない」と低評価をつけることになるでしょう。
そして、X店を志向する顧客(つまりコストパフォーマンスを重視する顧客)は数が多い。
もしランダムに選ばれた100人がX店とY店の双方を訪れてレビューを書いたならば、総合評価はX店の方が高くなる、という事態が考えられます。
ユーザレビューを見るときの注意点
商品やサービス、店舗を利用したユーザの生の声が聞けるという意味で、ユーザレビューはとても有益なものです。
しかし、場合によっては高級路線を突き進むY店に対して「コスパが悪い」などという、お店からしてみたら
「いや、うん、うちはコスパとか追究してないんで……」
と困惑するしかないレビューが集まり、総合評価を下げてしまう、なんてことも起こりかねません。
ていうか、確実に起きているでしょう。
通常、外れ値(他と極端にかけ離れた評価のレビュー)は数が増えれば埋もれて無視できるようになるものです。
が、このようなケースではレビュー数が増えれば増えるほど的外れなレビューが集まることになってしまって、ここら辺なんとかする仕組みがないもんかなあと思っている次第です。
そしてここまで牛丼牛丼言っといてなんですが、1杯5,000円の牛丼なんてあるのかな……と思ったら、実在しました。なにこれすごい。
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