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『ガールズバンドクライ』川崎聖地巡礼 ― 矢向の歴史を辿る

文:Sunlight

ご存知の通り、アニメ『ガールズバンドクライ』の舞台は川崎です。川崎はストーリーの背景となっているだけではなく、アニメ全篇を通して強調されています。バンドの仮名「新川崎(仮)」、『雑踏、僕らの街』歌詞「嘘みたいな 馬鹿みたいな どうしようもない僕らの街」、仁菜と桃香のセリフ「東京えずかー」「川崎な」などから、川崎愛が感じられます。『ガールズバンドクライ』を観ていると、川崎を訪れてみたくなることでしょう。では、行きましょう!

川崎駅は川崎市川崎区駅前本町26-1に所在し、東京駅から青い電車(京浜東北線)に乗って30分弱、渋谷駅から緑の電車(山手線)を経て青い電車(京浜東北線)に乗って30分強でアクセスできます。授業後の時間でも充分に巡礼することができます。


川崎駅(神奈川県川崎市川崎区駅前本町26−1)
電車を降りて、駅のすぐ近くに1話の桃香のライブの場所が見えます。

アニメ初回で井芹仁菜は、東京駅から誤って横須賀線に乗車し、横浜駅で乗り換えて川崎駅に向かいました。川崎駅の近くにある不動産屋に行って(鍵を受け取れず)新居に向かうのです。

途中の南河原公園(川崎市幸区都町74-2)
矢向湯(横浜市鶴見区矢向5丁目3−19)を通過

仁菜の新居の最寄り駅も矢向駅です。矢向駅の所在地はもちろん川崎市…ではなく横浜市鶴見区矢向6丁目5です。川崎市ではなく横浜市です。もしかして、仁菜は川崎市民ではなく、横浜市民なのではないでしょうか。桃香が川崎市に住んでいるのに、仁菜が横浜市に住んでいるなんて、悲しいですね。

アニメ8話に、仁菜の住所が「212-002X 神奈川県川崎市幸区 矢向本町2丁目400-10 203号」と明記されています。この住所は実在しません。川崎市幸区にも矢向本町という場所はありません。矢向は横浜市鶴見区しか存在しません。アニメの中では、矢向は横浜市鶴見区ではなく、川崎市幸区にあるようです。アニメと現実の主張が食い違っているようです。地図で見てみましょう。

赤い部分は川崎市の幸区と川崎区です。北の多摩川が東京都との境界です。青い部分が横浜市鶴見区です。川崎市と横浜市の境界の一部が急に川崎市の方向に凹んでいます。そこが矢向です。(脚注1)
矢向(緑の部分)(脚注1)

なぜ川崎市と横浜市の境界はこうなったのでしょうか。歴史的な経緯を振り返ります。

1878年の矢向は、橘樹郡矢向村でした。そして1889年に、橘樹郡矢向村は周辺の村(市場村、潮田村、小野新田、矢向村、江ヶ崎村、菅沢村、小田村の一部)と合併して、橘樹郡町田村になりました。橘樹郡町田村は今の横浜市鶴見区の一部です。そして、1923年に、潮田町と改名されました。そして、1925年、橘樹郡潮田町は橘樹郡鶴見町に編入されました。その後、鶴見町は現在の横浜市鶴見区となりました。(脚注2,3)

つまり、矢向が川崎市ではなく、横浜市になった原因は二つあります。
一つ目は、1889年に矢向村と周辺の村の合併による町田村(潮田町)の誕生です。
二つ目は、1925年に潮田町が鶴見町に編入されたことです。

矢向村(緑)。合併した周辺の村(青)。現在の境界に基づいて作成。当時の境界ではありません。(脚注1)

これは明治の大合併の時の出来事でした。明治の大合併は、行政のために自然集落を一定な規模にする町村合併です。その結果、町村数は約1/5になりました。(脚注4)
明治の大合併においての町村合併案は、各町村の様々な要素を調査し、作成されました。しかし、町村合併によって人民の苦情もあります。(脚注5)仁菜はどんな苦情を言うのでしょうか。

鶴見町(黄)。潮田町(青)。現在の境界に基づいて作成。当時の境界ではありません。(脚注1)

この合併は明治の大合併と昭和の大合併の間に発生した合併です。都市化の進展に伴う合併だと思われます。(脚注6)鶴見川の西側にある鶴見町と東側にある潮田町は、距離が近いが、緊密の関係ではなかったです。鶴見町と潮田町の合併は、工業化に伴い工場労働者が頻繁に両岸を往来するようになったためです。(脚注7)

聖地巡礼を通じて、市町村の境界やその歴史を観察することは非常に興味深い体験です。地名に込められた背景を掘り下げることで、作品の世界と現実のつながりを深めていくことができます。

最後に、井芹仁菜が「矢向は横浜市鶴見区になった」ということについて、言う可能性がある苦情(惚気話)で締めくくろうと思います。

「なんで矢向が川崎市じゃないんですか? 横浜市にあるなんて誰が決めたんですか! 私の気持ちはどうなるんですか! 横浜市にあるなんて、本当にこれで良いと思ってるんですか? そんなんで納得できる訳ないじゃないですか! 矢向が川崎市だと思ってたんですよね? 矢向が川崎市じゃなくて横浜市だなんて、こんなに近いのに別の市に住んでるってなんか悲しいですよね! 桃香さんともっと一緒にいたいんです。私は桃香さんがどう思っているかを聞いているんです! 黙ってないでなんとか言ってくださいよ」
(ChatGPTの出力を加工して作成)

幸い、井芹仁菜の世界線では、矢向は川崎市にありました。皆さんも是非ルールを守って川崎市幸区矢向を訪れてみて下さい!

矢向駅(横浜市鶴見区矢向6丁目5)

脚注1:グーグルマップ、政府統計の総合窓口(e-Stat)(https://www.e-stat.go.jp/)国勢調査2020年境界データを加工して作成
脚注2:矢向-Wikipedia(2024年7月19日閲覧) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2%E5%90%91

脚注3:橘樹郡 - Wikipedia(2024年7月19日閲覧) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%98%E6%A8%B9%E9%83%A1

脚注4:総務省. "市町村数の変遷と明治・昭和の大合併の特徴. " 総務省(2024年7月19日閲覧)
(https://www.soumu.go.jp/gapei/gapei2.html

脚注5:井戸庄三. 明治地方自治制の成立過程と町村合併. 人文地理. 1969, 21(5), p. 481-505
脚注6:横道清孝. "日本における市町村合併の進展." 自治体国際化協会・比較地方自治研究センター (2024年7月19日閲覧)https://www.clair.or.jp/j/forum/honyaku/hikaku/pdf/up-to-date_jp1.pdf
脚注7: tsurucoco. "鶴見区区制80周年." 鶴見区ぶらり絵日記. 2007-03-28. (2024年7月19日閲覧)





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