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106歳までコーヒー豆焙煎店を経営。“西荻のフォレスト・ガンプ”から考えるシニアのポテンシャル【超高齢化社会】

都内の西荻窪駅近くでコーヒー豆の輸入・卸および焙煎店「アロマフレッシュ」を営んでいた安藤久蔵さんをご存じですか。

ネット上で「風の便り」に聞いたのですが、2017年12月に亡くなられたとのこと。106歳まで現役でお店を経営されたそうです。


“西荻のフォレスト・ガンプ”と呼ばれた理由

安藤久蔵さんは85歳で起業して「アロマフレッシュ」を開店しました。

102歳のときに行った講演会のチラシにはすっかり定着した「西荻のフォレスト・ガンプ」の異名が用いられています。


映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』はピュアで善良な男・フォレスト・ガンプ(トム・ハンクス)が成功を収めるまでの激動の人生を描いた感動作です。

青年になったガンプはスニーカーを履いてアメリカ中を走り続けたことから注目を集めます。有名になった彼は成り行きからエビ漁業の会社「バッバ・ガンプ・シュリンプ」を設立するのでした。


安藤久蔵さんも波瀾万丈な半生を経て、成り行きからコーヒー豆輸入・焙煎店の経営者となりました。その生き様は映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』の主人公を思わせます。


85歳で起業するまでの経歴もすごい

私が安藤久蔵さんを知ったのは2014年にテレビで見た『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)がきっかけでした。

安藤さんは当時102歳で「アロマフレッシュ」のコーヒー豆を自転車に乗って配達していたのです。颯爽としたその姿は、70代といっても通用しそう。

番組がまとめた安藤さんの経歴によると、大学卒業後に大手商社に就職したといいます。しかし真面目に働いても指示ばかりされる社風が合わず半年で退社すると、自家の水産会社を経営することに。

しかし50代でリタイア宣言して、大学時代に山岳部だったことから趣味で山登りにハマります。海外にもよく行き、アフリカ大陸の最高峰キリマンジャロをはじめ山々に登るうち現地の人々と交流するようになったのです。

彼らは現地で栽培したコーヒー豆を先進国のコーヒー会社に卸すのですが、手にするお金は雀の涙でとても納得できる額ではありませんでした。

キリマンジャロで知り合った友人に依頼された安藤さん。自らのそのコーヒー豆を適正な価格で買い付けて販売するため「アロマフレッシュ」を設立したのです。

昨今は貧困のない公正な社会をつくるために途上国の生産者と先進国の消費者が対等な立場で行う貿易を「フェアトレード」と呼んで推進しています。個人の判断でそれを行動に移した安藤久蔵さんは草分けと言えるでしょう。


100歳超ならではの仰天体験

安藤久蔵さんが2012年に行った講演会で話したところによると、若い頃は銀座のカフェで文豪の井伏鱒二や作曲家で指揮者の山田耕筰、映画監督の小津安二郎といった著名人に会うことも少なくなかったとか。

特に井伏鱒二とは親交が深かったようで、家を訪ねたときは奥さんからお昼をご馳走になったといいます。しかも井伏からまだ書生だった太宰治を紹介され、太宰の家にもよく遊びに行ったそうです。

お見合い結婚だったという安藤さん。お嫁さんはなんと鍋島家の方で乳母を二人も連れていたとか。安藤さんは妻を「姫殿」と呼び、「姫殿、お目覚めですか」と朝のご機嫌うかがいを欠かさなかったらしいですよ。

そのような講演会の内容からも、ユーモアがあってサービス精神旺盛な安藤さんの人柄がうかがわれます。


高齢化社会の実態

東京大学高齢社会総合研究機構客員教授の秋山弘子さんは「高齢社会の新たな可能性」について次のように述べています。

高齢者で、病気になったり、介護が必要となる人が増えています。しかし、その一方で、元気で長生きする人もまた、増えています。

中略

今は退職後、長いセカンドライフが待っていますから、退職前とは全く違うキャリアを築くことにもチャレンジできるようになったのです。

『PUBLIC RELATIONS OFFOCE GOVERMENT OF JAPAN「HIGHLIGHTING JAPAN 活躍する高齢者」』


また内閣府が平成26年(2014年)度に行った意識調査にもとづく「高齢者の普段の日常の楽しみの実態」によると「1位 テレビ、ラジオ 83.2%」でした。

そんななか「18位 仕事(職業、家業) 12.7%」および「20位 社会奉仕、ボランティア活動 7.8%」となっています。

元気で長生きする人が増え、65歳以上とされるシニア世代は「長いセカンドライフ」に向けて日常の過ごし方を考え直すときではないでしょうか。


何もなければ家でボーっとしてしまう

安藤久蔵さんは100歳のときにインタビューを受け、「講演会」の活動について語っています。

老人を外に引き出して、皆で話すような活動をしているNPOがあるんですが・・・そこでお話をさせていただきました。

たとえば,この100m四方に90歳以上の方が4人いるんですが、何もなければ家でボーっとしてしまうでしょう。そういう人が外に出かけられるようにしていく試みです。

『M-Review :編集長 坪田一男の「百寿者に訊け!長寿のヒケツ」山がつないだ友情!85歳で企業の経営者』


講演会などで安藤さんのお話しを聞いたり、メディアやSNSによる発信でその生き様を知った人々の多くが「人生」を見つめ直したことでしょう。

安藤久蔵さんは天寿を全うされましたが、シニアたちに「何もなければ家でボーっとしてしまうよ」と課題を投げかけていたのかもしれませんね。


※参考にした記事やSNSなど

西荻窪 の有名人 #安藤久蔵 さんが年末に亡くなっていた
西荻窪案内所「茂り、そして土に帰る 2017-2018」
西荻のフォレスト・ガンプ安藤久蔵さんの講演会概要
安藤久蔵さん連続講演会 第10回
『フォレスト・ガンプ/一期一会』は映画界に残したものとは?
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.12

編集長 坪田一男の「百寿者に訊け!長寿のヒケツ」山がつないだ友情!85歳で企業の経営者
PUBLIC RELATIONS OFFOCE GOVERMENT OF JAPAN「HIGHLIGHTING JAPAN 活躍する高齢者」
健康長寿ネット「高齢者の日常的な楽しみ」


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