見出し画像

【詩】暗がりの天使

祈りが届いたのかもしれない
願いが叶ったのかもしれない

ここではないどこかへ行きたかった
何もかも忘れて
誰からも忘れられて
ただただひとりになりたかった

電話のコードを抜いても
スマホをオフにしても
たとえ今のアパートを引き払っても
私は私を消すことはできない

私の記録はどこかにあって
私のことを知ってる誰かに
私のことを知らない誰かに
必ず探し当てられてしまう

なんという安心感
なんという絶望感
本当にひとりきりになることはできないのだ

どこにも行けず
どこにも自分の居場所を見出すことができず
ただただ歩き回った今日

夕暮れが終わり
夜のヴェールがけけられる
点々と光るスパンコールは星の輝き
それともビーズの煌めき

新月だから星のおしゃべりだけ
新月だから夜の女王はいない
新月だから光は小さい

二百年も前なら
真っ暗闇だったでしょう
静かな暗がりに身を潜め
ほっと息もつけたかもしれない

新月の日でも夜は明るい
星のおしゃべりだってささやかだ

明るく照らし出す人口の光は
誰のことも照らし出す
隠れることはできない
誰も何も暗がりに逃がすことはしない

ひとりになりたい
何もかも忘れて
ひとりになりたい
誰からも忘れられて
今の自分のまま
生まれたばかりの自分に生まれ変わるのだ

何も知らない
何もわからない
誰も私を知らない
誰のこともわからない
どんな世界が広がっているのだろう

本当に願っていたのかもしれない
本当は願っていなかったのかもしれない
祈りのような気持ちは天に届いても
お月様は知らないはずだ

人口の光が照らし出しても
暗がりが消え去るわけではない

それどころか
黒々と深くなったのかもしれない
二百年前よりもずっと濃く深く

暗がりで何かがささやいた
願いを聞きましょうという
後ずさるひまもなかった
引っ張りこまれたわけでもない
だからといって自分から足を踏み込んだわけでもない

ただ気づいたらこにいた
今までと違う場所に
私のことを知るひとがない場所に

ただ記憶だけは手放さぬままに
なぜだろう
なぜ記憶だけは持ったままなんだろう

暗がりにいた何かがくすくすと笑う
記憶は手放さぬ方が良いですよ
何かと便利ですから

暗がりにいた何かが姿を現した
白い翼をもった女の子だ
なのに漆黒の闇のような印象だ
頭にはわっかがある

天使だ
天使だと思った
天使らしくない
だけど天使だ

天使の足元で黒猫がにゃんと鳴いた


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?