チャリンチャリン太郎【ショートショートnote】
昭和の終わり、関西のとある盆地に古い寂れた団地があった。
賑やかな時代は去り、魂が抜けたような薄暗い街並み。太郎は祖父母の住むその団地で夏休みを過ごすことになった。
3日ほど経ったある夜、遠くから『チャリン・チャリン』と鈴のような音が聞こえてきた。祖父母に聞いてもそんな音は聞こえないという。
けれど、その音は夜ごとに近づいてくる。太郎は布団をかぶって震えていたが、何日目かにどうしても正体を確かめずには居られなくなった。
その日、窓を少しだけ開けてみると鈴だけでなくお経を唱える声がする。
姿を確かめようと首を伸ばすと、不意に音が途切れて太郎の視界が真っ暗になった。
悲鳴を上げたかったが怖くて声も出ない。そいつの手が太郎の顔を自分の腹に押し付けていたのだ。そして太郎はその腹から響いてくる声を聞いた。
「私は捨てられた夢を供養している。お前はまだ耳を塞いでいなさい」
以来、チャリンというお金の音が、太郎にはあの錫杖の音に聞こえる。
(410文字)
ペンギンのえさ