泡沫ノ調(うたかたのしらべ)
『途上、中間』 透

『途上、中間』 透

泡沫ノ調(うたかたのしらべ)

「『あの世』って、天国かな地獄かな」
 横から声がした。私は、遠くを見つめたまま、少しだけ頭を回した。
「さぁ、でもどうして?」とりあえず言ってみる。
「だってさ、『あの世』ってネガティブな言葉に思えるじゃん。だっ
 たら地獄かな?」
「さぁ、さっぱり」こんなことを考えても、どうせ変わらない。答えを出しても、答え合わせはできないのだから。
「地獄って、どう思う」横が言ったみたいだ。この話題はまだまだ続くようだった。
「苦しみ、とか」お望みはこういう答えかな?
「そうそう、何かと痛そうだしね」向こうが言う。「罪をおかした人                         
間が行く場所だよね」相手は同意が欲しそうだった。
「裁かれるところ」
 遠くを見下ろしながら、吐きだす。下の方は忙しそうだった。
「でも、罪を犯さない人間なんているかい?全員地獄行きかな。君 
 はどうだったの」
 たくさん悪いことをしてきたと思う。
「少なくとも、罪を犯したことはあるはずだ」
 勝手に話が動いていく。
「地獄送りは、回数制かな、ポイント制かな、それとも罪悪感かな」
「人をころしたら百ポイントとか」私は試しに言ってみる。
「人を殺した奴なんて、すぐに殺して、地獄でも殺せばいい。いや  
 殺しても足りない。全然、足りない」横が言った。これまでよりも、速くもなく、遅くもなく。強くもなく、弱くもなく。吐きだしていた。私は心の中だけで謝った。
「じゃあさ、天国ってどう思ってた」けろり、として空間の共有者は言った。
 私は、空を眺めながら考えた。空は私の望んだ通りだった。青の生地に小さい白の刺繍。
「すべての、苦しみ、悲しみ、から解放される場所」自由な場所。
「夢みたいだよね。本当だったら」隣が言う。「でも、それって無理なのだよね。すべての悩みから解放するのはさ。公平に全員を幸せにする、なんてことは」
「そうだよね、今、考えれば」
 下を蠢く人々や車を見る。
「あれは天国に近いかな、それとも地獄かな」隣に問われた。
「中間地点ぐらい」私は思った。
 私たちは〝それ〟を鑑賞した。少しだけ、可笑しかった。
 でもいつも私が溶け込んでいたものだと考えると、途端につまらなくなった。一瞬でも可笑しいなんて考えた自分が、嫌になった。
「いやー、面白い」隣が言った。そいつはまだ世の中を眺めて楽しんでいるようだった。
「こんな時間なので、これで……」私は、ありもしない時計を探しながらいった。あいつは、こちらには目もくれず、何やらぼそぼそ言った。
 私は、一、二歩下がって背を向けた。
 さてこれからどうしよう。辺りを見渡す。あれ、おかしい、変。

 えっと、私は〝ここ〟に階段で来たのだっけ、エレベーターだっけ。おかしいな、どうやって〝ここ〟に来たのだっけ。

 こんなところ、どうすれば来れるのだっけ?

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泡沫ノ調(うたかたのしらべ)
私たちは、某高校の文藝部です。 拙い作品ばかりですが、読んでいただけたら幸いです。