窓越しの世界・総集編 2017年7月の世界
7/1【20年の叡智】
声は気圧で生まれる。体の中で圧力を生み出して、解放する。
たったそれだけのことを見つけるのに、20年かかった。
これまでの叡智をどこへ向けていけば良いのかは、定まった。
7/2【答えに応えるということ】
午後の光が燦々としてきた。予報外れの木漏れ日を前に、この幸せの解釈を考えている。
単純明解な答えを、私は知っている。
そして、その答えに応えることがどういうことかも。
7/3【光化学スモッグ】
屋根の上からの景色。同じ場所を違う角度から眺めるということを知ったのは、たしか、いつかも屋根の上だった。
霧が晴れたように爽快な瞬間も、慣れてしまえばどうってことない。
そんなことよりも、汗が吹き出る。光化学スモッグ注意報発令中。
7/4【面影】
馴染みの街。面影の染み込んだ路地。腰を下ろした五日市街道沿いのハンバーガーショップ。
もう随分歳月が経って、私はきっと変わってしまっただろう。
ひょっとすると、ちっとも変わっていないのだろう。
7/5【季節の幕開け】
台風が行って、蓮の花がひらいた。台風だってことは、過ぎてから知った。
雨風の昨日。曇り空の今日。明日色の夕焼け。
印象的な季節の幕開け。
7/6【歌いたいだけ】
昔は作りかけの曲をよく歌った。
少しだけ出来ている、お気に入りのフレーズをただ、歌いたかった。
ただ、歌いたいだけだった。そんな気がする。
7/7【七夕の夜】
夕暮れとともに心地よくなってゆく風に、ほんの少し感謝していた。
ほんの少しといっても、とっても気持ちがこもっていたと思う。
7/8【かつての私には】
歌う理由が、胸のどこかの隙間から顔を覗かせている。
かつての私にはそれが全てだった。
7/9【知ること】
知らないことというのは素晴らしい。
知っているということは歯がゆい。
知りたいと思う気持ちは尊い。
知りたくないことを知ることもある。
知る必要のないことが、溢れている。
7/10【ブックサーフ】
あてもなくうろうろする。
数え切れない背表紙の中でたどり着いた一冊の本。
インターネットの中では決してたどり着かなかっただろう。
ブックサーフは本屋に限る。
7/11【青春】
暑さの中の無音に少しずつフェードインしてくる夏の音たち。
心と体。
青春は心が老いた時に終わると、テニスコートの老人はハツラツとして言う。
7/12【法の中】
さいたま新都心へ向かうのどかな景色。初めて走るはずの景色になんとなく見覚えがあるのは、北埼玉の都会でもなく田舎でもない独特の雰囲気を知っているせいだろうか。
私は私が頼もしくもあり、私は私が頼りなくもある。
弁護士と話すのは初めてだった。私たちは法の中で生きている。
7/13【この夏】
早朝に目が覚めて、ギターを手にとる。
自然とギターを手にしている。
この夏は、あの夏にも、あの夏にも似ている。
7/14【過剰演出】
空が劇的で、遠い。
同じ世界のものとは思えない圧倒的なスケールで否応無しに夏を演出している。
梅雨明け宣言はまだ出ていない。
7/15【時に孤独】
小諸から八ヶ岳へむかう峠らしい峠をいくつか越えた頃、急に寂しさが込み上げてくる。
灯の全く無い闇と、さっきまでの賑やかさ。
人から人を渡り歩くことは、幸せで、時に孤独。
7/16【ジェイムス・テイラーのMC】
「この曲が何を意味しているのか? 作っている時には理解できないことがある。」
そんなジェイムス・テーラーのMCを引用できる曲が、僕にもいくつかある。
傾斜のゆるやかな草原で歌うときも、小さな部屋で歌う時も、同じようにその話をした。
7/17【それぞれの帰り道】
祝日の珈琲店は和やかに賑わい、まだまだ暑さを愛おしめるくらいの初夏を満喫できる具合。
鳥のさえずりで目覚めた朝は瞬く間に行った。夕方にはアスファルトひしめく東京での演奏。
たくさんの人の背中を見送った。それぞれの帰り道を思った。
7/18【私には大きすぎる】
箇条書きに少しずつ斜線が入る。レシートの束も目の前から消えて、玄関に旅の支度が溜まっていく。
ギターを抱えるころには、すっかり日も落ちていた。
この国のことも、世界平和のことも、私には大きすぎる。
7/19【歌を愛している】
音楽に感謝している。その多くは歌に。
歌は、なかなかうまくいかない。
それでもずっと、ここにあって僕のものだ。
うまくいかないのは、歌だけであってほしい。
僕は、歌を愛している。
7/20【話】
少し話をするだけで、なんとなく通じ合える事がある。
話をするほどに、通じ合えなくなる時もある。
7/21【坂道】
坂道を登るほどに深まる闇。
坂道を下るほどに露わになる世界。
7/22【混在】
考えることから遠ざかること。
それ以上に近づくこと。
いつでも混在する。
7/23【もしも】
もしもは重なっている。
もしもを考える。
もしもが私を離してくれない。
7/24【環状と感情】
環状線から環状線へ。
感情から感情へ。
7/25【後味】
なんとも言えない自己嫌悪感が続いている。
偉そうなことを言った後味。
7/26【花火の音】
役割を与えること。与えられること。
この場所からの景色をそんなフィルターで見ることに意味はないけれど、私はその時、自分に与えられたものに感謝していたと思う。
胸を叩く花火の音。なんとなくドキッとした時の胸の振動に似ていて心地いい。
7/27【くちびるに歌を】
私はしばし懐古主義。今を思う時さえ、どこか遠い未来からの眺めを想像する。
唇に歌を持ったたくさんの時代を、いつだって愛おしくて歌にしている。
7/28【とても自然に】
湖畔に佇む小さなモール。15分間の花火大会。てっぺんの見えない針葉樹。
めまぐるしく変わった場面を、雰囲気のいい間接照明とさっきより少し暗くなったダウンライトの下で思い返していた。
人生の中にはどうしても忘れられない日というのがあるものだけれど、今日がその日だということがとても自然に想像できた。
とても自然に。
7/29【音楽は嬉しい】
何度目かの甲府盆地の夜景を眺めながら、話は尽きることなく続く。
音楽が愛おしいことを思い出した僕は、それ以上にもっと新しい何かを感じていた。
音楽は嬉しい。
7/30【約束はいらない】
どこかでまた逢えるということは知っているから、手を振って、ただそれだけ。
夏の光の白さが、眩しい。
約束はいらない。
7/31【7月最後の日】
週末をまたいだテラスには、硬くなった抜け殻がちらほら。
今年も空耳のように始まった蝉の音が、今ではけたたましくこの場所を包み込んでいる。
氷がグラスに触れる心地よい響きと、かき氷機の下で涼しげに積もる白い頂き。
7月が終わる。
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