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又吉直樹「人間」の加筆に思うこと

又吉直樹さんの「人間」に加筆、文庫化されたということなので早速拝読しました。

1万字に及ぶそれには、当時世間を賑わせていた事への言及があり、当事者達に近い視点を持てる者だからこその説得力を持った視点と思いが綴られていました。

読みはじめて、今?今か〜!と、いい意味で面を喰らい一気に読みました。
そして、又吉さんらしいなと。先日配信したPodcast(後半の方)でのお話にもあったような、’’考えを咀嚼する時間経過’’によって、まさに今なのだな、と。決してそれだけでは無いはずですが。

当たり前のことを書きますが、小説というのは、書き手にも読者にも時間を与えてくれます。つまり「時間の猶予によって生まれる気づき」を教えてくれます。

リアルのタイムラインはとても魅力的なものですが、時間の猶予はほとんどありません。一瞬の判断で、しかも少ない情報量によって人は次の瞬間に移行することを促されます。

今回の加筆を読んで、又吉さんは世間が忘れていったことを、ずっと考えて何度も咀嚼して、やっと表に出せたのだろうなと思いました。

描こうとしていることと、伝えようとしていること、その平衡感覚が絶妙で、それは小説という表現方法でしか効果が得られないような伝播なのかもしれません。

後書きにこんなことが書いてありました。

「生きるために書いたから。」

言い換えると、書かなければ死んでしまう。

僕もそれと似たものとしての歌があったのかも知れませんが、きっと多くの人が、方法は違えど、生きるために何かしらの方法でバランスを取っているのだろうなと思います。ただ、それぞれに委ねられているバランスの取り方の、その矛先を、間違った方に向けてしまうことは、人を死に追いやり兼ねないということ。また、そのツールが安易に生活の中にある「現代社会の抱えている不協和音」としての啓示が、この「人間」の加筆から感じられたことです。

あんな風に小説の中で展開されると、自身のおぼろげな解釈に輪郭が生まれて視界が少し広がる。共感の色彩が豊かになる。

又吉さんの作品には全体を通じてそんな印象を受けています。

かつて僕は、情景描写に文学の素晴らしさを魅ていましたが、又吉文学に触れてからは別の良さにも気がつきはじめています。


【公演情報】
イベントタイトル:FIELDS
◉5月27日(金) 表参道 WALL&WALL
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,500円 / 当日 5,000円
出演:笹倉慎介・又吉直樹
(笹倉慎介バンドセットBass 千葉広樹 / Drums Senoo Ricky)
◉受付URL https://puffin.zaiko.io/e/fields01
主催:PUFFIN RECORDS

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