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「はじまりの灯り」演奏者紹介・三人目の灯り|鍵盤「谷口雄」

待ち合わせの場所は八幡神社の境内だった。
年に一度の祭りの日で、その日の僕たちは一日中guzuriの床磨きをして、その後僕らが住んでいる町の祭りで落ち合うことにした。

東京の家に越してからすぐ、谷ぴょんの家も近いと知った時はとても嬉しかった。ご近所に一緒に音を出すミュージシャンが住んでいるというのは、、初めての状態で、頻繁に会うわけでも無いんだけど、なんだか妙に心地が良かった。

例えば、毎日は行かないけど、、すごい好きな料理屋が近くにある生活?みたいな?

賑わう境内の片隅に出ているおでん屋に腰掛けて、竹下通りみたいに混雑している祭りの中で乾杯をした。

OLD DAYS TAILORを始めるよりももっと前の初秋の夜。

一緒に音を出す時も、祭りの屋台で呑んでいる時も、谷ぴょんの居心地の良さの様なものは、なんとなく同じ。
僕よりもはるかに音楽に詳しい谷ぴょんの沢山の引き出しの中から、僕が知っている言葉を丁寧に汲み取ってくれるから、僕は安心して音を任せていられるんだろうな。

あと、僕が音楽に向かう時というのは、猪みたいに周りが見えていなくて(僕の人生もそんな感じなんだろうけれど)谷ぴょんはきっと、そんなフロントマンをたくさん横から見てきたんだろうな、って思う。

なんというか、、古本屋の店主の様な信頼感が、谷ぴょんのプレイにはある。

初版がいつのタイミングで改訂版に変わったのか、とか、宇宙のことはまだ誰も本当のことを知らないってことだったり、神様が、いたり、いなかったりすること。あの人の本当が、誰かの嘘だったり、僕の幸せが、誰かの悲しみだということ。

指先の確かな音楽家は、その事をよく知っている気がする。
それは僕の勝手な思い込みかもしれないけれど、そんな気にさせてくれるのだ。

だから、僕が「銀河を知りたい」と言えば、とっておきの本を古い本棚から選んでくれるだろう。


僕の記録では、2016年10月1日。
あの日はまるで放課後の様な相づちを交わして、2台の車は入間を出発した。

「じゃあ、後で!」

数時間後の僕らは秋祭り喧騒の中で、どんな話をしていたのだろうか。

guzuriの床が西日でキラキラする季節を僕はもう二度と見ることはないけれど、一緒になって磨いてくれた谷ぴょんの姿を覚えている。

もちろん、数々のレコーディング風景も。

(笹倉慎介with森は生きている、レコーディング風景)スクリーンショット 2020-05-24 12.24.40

谷口雄 
1985年東京生まれ。幼少時よりクラシックピアノを磯崎淳子氏に師事。バンド、森は生きているのメンバーとして2013年にCDデビュー。2015年の解散後は、様々なミュージシャンのライブ/レコーディングに鍵盤奏者・アレンジャー・プロデューサー・エンジニアとして参加している。アメリカンポップスやルーツロックへの偏愛から、ライナーノーツやディスクレビューなどの執筆も多数。その豊富で偏執的な知識を活かし、2016年よりトークイベント「谷口雄のミッドナイト・ランブル・ショー」を毎月開催、また2017年には映画「PARKS」に出演するなど、活動の幅を広げている。


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