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春の息吹

久しぶりに、朝の散歩に出かけた。
昨春から夏にかけてよく歩いた散歩道には、いつの間にやら花がほころび、若い葉が賑やかに芽吹いていた。
花に誘われるチョウやミツバチのように、あちらこちらに吸い寄せられるようにして、スマホのカメラを向けたり、匂いをかいでみたりした。
春の息吹に触れるということをしてみたのだった。

「春の息吹」という言葉はよく耳にするが、夏や秋や冬の息吹はあるのだろうか?
ふと気になった。
ネットを探ってみるとあった。
夏も、秋も、冬も、あった。
「夏の息吹」は歌のタイトルだった。
「秋の息吹」は春と同じような使われ方で、紅葉している状態を示していた。
「冬の息吹」はカードゲームのアイテムだったり、歌のタイトルだったりした。
どれも辞書サイトではないので、造語の可能性もある。
では、世の中の作家先生たちの使い方はどうだろうか。
青空文庫で検索してみた。


「わが思想の息吹」(坂口安吾)「真ツ赤な気孔の息吹」(ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー, 中原中也訳)「神のいぶき」(齋藤茂吉)「新時代の息吹」(岸田國士)「聖霊の息吹き」(太宰治)「山の源始の息吹」(高村光太郎)
(出典:青空文庫)


さすが大先生たち。使い古した感のある「春の息吹」などあっさり飛び越えて、「刮目して見よ! これがわしの息吹きだ!」と言わんばかりの輝きである。

先人のように自在に言葉を操れたなら・・・と撮った写真に納めたわたしの息吹を眺めていた。

(了)

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