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2019.11.10 ザ・きょんスズ30の思い出(その2)

清々しい秋晴れの日。曽祖母の形見の軽めのコートを羽織って出かける。
電車を乗り継ぎ、下北沢のザ・スズナリに到着すると、休日の昼間ということもあり、前回とはまた違った雰囲気である。

本日は、公演全体としては9日目、個人的には2回目のきょんスズ30であり、あらかじめ死神が口演されることが予告されている。

例の通り階段を上り、チケットを提示する。入り口をくぐると、イラストが描かれた色紙が増えている。なるほど、これまでの積み重ねと、これからの道先が一目でわかる。ロビー的な空間では、本公演のために特別に製作された手拭いの注文を受け付けていた。その場で販売ではなく、受注生産だそうだ。堅実な感じが喬太郎っぽい。1枚注文。

会場に入ると、私よりも若そうな、学生風の男女も結構いる。この若者たちはどうやってここまで辿り着いたのだろう。私ももっと早くこの世界に気づきたかったとも思うが、かなりナイスなタイミングで辿り着いたような気もする。
座席を確認すると、今回は後方左寄りの席である。落ち着いて聴けそうで安心する。

開口一番。柳家やなぎ。柳家さん喬の11番弟子だそうだ。一門に前座がいないから二つ目の人(小んぶ、やなぎ、小太郎)が交代で開口一番をつとめるらしい。本題は、初天神。終わるとお辞儀もそこそこにそそくさと帰っていく。がんばれ。

続いて喬太郎登場。「今日は落語聴いてる場合じゃないですね、しかも死神って!」
(今日は台風で延期になっていた即位のパレードの日である。)

飲みの話〜地方に行ったときの話。
「名古屋とかはいいけど、豊橋とか中途半端なとこ行きたくない。そういえばね、上野鈴本で10月上席トリとってたんですけど、出番前にちょっとお腹に入れたらちょうどいいなあと思って、ガストに入ったらトロロご飯入りカレーうどんというのがあった。トロロご飯は中に入れるものじゃないですよ、隣にあるものですよ、隣のトロロ照。どうやら豊橋の名物らしい。愛知の方いますか?」
男性1人挙手。
喬太郎「愛知のどこですか?」
男性「豊橋!」
客席「ドッ」
食べてみた感想。
「自分で入れるから!味噌汁にご飯入れるの好きですけど最初から入ってたら嫌ですもんね。」
そのとおり!
カレーとご飯が混ざらないようにじゃまするトロロの擬態。
「私が今困ってるのはこんな話をしてなにをやるかということです。」
からの夜の慣用句。キャバクラのソファの弾力性。
「勇気を出して下ネタいってみました。普段寄席では言えないからね。自分の会でも引かれることあるんですね照。」

続いてゲストの笑福亭松鶴。角刈りの上方の人。ますだおかだにヘリポート師匠と呼ばれているとのこと。四国に学校公演行った時の話で、乗り換えの話とか説明細かい笑。住吉駕籠という噺。ウケていた。

そして、喬太郎再登場。枕なしで死神。

「あじゃらかもくれん、下北沢、手荷物検査はありません。」

薬を所望されて大根の葉っぱの萎びたのをお使いの小僧にあげる。
小僧「やっぱり煎じるんですか」
男「うーん、煎じてもいいし、、、お味噌汁に入れてもいいし」
小僧「おみおつけにですか!?」

親戚同士で話し合うと、伸ばして欲しい寿命が短くなって出せるお金が増える。
枕元の死神がいねむりするのを待つ夜、犬の遠吠え、夜が明けて雀の鳴き声。
ぎゃあ、と声を上げて消える死神。
なんでもっと早く気づかなかったんだ!ギャハハ!、と意地汚くわらう男。
コミカルに描かれたキャラクターの中に人間の業みたいなのが詰まってる。

死神に蝋燭がある穴に連れて行かれるシーン。会場がうす暗くなって舞台上が蝋燭のオレンジっぽい赤色の照明で照らされる。

男「これはどんな野郎の蝋燭?」

死神「こんなに多くの蝋燭がある中で息子の蝋燭に一番に目がいく。そういうやつだからこそ助けたのに」

助ける気あったんだ。

男「脅かしっこなしだよ!」

死神「消えた。」

余韻で蝋燭に火を移す動作を続ける男の肉体。
数秒の後に魂が完全に切り離されてバタリと倒れて暗転。

笑いどころも外さず、叙情的なところで浮かんできた映像、無常感。わすれたくない。

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