{二次創作 短編小説の導入}東方プロジェクト 散りつ咲きるる恋紅く

「文、さん・・・」
遠くに。
文さんの声が、遠くに聞こえる。
「あ、や・・・さ・・・」
ごめんなさい、文さん・・・。
最後くらいは。
嘘、付きたくなかったな・・・。

朝日。
鳥の鳴く声。
二人隣り合わせに並べた布団に眠る文と椛。
「もう、朝か・・・」
椛が体を起こす。
隣の文は布団も掛けずに寝たままで、近くの机には書きかけの原稿
「文さん・・・」
(また朝方まで原稿か・・・)
椛は少し寂しそうな表情のままその部屋を後にする。

台所で朝食を作る椛。
「今日からまた遠征なのに・・・」
二人分の朝食が並んだ食卓を前に、一人手を合わせて食べ始める。
すると、居間の扉が開いて文が顔を覗かせる。
「・・・椛、おはよう」
「あっ、文さん・・・!おはようございます・・・!」
ちょっと嬉しそうな椛。
対する文は眠そうな顔で髪はボサボサのまま朝食を食べ始める。
「あの、文さん」
「ん?なんですか」
寝不足でちょっと不機嫌そうな文の視線に言葉を詰まらせる椛。
「あの・・・原稿は・・・」
「あぁ。一応間に合いそうですかね」
黙々と朝食を食べる文。
「そ、そうですか・・・。あの、私、今日から遠征で・・・」
「そうですか」
特に関心も無さそうに言う文。
早々に朝食を食べ終え、文は立ち上がる。
「朝食、ごちそうさまです。やることあるので、部屋に戻ります・・・」
文が立ち去った後には、寂しそうな椛。
「文さんだって、忙しいんだし・・・」
言い聞かせるように言うが、それでも気持ちは沈んだまま。
(せめて、もう少し何か言ってくれたっていいのに・・・)
椛はちょっとむっとしたような顔でご飯を掻き込んだ。

遠征の準備を済ませ、文の部屋の前に行く椛。
「文さん?」
椛の声に少しイラっとしたような文の声が返ってくる。
「・・・なんですか?今忙しいのですけど」
「あの、今日から遠征に行ってくるので・・・」
「あぁ、そうですか」
素っ気ない文の返事に、少し寂しそうな表情で佇む椛。
そんな椛に、
「なんです?まだ何か用事でも・・・?」
「いえ、特には・・・」
「ならもう行ってください。集中力が乱れます」
その文の言葉に、何も言えない椛。
辛そうな顔でその場を走り去る。

玄関の扉に手をついて、頭を垂れる椛。
(確かに、文さんには私の遠征なんて、関係ないのかもしれないけど。でも・・・!)
「私は、ただ・・・!」
力いっぱい扉を開け放って駆け出す。
椛はそのまま家を飛び出していった。

思いっきり玄関の扉が開け放たれた音に文が少し驚く。
文の机には原稿ではなく別の天狗の新聞。
『凶悪妖怪討伐作戦、再開』と大見出しで書かれていた。
「椛・・・」
文は複雑な表情で玄関の方を見つめていた。

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