就業規則と給与

雇用契約は契約です。
契約である以上、一度決めた内容は勝手に変えられないのが原則です。契約は合意により成立するのと同様、変更も合意によるのが原則となります。
給料その他の雇用条件はまさに雇用契約の内容なので、雇用主が労働者の同意なしに変更することは、本来の契約の考え方からすればできないはずです。

しかし、雇用主は「就業規則」というものを作成することができます(労働者が常時10人以上になると作成義務になります。)。
就業規則は、労働条件を一方的に定めるもので、学校の校則のようなものです。たとえ、労働者が入社時に就業規則の内容を知らなかったとしても、就業規則に書かれている内容は、ちゃんとしたものであればそのまま雇用契約の内容になります(就業規則より労働者にとって有利な取決めを雇用契約でした場合は、雇用契約の内容が優先されます。)。
そして、個別の学生の同意がなくても学校が勝手に校則を変更できるのと同じように、就業規則は、労働者側の意見を聞いたうえで、たとえ労働者の反対があっても変更することができます。
これが単純な契約とは異なる部分です。雇用主は、就業規則を変更することによって、一方的に雇用契約の内容を変更することができます。
雇用主にこのような権限が与えられたのは、雇用主が労働者を簡単にはクビにできないことの裏返しです。つまり、クビにできないならせめて条件の変更を認めようというわけです。

もっとも、雇用主の好きなように変更ができるわけではありません。あくまで法律に反しない範囲での変更のみが許されます。
また、その内容は、合理的な変更でなければなりません。特に給料は労働者にとってかなり重要なので、給料が下がる方向で就業規則を変更する場合は高度の必要性が求められると言われています。

したがって、一度給与額を決めてしまうと、そう簡単には下げられないので、最初に設定する給与額がとても重要ということになります。同様に、一度昇給されれば元に戻すことは原則できないことになります。新卒の初任給は低めに設定されることが多いですが、これは給与は下げるのが難しいことが一つの原因です。最初から高い給与を決めてしまうと後から下げられないので最初は低くするしかないのです。また、なかなか昇給しない、昇給しても僅かだけ、というのも同じで、給与は下げられないので、昇給は慎重になるのです。

この他、給料に関するルールがいくつかありますので、記しておきます。
・通貨払いの原則
 給料はお金で払わなければなりません。物やサービスを与えて給料の代わりにすることはできないということです。
・直接払いの原則
 本人に渡さなければなりません。本人の代わりに親に渡すことも基本的にできません。
・全額払いの原則
 文字どおり全額を払わなければなりません。つまり、原則として給料から何か差し引くことはできないことを意味します。ただし、源泉徴収は法律で認められているので問題ありません。
・月一払いの原則
 毎月1回以上、決まった日に払わなければなりません。年棒制にしたとしても、月割りにして、毎月1回以上、決まった日に払います。