飽きることなく、いつもそばに在るもの

面白かった漫画、好きな漫画はいくつもありますが、「自分を構成する漫画」となると数は限られてきますね。それでも5作品に絞るのは難しかったかもしれません。
自分の好みや人格の形成に多大な影響を与えたと考えられる漫画という点で選んでみると、ほぼすべて小学生時代に出会った作品という結果に…。1作品ずつ熱く語りたいところですが、ここはできるだけさらっと書いてみます。


1:『四谷快談』手塚治虫

手塚治虫先生の短編です。私が手塚治虫という人を正確に認識した最初の作品だと思います。
戦後間もない時代の、隻眼の少年とキュートで明るいお岩さんの物語は、私に「ストーリーとはこうやって作るものだ」と教えてくれたような気がします。ギャグに笑い、お岩さんの可愛さにノックアウトされ、ラストシーンに涙する…。小学生だった私の心に、甘くて爽やかで切ない、非常に強い印象を残しました。

大人になってから収録されているコミックスを探して買ったものの、誰かに貸したまま返ってこないので(泣)、少々記憶が曖昧なのが悲しい。もう一度買おうかねえ。


2:『ブラック・ジャック』手塚治虫

『四谷快談』にあまりにも感銘を受けた私は、親戚が所持していたものの「手術シーンが怖い」からと手を出せずにいたこの作品を貪るように読み、またまた非常に心を揺さぶられることとなりました。天才外科医のブラック・ジャックが、時に命を救うことの虚しさと戦いながらも奇跡の腕を振るっていく、説明不要の名作ですね。

ほとんどが1話完結の短編で構成されていますが、凡百の作家が一生かかってやっと1本書けるんじゃないだろうかと思うような傑作も短編として惜し気もなく詰め込まれていて、きっとひとつは胸を打たれるエピソードに出会えるのではないでしょうか。

私がいちばん好きな話は『報復』。『幸運な男』や『二つの愛』、『六等星』、『犬のささやき』あたりもめちゃくちゃ好きです。『犬のささやき』は相当ブラックな話なんですが展開が上手すぎて大好き。ラストシーンに号泣してしまう『二つの愛』ですが、その冒頭で変なお寿司を頼んでる先生も大好きです(笑)。


3:『魔法の砂糖菓子』萩岩睦美

小学生の頃、私は長期間にわたっていじめに遭っていました。年齢が一桁だったその頃に、誰かから借りて偶然この作品に出会ったことは、ひとつの運命だったように思います。学校にも家にも居場所がない、つまり世界のどこにも居場所がなかった幼い私にとって、一見恐ろしいこの作品のラストシーンは、救いだったのです。

両親を亡くし、引き取られた親戚からも愛情を受けることなく育つ主人公・マリーが見た「夢」。可愛い絵柄とメルヘンチックな世界観に漂う残酷さと寂寥感、そして救済。短編ながら、非常に深い作品です。今もハロウィンの時期になると決まって思い出してしまいますね。
中学生くらいになって、記憶だけを頼りに収録されているコミックスを探し当てた時はそりゃあ嬉しかった。決して手放さないであろう1冊です。


4:『東京物語』ふくやまけいこ

徳間書店、大都社、早川書房、3つの出版社から発行されている版をすべて持っているほど好きな作品です。
ふくやまけいこさんとの出会いは親戚の本棚に見つけた雑誌に載っていたある短編でした。タイトルは覚えていないのですが可愛い絵柄と作品の雰囲気が忘れられず、偶然『東京物語』を読んだ時には探していたものを見つけた喜びに震えたものです。

出版社に勤める平介と、植物に詳しい青年・草二郎の二人が東京の街で出会う様々な事件を縦軸、草二郎自身にまつわる物語を横軸として物語は展開していきます。第十一話の『北から来た青年』がとても好きですね。ふくやま先生の作品には心底悪い人が基本的にいないのですよ。その独特の優しい世界観がよく感じられるエピソードだなと個人的に思っています。

好みのタイプを聞かれると今でも「草ちゃん」と答えそうになってしまいますが(笑)、年をとって読み返すと平介さんがいい男なんですよねえ。それでもやっぱり初志貫徹で草ちゃん。フォーエバー。
ふくやま先生の作品はすべて集めようと誓って長い年月。お財布が凍死しているため悲願の達成率は悲しいほど低いままですが、夢は捨てずにいようと思います(泣)。


5:『サイボーグ009』石ノ森章太郎

秋田書店のコミックスを親戚の本棚に見つけたのは小学生の時だったかと思いますが、その時は何となく怖そうな漫画に思えて読めずにいました。中学生になってから再び何となく手に取ると、めちゃくちゃ面白いでやんの。どうしてもっと早く気付かなかったのかと後悔しましたね。

サイボーグに改造された国籍も年齢も違う9人が、サイボーグゆえの孤独や悩みを抱えながらも様々な敵と戦っていく、言わずと知れた名作です。『サイボーグ009』という、シンプルながら非常にインパクトの強いタイトルからして素晴らしい。このタイトルに決まった時点で永遠の名作になることも決まっていたのだろうな、と思ってしまうほど。

読めるエピソードはすべて読んだと思いますが、やはり「地下帝国ヨミ編」のラストに勝るものはないでしょう。あまりにも壮絶で、これ以上ないほど美しい、漫画史上に残るラストシーンではないでしょうか。
何度も映像化されるほど長く人気を保っている作品でもありますね。すべてを見たわけではないのですが…。『誰がために』の名曲ぶりが年を取れば取るほど染みてきます…。


こんなところですかね。子供の頃に触れた作品は、水を吸うように自分の中に浸透していくものなのですね。自分が好きだと思うものの根底にこれらの作品があることを、こうして綴ってみると非常によく実感できました。
小さな器にもまだたくさん隙間があった頃にこれらの作品に出会えて本当に良かったと思っています。もし未読の作品がございましたら、何かの機会に是非読んでみてくださいね。

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主にフィギュアスケートの話題を熱く語り続けるブログ「うさぎパイナップル」をはてなブログにて更新しております。2016年9月より1000日間毎日更新しておりましたが、現在は週5、6回ペースで更新中。体験記やイベントレポート、マニアな趣味の話などは基本的にこちらに掲載する予定です。お気軽に遊びに来てくださいね。

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