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スイッチ

ピピピピピピ…ピピピピピピ…

「うう~ん」

バン

桐野慧は半分寝たまま、目覚まし時計のスイッチを押す。

すると、

ジャーーーーーーーーーーー

勢いよく台所の水が流れ始めた。

彼はそれをしばし呆然と眺め、それから慌てて起き上がって水を止めに行く。

何が起こったのかわからないまま彼はトースターに食パンを突っ込み、スイッチを入れる。

カチッ

その瞬間、

タン

部屋の照明が一斉についた。

彼は何かに気づいたかのように、急いでエアコンのスイッチを入れる。

その瞬間、

おはようございます、朝のニュースです。

テレビが動き始めた。

桐野は状況をつかんだ。どうやら、今朝は何かのスイッチが別のもののスイッチになってしまっているらしい。

彼は、このような異常事態に取り乱さないタイプの人間だった。むしろ、状況に適応し、それを楽しもうとすらしてしまう。

彼は様々なスイッチを押し始めた。

電動シェーバーのスイッチを押すと電気ケトル。

掃除機のスイッチを押すとドライヤー。

洗濯機のスイッチを押すとラジオ。

スイッチを押すと思いがけないところで思いがけないものが動き始める。

その快感がたまらず、彼は仕事に行くのも忘れて夢中で部屋中のスイッチを押した。

日が沈んで夜になった。桐野は部屋中のスイッチを押し切った。

もう押せるスイッチはない。

いろいろなスイッチを押し続けて荒れ果ててしまった部屋を片付けようと、彼は立ち上がった。

そのとき、彼の目に動く戦車のプラモデルが目に入った。

小学生の頃大好きだったおもちゃ。

あれには、スイッチがあるじゃないか。

彼は、興奮しながらそのスイッチを押した。

パチ

その瞬間、

ドサッ

桐野慧は倒れた。



<おわり>






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