生誕250周年「1か月でベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタと16曲の弦楽四重奏曲と9曲の交響曲をぜんぶ聴く!」⑭

14日目「ピアノ・ソナタ第21番ハ長調から25番ト長調までを聴く!」

9日目に聴いた作品31の3曲(第16番ト長調、第17番ニ短調、第18番変ホ長調)と作品49の2曲(第19番ト短調、第20番ト長調)以来、5日ぶりにピアノ・ソナタを聴きます。“作品番号順に”と投稿しておきながら、やや前後しています(汗)。

1.ピアノ・ソナタ第21番ハ長調作品53『ワルトシュタイン』(通称)

1805年に出版されたこの曲は、ベートーヴェンの故郷のドイツ・ボンのワルトシュタイン(ヴァルトシュタイン)伯爵に献呈されたことから通称「ワルトシュタイン」と呼ばれます。9日目に聴いた第17番ニ短調作品31-1『テンペスト』(通称)のところでも触れたように「六大ピアノ・ソナタ」と呼ばれる傑作の1つです。個人的には、1989年9月に日本で公開されたフランス映画『読書する女』という作品で主人公が川沿いの街(南フランスのアルルらしい)を歩くシーンでこの冒頭の部分が使われていてとても印象に残っています。タタタタタと駆けていくような和音と軽快なフレーズがくり返されるだけでなく、1回聴いただけで耳に残る個性があります。深々と美しいメロディーがつづられる第2楽章につづいて演奏される第3楽章はゆっくりとおちついていながら次第にスケールの大きな堂々としたドラマを描いていく構造になっています。

これも傑作なのでYouTubeで公開されている演奏のリンクを貼っておきます。今回はリシッツァではなく(笑)、2010年にCDデビューして話題になったユッセン兄弟(ルーカス&アルトゥール・ユッセン)の兄、ルーカスが2014年に韓国・ソウルで演奏したものです。

2.ピアノソナタ第22番ヘ長調作品54

2楽章形式で、先ほど聴いた傑作の第21番と有名な第23番ヘ短調作品57『熱情』(通称)のあいだにはさまれて目立たない存在です(笑)。やさしくほほえむように始まる第1楽章は、明快なスタッカートによるリズミカルな展開とおだやかなフレーズが交差していきます。やはりリズムが印象的で、激しく動きまわるような第2楽章は決然とした響きが味わえます。

3.ピアノソナタ第23番ヘ短調作品57『熱情』(通称)

これも説明不要な傑作で有名曲(笑)。ベートーヴェンと言われてすぐに思いうかべる人も多いでしょう。静かに沈みこむ音型で始まって、どんどん激しさを増してドラマティックに展開していく第1楽章は1度聴いただけでどんな人もひきつけてしまう説得力に満ちています。緊迫感あふれる激しい打鍵は、まさに新しいピアノ・ソナタのスタイルを提示したと言えそうです。おだやかで美しいフレーズながら、次の楽章へのそなえを思わせる第2楽章のあと決然と嵐のような第3楽章がつづきます。熱情というよりは“激情”がふさわしい第3楽章は、ただただ圧倒されます。

これもYouTubeへのリンクを貼っておきます。フランスのピアニスト、ピエール=ロラン・エマール(Pierre-Laurent Aimard)が2016年2月にドイツ・フランクフルトのコンサートホールで演奏したものです。どこまでも明晰で、激しさとドラマティックさが伝わってくる演奏です。

4.ピアノ・ソナタ第24番嬰ヘ長調作品78

ベートーヴェンがピアノを教えていたという伯爵の令嬢、テレーゼ・ブルンスヴィック・デ・コロンパ(Therese Brunsvik de Korompa)にささげられたことから通称「テレーゼ」と呼ばれる短い曲です。そのわりにはシャープ(#)が6つもつく嬰ヘ長調というめずらしい調性で、軽やかで美しいフレーズにあふれています。2楽章形式で、第2楽章はリズミカルで16分音符の多いユーモラスな内容です。

5.ピアノ・ソナタ第25番ト長調作品79

ベートーヴェン自身が「やさしいソナタ」または「ソナチネ」と名づけてほしいと伝えられている曲です。第1楽章に、かっこうの鳴き声のようなフレーズがあることから「かっこう」と呼ばれることもあるとか。第1楽章から、親しみやすく前へ前へ進むメロディーが印象的です。美しい歌のような第2楽章、おどけるように軽快な第3楽章がつづきます。

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