生誕250周年「1か月でベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタと16曲の弦楽四重奏曲と9曲の交響曲をぜんぶ聴く!」①

1日目「作品2のピアノ・ソナタ3曲(第1番ヘ短調、第2番イ長調、第3番ハ長調)を聴く!」

1日目は作品2-1、作品2-2、作品2‐3としてまとめられている3つのピアノ・ソナタを聴きます。「作品」というのは「作品番号」の略で、海外では「Op.」または「Opus」と表記されています。簡単に言えば、作曲家が手がけた楽曲のうち楽譜として出版された順番につけられた番号です。ベートーヴェンの作品には138までの作品番号がついています。

作品2のピアノ・ソナタ3曲が作曲されたのは1793~1795年と言われていますので、ベートーヴェンが23~25歳のころ。ドイツのボンで生まれたベートーヴェンは父親から音楽のスパルタ教育を受けて、10代のころから才能ゆたかなピアニスト兼作曲家として成長していきます。1792年11月にウィーンへ移住したあとに書かれたのがこの3曲です。

それぞれ20分前後の曲なので、ちょうどCDで1枚分のボリュームです。


1.ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調作品2-1

第1楽章は少しさびしげなメロディーで始まります。モーツァルトにあこがれ、一時期、ハイドンに師事していたことからもベートーヴェンが当時人気だった2人の作曲家の作品を研究していたことはまちがいないと思われます。第2楽章は夢みるような美しいメロディーが印象的。独特なリズムの第3楽章につづく第4楽章はベートーヴェンの特徴ともいえるたたみかけるようなフレーズが執拗にくり返されます。この第4楽章だけを聴いても、ベートーヴェンがモーツァルトやハイドンの作品に学びながらも自身がめざす音楽を模索していたことがよくわかります。

2.ピアノ・ソナタ第2番イ長調作品2-2

第1番ヘ短調の最初とちがって第1楽章は明るくリズミカルなフレーズで始まりますが、すぐに転調したり複雑なフレーズに展開していったりとこれまた個性的な構造です。つぶやくようにメロディーをつむいでいく第2楽章につづいて第3楽章はどこかコミカルで軽快な音楽ですが、ここはドラマのような構成の第4楽章へのつなぎのように感じられます。その第4楽章は明るいメロディーで始まって前へ前へ進みながら劇的な表現へと変貌していくスタイルがすでにベートーヴェンの個性になっています。

3.ピアノ・ソナタ第3番ハ長調作品2-3

聴きはじめてすぐに、同じ作品番号を与えられている第1番ヘ短調、第2番イ長調とはちがってベートーヴェンの個性が確立されていることがわかる曲です。ひとことで言えば“華麗”。シンプルなメロディーを提示しておいて、それを劇的に展開させていくスタイルです。最初の3曲のなかでこの第1楽章がもっとも長く、構造も複雑。そのことがよくわかるのが優美な第2楽章とどことなくせわしいフレーズで強弱の対比が激しい第3楽章につづく第4楽章です。ちょっと聴いただけで、弾くのがむずかしそうなパッセージが連続していきます。

最初にベートーヴェンが出版した3曲を通して聴いてみると、ウィーンへ出てくる前から構想されていたとされる第1番ヘ短調、第2番イ長調と第3番ハ長調とでは曲の成熟度や個性の面で明らかに異なることがわかります。ウィーンに移住したベートーヴェンにとって、めざすべき方向性を見いだしたことを宣言するような曲です。

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