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青空文庫で読めるBL6作品をおすすめしてみました

 日々めまぐるしく情勢は変化しながらもわりとおうちにいることが多くなりがちな昨今、みなさんいかがお過ごしですか。
 わたしは宣言なるものが出てからちょっとだけおうちにいる時間がふえたので本を二冊読みました。
 川上未映子『夏物語』と中島京子『夢見る帝国図書館』。
 『夏物語』はいまどきのアラサーアラフォー女性ならわりと多くのひとが興味をもちそうな、いろんなひとの根幹にかかわる部分がぐらぐらと揺さぶられるような感じがすごいおもしろかったし(個人的にはフェミ傾向男性のたとえとして「ウルフ読んでる」っていうのがかなりなんていうか、わーってなりました)、『夢見る帝国図書館』はいわゆる図書館うんちくものかなーとおもっていたら戦中戦後に生きたひとりの女性の物語でもあったりもちろん帝国図書館のなりたちや栄枯盛衰も知ることができたり、あと一葉や漱石やといった有名どころのひとたちなんかもちょいちょい登場したりとなかなかためになりました。そしてこの作品のなかに出てくるむかしは遊び人だったとかいうのっぽインテリ復員兵と美形なので近衛兵に選ばれ『日本のいちばん長い日』的な過去があって小柄で気っ風が良くてわりとツンデレ小悪魔気味なゲイボーイと3歳くらいの見捨てられっ子幼女という疑似家族がたいへんツボだったのでぜひみなさまにお読みいただきたいなとおもう次第であります。草間さかえさんに漫画化してほしいとわりと真剣におもったわたしはつい最近『やぎさんゆうびん』を読みかえしました。
 前置きのつもりでただの自分の趣味に走った物語紹介をすでに二冊もしてしまいましたが今回の本題はまた別です。
 別。別だよ。
 みんな『夏物語』読んでどのひとに共感するか言いあおうぜ!(地獄の様相を呈しそうですね)とか、『夢見る帝国図書館』読んで疑似家族に夢中になって! とかいろいろおもうところはあるけどとりあえず別だよ。

 ということでなにはさておきタイトルどおりの本題に入ります。
 「青空文庫で読めるBL6作品をおすすめしてみました」
 っていうことでとりあえず。
 とはいうもののいまどきBLっていうくくり方もどないなもんかな、すくなくともBLと銘打たれて出版されている作品群についてはともかくとしても古今東西それぞれの時代にそれぞれの作家が書いてきた作品をひとつの側面というか価値観というかそんな感じのアレで乱暴(かはわからないですが)に切り取りまとめてしまっていいもんかなとおもいはすれど、ほらまあどこかのえらい学者さんも「読者の誕生は作者の死によってあがなわれなければならない」とか言うてはるから大丈夫、うん大丈夫、きっと大丈夫……知らんけど……ということでとりあえずこのまま進めます。
 ということで以下に紹介していくよ。


○森鷗外『青年』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card2522.html

 有名ですね。
 とっても有名な作品です。国語便覧とかにも文豪森鴎外の代表作のひとつとして名を残している。
 青年小泉純一の成長譚。明治知識人のビルディングロマン。
 紹介しておいてなんですか読んだのがあまりにはるかな昔なものでそれっぽいところがあったとぼんやり記憶はすれど具体的にどういう話だったかろくに覚えていない。
 もしかしたらこっちじゃなくて「ヰタ・セクスアリス」(https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card695.html)だったかもしれない。
 なんかむかしの中学かなんかで……主人公とだれかが義兄弟の契りを結ぶ的な……なにかしらそんなことがあったとおもいます。たぶん。旧制中学とか旧制高校ものにはきっとだいたいそういうところがあるからこんなに適当な紹介でもたぶんなにかしらヒットするところはあるって信じてる。
 のっけからすごい適当でわれながらちょっとどうかとおもう。でもたしかあったよそれっぽいところ……
 この話と横溝正史「ある女装冒険者の話」に出てくる男同士の刃傷沙汰がどうも結びついて記憶されているのでなんかそんなくだりがあ……ったっけ……いやごめんさすがに刃傷はたぶんない。でもなんか似たような旧制の学校のなんやかやが……いややめようこれ以上話を広げるのは……へたしたらうその上塗りになってしまう……。
 あと個人的な話で恐縮ですがわたしがこの小説を読んだのはちょうど主人公とニアリーネームな方が国のトップに立たれているころでしかもちょうどその方が市井の民に大人気大フィーバーで写真集とか出てたころだったのでわたしの頭のなかでは森鷗外『青年』というと青空を背景にしたライオンヘアーの時の総理が未来をみつめている姿が浮かんでくる。いまどきの方はあの写真集ご存じないかもですがもし知ってるよというかたはわたしとおなじ呪いにかかってください。もう二十年ちかくこの呪いがわたしを離さない。


○佐藤紅緑『ああ玉杯に花うけて』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000575/card3585.html

 こちらもまた戦前を代表する名作ですね。
 戦前のこどもたちが熱狂した雑誌『少年倶楽部』のなかでも抜群に人気だったという作品。
 わたしはこの本について当時おそらく御年八十を過ぎられていた元少年倶楽部愛読者の方が書かれたアマゾンレビューを以前おみかけし、すごくすきだなあと思ったことがいまでも心に残っております。すごくすきだけどいま確認しにいったりはしてないのでもう残ってないかもしれない。
 そんなひとさまのすてきな青春の思い出にいったいどんな色をまぶすのかおまえはという感じですがまあ戦前の少年たちの熱き友情といえばだいたいお察しいただけるかと存じます。
 ちなみにこの作品の底本としてあげられている文庫の同時収録作品『少年賛歌』はさらにもっとすごい少年たち(というかひとりのガキ大将がひとりの優等生に対する愛)のジェットコースターロマンスになっているのでこれもまた読んでほしい。
 というか佐藤紅緑だいたいいつもそんな感じ。
 なんかしょっちゅう少年たちが荒波のなか海に出たり大陸ではぐれたりする。
 わたしはわりと年配の方にむかしのお話を聞くのがすきなのですが佐藤紅緑をたしなんでいるといま御年八十オーバーの方はわりと喜んでいろいろと当時の話をしてくださるので基礎教養的にもおすすめです。


○巌谷小波『こがね丸』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000981/card3646.html

 こちら日本児童文学の祖ともいわれる作品。国語便覧にもなんかそんな感じの位置づけをされている。
 さざなみおじさんよいおじさん、という歌ではじまるラジオ番組がかつてあり、全国のこどもたちがさざなみおじさんの語るむかしばなしで育ったということをこないだたまたまいった水口の図書館の巌谷家コーナーで知りました。
 あなたのご先祖もわたしのご先祖もさざなみおじさんの読み語りによって情緒を育てられその薫陶のすえにわれわれは生きているのかもしれないな、オタクとして……とおもうのは強引にすぎるでしょうか。ありがとうさざなみおじさん。
 ところでこの『こがね丸』、わたしはずっと十五少年漂流記みたいに少年たちが絶海の孤島でがんばる話かとおもっていた。こがね丸は少年たちが孤島に漂着するきっかけとなった船のなまえかなんかとおもっていた。難破船こがね丸。なんでそんな誤解をしていたのかわれながらさっぱりわからないのですがとりあえず実際のところこがね丸は犬です。犬。勝手におもってるけど秋田犬的な感じ。知らんけど。
 いつの世か知らん、両親を虎に食い殺され牛に育てられた犬こがね丸。この物語は、成長したこがね丸が父母の仇を討ちに旅に出て、さまざまな冒険の果てに本懐を遂げるというものです。
 このこがね丸と相棒となる鷲郎の愛がなんせ重いのでぜひお読みになってほしい。とにかく鷲郎が献身的。不器用で武骨で苦労人(犬だけど)の鷲郎とむかしの物語の主人公らしく天然でイケメンでチートのこがね丸、すきなひと多いとおもう。というよりわたしがすき。
 ラストは人間たちにはなかなかおいそれとはできないハッピーエンドです。犬だしね。


〇島田清次郎『地上』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000595/card46166.html

 こちらも最近(だっけ)作者の伝記のようなものが出たり作者のおなまえを冠した文学賞などができたりして著名になった作品。
 とにかく長い。
 めちゃんこ長い。
 青空文庫にあるのは一部だけですがとにかくなんかすごい長かった記憶があります。
 いちおう大学の図書館かなんかで借りだして(いまはだめな気がする)読んだはずなのになんか……宇宙とか……新興宗教とか……主人公がおれはこの世界の神になる的な宣言をしたような……わけのわからない世界がジェットコースター級にくりひろげられ読者はだいたい置いてきぼりになるようなアレでした。
 さっき作者が死んで読者が誕生とかなんとか言いましたけどこの作者はぜんぜん死んでないなっておもう。読者が誕生できない。とにかく作者がぶっちぎりすぎてわけがわからない。
 とりあえずこの一部の冒頭を見ていただくといきなりモブキャラふたりが稚児になれならないともめているのでそこだけでも当時の風俗がちょっと垣間見えておもしろいかなあとおもいます。
 なにこの冒頭? ってならない? わたしはなった。
 この美少年どこまで出てきたっけ……ということもすでにうろおぼえなくらいなにがなんだかわからない話だったのでとにかくステイホームが奨励されているいまの時期に一気読みするなら最適な作品ではないかと思います。
 一部の続きは国会図書館のデジタルライブラリにあるかもしれない。検索してないけど。


〇村山槐多「悪魔の舌」
https://www.aozora.gr.jp/cards/000014/card12.html

 へたに語っちゃうと手垢がついた表現まみれで自分がかなしくなっちゃいそうなのでこちらはとりあえずリンク貼るだけに。
 夭逝した天才詩人にして画家、そして小説家ってほら陳腐な表現になった……。
 槐多の作品を観に上田にいったら記念館閉まってたというかなしい記憶もいまちょっとよみがえってきたのでとりあえず読んでねってことでどうぞよろしくお願いします。
 兄弟ものです。
 

〇三上於菟吉『雪之丞変化』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000310/card1911.html

 はい読んでみんなこちら読んで、はい! よろしく! 以上!
 で締めたいくらいにこちらの作品にははや二十年ちかくの愛をそそいでいるのであきらかにほかの作品と熱量が違いますね。
 だってむかしは読んでといってひとに勧めようにもすべての文庫や単行本が絶版でもちろん青空文庫などもまったくなくもちろん貸せる相手には貸したしそしていつも「これはやばいね」という感想はもらっていてもいかんせん初出が昭和十年の大衆小説なんていうアレなのでぴちぴちの若者たち(当時)にはさほど興味ももたれずにいつも歯噛みしていたものですがいまはほんとうにいい時代になりました。ありがとうございます青空文庫さん、伏して奉ります。こちらにこの作品が掲載されていると知ったときにはガッツポーズをとるとともにいままでの苦労や悲しみや喜びがどっと押し寄せしばらく茫然としたものです。
 ほらもうほかとくらべて熱量がぜんぜん違うでしょ。ここからもっと熱くなるよ。
 長崎の大商人の家にうまれながらも悪者たちの奸計により生家は没落、父母ともに亡くした少年雪太郎。旅芸人の一座に拾われ、雪之丞と名を変えた彼は生来の美貌と才知もあって上方で大人気の女形になりました。
江戸に興行にきた雪之丞の真の狙いは父母の仇敵である土部三斎一党を葬ること。そしてひょんなことから仇討ち話を知った義賊闇太郎は、陰にひなたに雪之丞を助けます。
 このふたりの関係がとってもストライクなのでぜひみなさん読んでください。
 「長崎の仇を江戸で討つ」っていう出オチ感といい連載中に映画化が決まったらすぐにその俳優さんのなまえを作中に出しちゃうところといいなにそのライブ感……て感じでそういうところもおもしろいんだけどとにかく闇太郎と雪之丞の関係がツボなのでみんな読んでください。
 何回でも言う。だってすきだから。
 わたしは昭和十年の初出単行本から平成に入っての講談社の大衆文学館までたぶん十パターンくらいの雪之丞変化の本を持っています。内容変わらないのに。重い。
 何度も映像化や舞台化がされており、映画は時の大スター長谷川一夫や美空ひばりが主演をつとめ、発表から八十年近く経っても大人気の作品。なぜか主演俳優が闇太郎雪之丞の一人二役をする伝統があるとかで十数年まえくらいにタッキー主演でドラマ化したときももちろんタッキーが闇太郎・雪之丞二役をつとめ、これでいまの世にもムーブメントが巻き起こるかと期待したのも束の間、原作が復刊されることもなくタッキーの雪之丞がマジでイケメンすぎて闇太郎がはかなげな色男すぎて従来わたしの推している組み合わせと逆のアレが主にJ系のファンの方のサイトで同盟(なつかしい響きですね)ができてしまったというわれ泣きぬれて蟹とたわむる結果に終わりました。
 あのときは若かったこともありほんとうにつらかった。『大衆文学辞典』とかの『雪之丞変化』の項で「闇太郎と雪之丞は稚児的関係にあり」みたいな記述があることだけを自分以外の同カプ仲間として心の支えにしていた。かわいそう。
 まあわたしの熱意はともかくとてもおもしろい作品なのでおすすめです。時代劇のお約束がぜんぶつめこまれているのもたのしいよ。


 ということで以上「青空文庫で読めるBL6作品をおすすめしてみました」おしまいです。
 うすうすばれているとおもいますが最初は5作品のつもりだったのに気がついたら6作品になっていました。
 まだもうちょっとストックあるかもしれないので気が向いたら書きにきます。
 おうち時間のお楽しみ、すこしでも参考になればさいわいです。

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