バルサの本質を攻略する。 - ラ・リーガ第12節:バルセロナ vs レアル・ベティス 分析的感想

こんにちは、96と申します。普段は、

にて浦和レッズの試合のマッチレポートを書いています。もはや先週の試合なのですが、方々から非常に面白い!必修試合!という熱烈なオススメを受けまして、観てみた次第です。

両チームスタメンと思惑

スタメンは上記の通り。普段の両チームの戦いをよくみていないので、細かい事情はよくわかりません。バルサは8番のアルトゥールくんがブラジル生まれブラジル育ちにしてシャビ、イニエスタのDNAを継ぐプレーを見せているということで話題みたいです(もう古い?)。個人的にはトップチーム昇格直後のセルジ・ロベルトの丸っこさに衝撃を覚えた記憶があるのですが、今では精悍な顔立ちでバルサのレギュラーなのだから凄いです。便利屋っぽいけど。
ベティスは乾はベンチスタート。CBのバルトラはバルサでプロデビューだったはずなので古巣との対戦ですね。あとは、21番のロチェルソが良い選手らしいです。14番のウィリアム・カルバーリョもご存知の方が多いかも。
両チームの思惑ですが、バルサはホームですし過去8連勝中のベティス相手ということでいつも通りでしょう。普通にやって普通に勝つ。他方ベティスは、奇将キケ・セティエンの愛するポゼッションサッカーでリーガを戦っているということなのですが、実はあんまり点も取れていないし、決定率8%はリーガで下から2番目ということで、うまくいっているわけでもないみたいです。で、スタメンの噛み合わせをみたらわかりますが、ベティスはどうやら5バックで望むものの、ほぼマンマークでバルサの選手を捕まえにいく作戦をとるようでした。


同じ土俵で戦う:マンマークでの守備とポゼッションへの挑戦

5バックと4バックの対戦を観るとき、僕がまず確認するのは5バックのチームのWBの運用です。WBが最終ラインに入って文字通り5バック化し、最終ラインの横幅を埋めるように使うのか、それとも高い位置をとらせて4バックのSBを捕まえに行かせるのか。もちろん、押し込まれてしまえばいずれにしろ5バック化するしかなくなるのがほとんどなので、トランジションの直後や中盤での攻防が発生する際に観察します。早々に5バック化して重心を下げるなら4バックのSBをどうやってケアするかが試合のポイントになりますし、前から行くならほぼマンマークで捕まえるということになります。
ベティスが選んだのは(ほぼ)マンマークでした。両サイドのWBはバルサのSBを捕まえるために非常に高い位置まで張り出して守備をします。で、最終ラインはバルサの3トップに対して3バックで守備をします。最終ラインに枚数余りを作らないので、どこかで裏返されたり抜かれたらほぼ終わりです。これが勇気ある采配なのか無謀なのか。

ベティスの捕まえ方はだいたい上図の感じでした。5-3-2の中盤の3枚の並びは、本当はカルバーリョがアンカーでロチェルソとグアルダートが前に2枚の逆三角形のような気もしましたが、ブスケツにロチェルソを当てている感じがしたのでそのようにしています。ベティスはだいたいこのマーキングでどこまでも付いていきます。
バルサはこの手のプレッシング対策は出場選手全員が熟知しているはずで、まさに教科書通りに対応していきます。ゴールキックにも付いて来るなら、バイタルを空けてロングボールで3トップの質勝負。

前半のバルサは、リスクを犯してマークのいる味方にパスするくらいなら…という感じで、ポゼッションがこの形に収斂していくことが多かったように思います。10回くらいこの形でゾーン1の3on3やったら点獲れるだろ的な。この考え方は正解だと思いますが、シドネイ、バルトラ、マンディの3枚が簡単に前を向かせないような粘りの守備が出来ていたのに加えて、自分たちのゾーン3にボールが入った後のベティスの中盤、特にグアルダートとカルバーリョのプレスバックが素早く、ベティスはなんとか守り切ることが出来ていました。ベティスのマンマークは、基本的にどこまでもついていくものの、自分がボールを奪い取る!という感じのマンマークではなかったように思います。それよりは、ボールが入れば自由にさせません、という距離感を全員が保っていて、一発で取りにって入れ替わられないようにしつつバルサの選手を自由にさせないように、といった距離感だったように思いました。中盤もマークから一定の距離を保っており、もしかすると最終ラインの3on3にロングパスを蹴られることは織り込み済みで、そこのケアに戻るところまで事前にタスクとして整理されていたのかもしれません。
で、バルサの攻撃が上記の通りのパターンで前線へのロングボールに収斂するので、そこで奪うことができればベティスもそれなりに攻撃機会が増えます。そこでショートカウンターではなく、ボールを保持するのがキケ・セティエンのらしさでしょうか。一方で、ベティスがオンザボールの質でバルサに敵うわけもなく、自分たちの意思通りにバルサの守備を動かしてスペースをつくって誰かが飛び込む!などもなかなか出来ず、技術的ミスもあって前向きにボールを運んでいくという感じにはなりませんでした。
すると、バルサとしては少しずつ圧力をかけて、不安定なベティスのボール保持を前からハメてショートカウンターを狙います。ここで、両チームの狙いがほぼ一致し、両チームがほぼ同じ土俵で戦う構図が生まれます。解説の水沼パパも言っていましたが、やりたいことが同じになるわけですね。


キケ・セティエンの真の狙い

同じ土俵で戦うと言われると、どうしても個人の能力で勝るバルサのゲームになりそうな感じがしますが、そうでもないのがサッカーの面白いところというか、なんというか。たしかに能力で上回るバルサですが、彼らのゲームが出来ていたかと言われると、もちろんそうではありません。ボール保持率は前半途中からベティスが追い上げて互角。局所的に発生するマッチアップと1on1の連続にボールは思うように繋がらず、何よりも選手の距離感が大きく広がることになってしまいました。前述した通りバルサは、マンマークでどこまでも付いていくるベティスを「教科書通り」自陣に引きつけ、最前線での3on3を狙う攻撃をするわけですが、その分フォローに入る中盤の3枚やSBの移動距離は大きくなります。さらに守備においても繋ごうとするベティスに対して前から追うために、これまた中盤は激しい運動量を課されます。本来であれば奪った瞬間からゲーゲンプレッシングによって最短の移動距離でボールを回収し、ボールを保持する間に回復を図ることが出来るわけですが、この試合では攻守において上述のような構図からバルサの中盤はインテンシティ勝負に晒され続ける事となりました。
さくっと得点シーンをみていきます。先制点はベティス。バルサのコーナーキックをクリアしたところからボールを繋ぐベティス。ロレンのポストプレーで時間を作ると、落としたボールを受けたカルバーリョが中央で受けます。ダイレクトで駆け上がったジュニオールへ鋭いスルーパス。抜け出したジュニオールがエリア内でのセルジ・ロベルトとの1on1を制してゴール右に決めたのでした。

膠着したゲーム、お互いにほぼマンツーマンでマークを掴み合うゲームにおいて、コーナー崩れのカウンターはやはり有効ですね。攻め側はゴールを獲るためにDFを上げるので裏返し易いというのが大きい上に、このシーンではベティスのチャンレンジ、つまり簡単に蹴らずに繋いでいくというのが良い方にでたシーンでした。ポスト役のロレンがしっかりとボールを収めたことに加えて、その前にグアルダート→カルバーリョ→ロレンの繋ぎでバルサの中盤3枚が追ってきたのをうまく外しました。バルサ的にはこのトランジションから5〜8秒くらいは取り所なので、マーク無視で追いかけます。本当はグアルダートが一度ターンして止まったところで奪いきりたかったのだと思いますが、奪いきれず。その間にジュニオールに走られているのですが誰も気にしていません。優先度が低いんですね。で、奪い所で奪えなかったバルサの中盤は戻りません。カルバーリョからスルーパスが通った時点でダッシュで戻っているのはセルジ・ロベルト、ラングレ、(たぶん)アルバの3人だけ。バルサとしては、あれぐらい質で止めろや、セルジ。ということですかね。
2点目も本質的には近いものがあります。放送ではリプレイが被っていたのでどうなったのか不明なのですが、ベティボールのスローインからビルドアップ。追いかけて高い位置で引っ掛けたいバルサですが、おそらくグアルダートのところにブスケツが出て行って、カルバーリョへのパス一本で中盤が裏返されています。で、奪いどころで奪えなかったので中盤3枚は戻りません。持ち運ぶカルバーリョと、駆け上がるベティスの選手4枚。対するバルサの4バック。

カルバーリョからジュニオールへ、ジュニオールのクロスは誰にも合わなかったものの、逆サイドに流れたボールをテージョが折り返してホアキンがゴール。なんでホアキンどフリーなんだよ!!!となるわけですが、一度ゴールエリア内まで押し込まれて、クロスが逆サイドまで流れて、視野をリセットしなければいけない状況で浮いているFWを捕まえるのは、DFには至難の技。結局、前半30分で一度裏返されたらもう戻れないバルサの中盤のインテンシティどうなってるの、となるわけです。
ここで、キケ・セティエンの狙いに気づきます。もしかしてベティスは、マンマークでバルサのボール保持を封じること、自分たちがボールを繋いで攻めることが目的ではなく、そうすることでバルサと同じ土俵で戦うことこそが目的だったのではないか。つまり、マンマークvsボール保持を攻守において強要することで、バルサをインテンシティの戦いに引き摺り込み、それによってバルサの中盤が抱えるインテンシティとスタミナという弱点をあぶり出すことが真の目的であり、このゲームを攻略する作戦だったのでは、と。


ゲームモデルを攻略する: リスクを受け入れた、バルサの本質への挑戦

バルサのゲームモデルは、一言で言えばボール支配です。ボールを保持し、ゲームを支配することによって「バルサのゲーム」を相手に強要する。ボールを保持し続ければ基本的に試合のテンポをコントロール出来るので、休む走るは自由自在ということになります。それを可能にするのが華麗かつ高度で複雑なパスワークを可能にする中盤のゲームメーカーたちであり、彼らのパス能力、視野、戦術眼は特殊能力と言っていいほどに洗練されています。
一方で、このような支配のゲームモデルに対抗するのが撤退・迎撃のゲームモデルで、自軍のゴール前を固めることでプレーするスペース自体をなくし、パスワークを無効にしようというものです。これに対抗するためにバルサは前線に超強力な個の選手を擁し、彼らの個人能力での突破を図るとともに、ネガティブ・トランジションにおけるゲーゲンプレスを導入することで相手が守備から攻撃に転じる際の隙をつく、ということをやってきました。
キケ・セティエンのベティスは、上記とは異なる形でバルサの支配のゲームモデルを攻略しようとしたと思われます。それはつまり、「バルサが支配する」構造自体への抵抗。自分たちがボールを保持し、またバルサの攻撃中はマンマークでパスワークを奪うことで彼らがボールを支配するゲームモデル自体を成立させないようにし、「バルサのゲームモデル」でのプレーに最適化されている中盤の選手たちの弱点ー攻守において移動距離が長くなることに適応できず、インテンシティを90分間発揮し続けられない、また一度裏返されると戻れないーをあぶり出す。これがキケ・セティエンの狙いだとすると、これは今まで多くのチームが採用してきた撤退作戦とは全く異なる、バルサの本質への挑戦とも言えるアプローチだとは考えられないでしょうか。この作戦が機能したことは、バルサがHTで「次期バルサ哲学の体現者」アルトゥールに変えてインテンシティの申し子であるビダルを早々に投入したことが物語っています。
もちろん、この作戦に伴うリスクは莫大です。バルサの最終ライン〜中盤を数的同数で追いかけるために、自軍の最終ラインはバルサの 3トップ(メッシ、スアレス!)を数的同数で封じなければいけません。バルサに対して最終ラインでの数的同数を受け入れることは、普通に考えれば受け入れがたいリスクです。実際のところ、開始50秒でマルコムのクロスをメッシが合わせたシーンがありましたが、あれが決まっていればこんな作戦はほとんど無意味なわけです。おそらく、キケ・セティエン自身がこの作戦がどこまで通用するか半信半疑だったのではないかと思います。前から追ってみるが、簡単にかわされるようなら撤退しかない、というのが普通の考えです。なので、ベティスが能動的に仕掛けた「バルサのゲームモデル」への抵抗ではあるものの、この試合はバルサが本来のパフォーマンスを出せなかった試合でもあるのではないでしょうか。
最後に、貢献度の大きかったバルトラについて。ベティスのボール保持において非常に重要な役割を果たしていたのはやはりバルトラでしょう。ゴールキックからのリスタートでは、バルトラの両脇のCBが幅を取りGKからのパスコースを確保することに加えて、バルトラが中盤まで上がっていくことでマークを外し、スアレスのマークを外そうとしていたのは面白かったです。またボール保持中でもバルトラが中盤まで上がっていくことでスアレスを置き去りにフリーになるシーンもありました。これも面白くて、バルサは上述の撤退守備への対策として超強力なFWを起用していますが、彼らに中盤まで戻って守備をさせることは、彼ら超強力FWの存在意義であるゴール前から彼らを遠ざけることになるために出来ません。すると上がってくるバルトラどうすんねん!となってバルサは困り、中盤が前進してプレッシングに出てきますが、これが中盤がまるごと裏返されるという構造を呼び込みます。もちろん失敗してカウンターでも食らえばそれで終わりなのですが、守備でのスアレス対応に加えて、古巣仕込みのポゼッション能力でバルサのゲームモデル攻略の骨子を担ったバルトラの貢献は大きかったと思います。


後半のざっくりとした振り返りとバルサ対策の話

後半はアルトゥールをビダルに替えたバルサが中盤のインテンシティを改善したこともあって優位に進めます。ベティスは5-4-1を作り、撤退とまではいかないものの守備重視に。こうなると「バルサの支配のゲームモデル」が作用しバルサの流れ。メッシのPKで反撃の狼煙を上げますが、直後にまたもカウンター気味に中盤を裏返されるとビダルが戻り切る前にロチェルソがエリア内でフリーになりシュート。これはテア・シュテーゲンの正面だったのですがファンブルがあってゴールで1-3。めげないバルサは中央下がり気味の位置で前を向いたメッシが鬼のスルーパスを左サイド裏に通し、最後は折り返しをビダルが詰めて2-3。しかし、やっぱり前半に走りすぎたか、その4分後に4失点目。ピケがボールを奪いにロチェルソにアッタクし中盤まで引き出されると、そのスペースを誰も埋めずにジュニオールがフリー。テア・シュテーゲンがせっかく止めたのにクリアボールを相手に渡すと、同じスペースをまたジュニールに使われ、クロスに途中出場のカナーレス。ピケが出て行ったあとのスペースをだーーーーーーれも埋めないバルサ。同じスペースを2回同じ人に使われるってどうなんですかね。こういう考えられないような失点をするのも、自分たちのゲームモデルに最適化された選手がそのゲームモデルを奪われたことで起きるのかなと考えてしまいます。まあ3失点で80分台ですからそうでなくとも集中力は削がれていそうなものですが、それにしても不用意かつ軽率な失点です。結果論ですが、ロスタイムに乾のパスミスからついに中央でのパスコンビネーションが繋がってメッシの得点(VARでゴール認定)があったことを考えると、3失点目のテア・シュテーゲンのファンブルとこの4失点目の守備の崩壊は非常にもったいなかったと思います。
ということで、ベティスの勇気ある作戦によって「バルサのゲームモデル」に最適化されすぎたバルサの中盤が、その弱点を晒してしまった、という試合に見えました。これ、最終ラインの3on3を受け入れる必要があるものの、バルサ対策としては非常に面白いと思いました。バルサは、同じ理由(バルサのゲームモデルに最適化されているために)基本的に撤退して守れません。前線に守備タスクを求めるのは間違っているし、かといって中盤3枚では横幅を守りきれません。で、下手に飛び出してボールを狩りに行くと4失点目のような無残な結果が待っています。従って基本的にポゼッションとゲーゲンプレスによるゲーム支配を「しなければいけない」のですが、今までは彼らの質の前に相手チームが平伏し、彼らのゲームモデルを受け入れてきました。それが今節のベティスのように、彼らのゲームモデルを受け容れないという手法が機能してしまった。これ、他チームもこれを採用したら、バルサはどうするんでしょうか。まあ、今節でもそうでしたが、メッシかスアレスが先に一点とったらだいたい終わり、という感はあるのですが。とはいえ他チームからも中盤のインテンシティ勝負を挑まれ続けると、バルサは結構キツいんじゃないかという気がします。そういう意味では、非常に面白い試合ではなかったものの、バルサのゲームモデルを崩したこの試合は、後にエポックメイキングな試合として語られるのかもしれません。

おわりです。長文にお付き合い頂きありがとうございました。


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