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中心なき宇宙を泡のように漂い続ける〈ブギーポップ〉の物語たち 「ユリイカ2019年4月号 特集=上遠野浩平」寄稿
漂っていた泡に触れた。そんな出会いだった。
1998年2月にライトノベルレーベルの電撃文庫から刊行された上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』を、すぐに手にとって読んだという記憶がない。1996年2月から書き続けているウエブ日記を見返してみても、『ブギーポップは笑わない』を買って読んだという記述がない。電撃文庫の存在はすでに知っていて、『ブギーポップは笑わない』が大賞となった第4回電撃小説
映画『君たちはどう生きるか』レビュー
【破滅へと向かう世界から少年は小さな平穏を願うか焼け跡からの再生を望むか】
宮崎駿監督の10年ぶりとなる長編アニメーション『君たちはどう生きるか』を観た。事前の予想通りに、全体の流れはやはりジョン・コナリーの児童文学『失われたものたちの本』(創元推理文庫)を踏襲していた。母親を亡くした少年デイヴィッドが父親と共に再婚相手の屋敷を訪ね、そこで失踪した大叔父が残した書庫を見つける。そしてドイツ軍の
映画『雨を告げる漂流団地』レビュー
【まさに子供の喧嘩を見せられて試される子供心】
まさに子供の喧嘩である以上、まるで子供の喧嘩だと言うのは何の例えにもならないけれど、そんな子供の喧嘩を見せられて、子供の喧嘩なのだからとその心情に寄り添ってあげられる人には、どうしてあげるのが良いのかを考える機会になるだろうし、そうではなくて、子供の喧嘩の非論理性に苛々だけが募る人には、どうして何もしてあげようとしないのかと、物語の作り手に苛立ち
映画『夏へのトンネル、さよならの出口』レビュー
【過去に溺れて知る未来を生きる大切さ】
八目迷のライトノベルを原作にしたアニメーション映画『夏へのトンネル、さよならの出口』を2度見て、やっぱりこの映画が大好きだと分かった。
クライマックスに近い部分、届かなかった時間を取り戻したかのような場所にいつまでも留まっていたいと思いながらも、新しく得られた出会いのかけがえの無さを改めて思い知って、停滞を乗り越えて前へと進み始める場面からあふれ出る
映画『今夜、世界からこの恋が消えても』レビュー
【記憶が失われても記録が消されても思いは残る、永遠に】
記憶が失われても、どこかに記録は残っている。記録が消されても、誰かの記憶には刻み込まれている。あったことはなかったことにはできないし、いたことはいなかったことにできないのだということを知って、今日もまた生きていこうと思わされる映画がある。
三木孝浩監督の『今夜、世界からこの恋が消えたとしても』だ。
交通事故に遭ってから、以後の毎日
映画『東京2020オリンピック SIDE:B』レビュー
【B面とは東京オリンピックを見て撮り切って歌った河瀬直美総監督だ】
A面が選手なら、B面は裏方だというのが普通一般の考え方だとしたら、クリエイターの思考はそれを軽々と超越し、易々と裏切ってとてつもないところへと着地させる。
2021年に行われた東京オリンピックを公式に記録した河瀬直美総監督によるドキュメンタリー映画『東京2020オリンピック SIDE:B』のことだ。
いや、ドキュメンタ
映画『東京2020オリンピック SIDE:A』レビュー
【何かに沿わせず何にも阿らない東京オリンピックの姿】
あの夏、何か大きなものが傍らを通り過ぎていった。
新聞を読まず、テレビも観ず、ネットからしか情報を得ない暮らしで、何だったのかがよく分からなかったそれは、ひとつひとつが自分はどこに向かっているのかを思って、歩き続けてきた道の集まりだった。
河瀬直美監督による映画『東京2020オリンピック SIDE:A』を観て、分かった。
柔道。