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ほめられる。

昨日は稽古の日だった。

今月の競書は顔真卿(がんしんけい)の建中告身帖(けんちゅうこくしんじょう)である。

独特の楷書は『顔法(がんぽう)』と呼ばれている。

『燕の尾っぽみたいになるように筆を持ち上げてから、はらうんや。』

大先生が何度も筆を持って顔法について指導してくださる。

顔法の書はこんな感じである。

太く丸みのある線が特徴であるが、筆を持ち上げたり、沈めたり非常に変化の多い書き方をしなければ顔法にならない。

簡単そうでとても難しいが、私は顔真卿の書が中学生の頃から好きだった。

大きくてどっしりした線に繊細な線も混ざる書体は本当に美しい。


また今月の競書の条幅の部は三行書きであり、バランスが非常に取りにくいものである。

先日もこちらで『抑揚をつけろ!』と師匠や大先生から注意されることを書かせてもらったが、楷書、行書、草書の中で一番難しいのが誤魔化しのきかない楷書なのである。

大先生が付きっきりで、手元を見て指導してくださるのがとても怖い。

プレッシャーがハンパないのである。

『違う!この線は直線上に繋がったらあかん!』

何を言われているのかと思ったら、長という漢字のことであった。

一画目と六画目が真っ直ぐ繋がって見える位置に書くのは間違いだと強く仰る。

『わしは止めやはらいがキチンとしてないのが嫌いなんや。決め事をキチンと守らないと世の中おかしくなる。昔は学校で書き方は厳しく指導されたもんやが今はどっちでもかまへんって何でもかんでも正解にしてやるやろ。あかんあかん!決め事はキチンと守らなあかん‼︎』

大先生は熱いのである。

『決め事はキチンと守らな世の中おかしくなる。』

90年以上生きてこられた方の言葉は重い。

抑揚をつけるために今書いている字を見るのではなく、次の次の字を考えながら書く、墨付けは4文字に一度つけるだけ、決め事はキチンと守る。

やいやい言われながら忠実に、しかし自分の字を活かしながら書く。

『よーなったやないか‼︎上手になった‼︎線が生きてきた!ますます精進していきや!』

手放しで褒めていただいたのは初めてだった。

そこに師匠がやってこられた。

『ちょっと左に流れてないかい?』

うぅ。今褒められたばかりだが、やはりまだまだダメか。

『もう一枚書いてみー。』

深呼吸してもう一枚書いた。

『うん、これでいこう。落款しときや。』

いいんですか、これで?

ダメだと言われた直後のオッケーが出てホッとするやら何やら。

すると。

その場を立ち去りながら背中を向けたままで師匠は言った。

『先月の競書バッチリやった。また一つ進級や。』

そう言いながら背中ごしに肩の辺りで指で作った丸のサインを出してくださったのである。

照れ屋さんなのだろうか。硬派な師匠。

『条幅でこれだけ楷書かけたらたいしたもんや。よう書けた。』

帰り際にもボソッとそう言って褒めてくださった。

稽古場は辛くて厳しいばかりではない。

大先生や師匠のこうした褒め言葉は大層励みになる。

『精進していきや。』

これらの言葉を胸に、明日からもまた頑張っていけそうである。

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