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OMO事例に見る、新しい提供価値の探求

企業や事業のブランディングにおいて、企業が顧客に対して提供する価値を指す「顧客提供価値(USP:Unique Selling Proposition)」を考えることは大切なことです。

なぜなら、自社の独自性・強みや、競合他社との差別性・優位性を認識し、顧客に提供する価値を明確にすることで、自社が提供する価値を内外に示し、その価値に共感する顧客との関係性を強固に築き上げることができるからです。

しかし、業界が成熟していくにつれて技術が進歩し、競合他社が増えることで、性能やコストなどの一般的な差別化だけでは、多様化する顧客のニーズとのズレが生じることがあるため、企業は自社の顧客提供価値を見直して、新しい価値の提供を模索する必要も出てきます。

そんな背景の中、後述する「OMO(Online Merges with Offline)」という新しい概念に基づいて、最新の技術を取り入れながら、これまでにない新しい価値(体験)の提供しようと試みている事例を見ていきたいと思います。

アパレル業界における顧客とのタッチポイントの変化

最近、洋服や靴などのファッションアイテムをネットで購入することは珍しくなくなってきました。実際、日本のeコマース(EC)市場は成長し続けていて、ファッション業界においても、多くのアパレルショップやブランドがネットショップを持っており、自社アイテムの販売を展開しています。

また、新型コロナウィルスが猛威を振るった2020年頃には実店舗での売上は激減し、百貨店からの撤退や閉店を余儀なくされる店舗もありました。

一方、ネットショップの方は売上が伸びており、その一因として、店舗で直接お客さんとコミュニケーションがとれないショップの販売員が、SNSなどを利用して、自社商品の紹介や着こなしなどの情報を、消費者に向けて発信し続けたことも大きく寄与したと考えられます。

ネットショップと実店舗のデータを密接に連携させる
アパレル業界のOMO事例

以前から顧客の購買行動として、実店舗で気になった商品を見定めた後、その商品を実店舗ではなくてネットショップで購入するケースが増えてきました。この行動の理由は、ネットショップで購入した方が「割引価格で購入できる場合がある」「商品を自宅に配送してもらえる」「返品時の購入証明がしやすい」などのメリットがあることが考えられます。

アパレル業界でも同様な購買行動をとる顧客が増えた状況を受けて、実店舗をショールームのようにアイテムの展示・試着ができる場所。ネットショップは、顧客管理や販売をおこなう場所として役割を分けて運用するケースも見られるようになりました。

さらに最近では、ネットショップ(Online)のデータと、実店舗(Offline)のデータをより密接に連携させる「OMO(Online Merges with Offline)」という新しい概念が注目されていて、国内で徐々にOMOに基づいた施策(サービス)を展開する事例が増えてきています。

今回は、アパレル業界のOMO施策の2つの事例を見ていきたいと思います。

ZOZO「niaulab by ZOZO」

ファッションの大手通販サイトを運営するZOZOは、2021年11月からOMOプラットフォーム「ZOZOMO」の提供を始めましたが、2022年12月にファッションアイテムを販売しない実店舗「niaulab(似合うラボ) by ZOZO」を展開する予定です。(※記事執筆時、2022年11月時点)

超パーソナルスタイリング体験施設「niaulab(似合うラボ) by ZOZO」(画像:PRTimes

「niaulab(似合うラボ) by ZOZO」(以下、似合うラボ)は、洋服を販売せずに独自開発の人工知能(AI)とスタイリストが、顧客ひとりひとりに合ったスタイリングを提案するサービスです。

事前応募で選ばれた顧客は店舗を2時間貸切りで、顧客の事前アンケートの内容と、同社が運営するファッションコーディネートアプリ「WEAR」の約1300万件のデータを元に構築されたAIから導き出されたコーディネートや、店舗のプロスタイリストによるパーソナルスタイリングサービスを受けることができます。

ZOZOは顧客の「似合う」を探求すべく、2022年5月に経営戦略として新たに「ワクワクできる『似合う』を届ける」を追加し、似合うラボの出店以外のサービスも予定しているようです。

今回のZOZOの取り組みは、実店舗を洋服を展示する場所としてだけなく、デジタル技術を駆使して、顧客ひとりひとりに合った洋服選びができる場所として機能する可能性を秘めています。

ISETAN 「YourFIT365」

ISETAN「YourFIT365」(画像:PRTimes

日本の老舗百貨店のISETAN(伊勢丹)では「YourFIT365」という、顧客に適した靴の選び方ができるサービスを提供しています。このサービスは、3D計測機で計測した顧客の足形から、適した靴のレコメンドやスタイリストからのアドバイスを受け取ることができるもので、顧客は靴選びの新たな体験を得ることができるでしょう。

これまで、靴は実店舗で試し履きをしてみないと、自分の足に合うのか分かりづらいという不安や不満を解消できるものであり、実店舗(オフライン)で計測したデータがシームレスにアプリ(オンライン)と連携・融合するOMO施策として分かりやすい事例です。

進むオフラインとオンラインのシームレス化
どんなことが実現するでしょうか?

写真:Korie Cull on Unsplash

今回、OMO施策の2つの事例を紹介しながら、実店舗(オフライン)とネットショップ(オフライン)との連携・融合に着目してみました。

少し前まではオフラインの実店舗でのデータは、販売情報(POS)や会員カード経由の顧客情報の蓄積など限られた範囲のものでしたが、昨今のセンサリング技術やAI技術の進歩により、店舗内での顧客の動線や、顧客の身体部位の立体的な測定、顧客の嗜好の推測など、これまでにないデータを取得することが可能になってきています。

関連技術の進歩や、5G・6Gなどの通信インフラの拡充、企業のDX化が進むことで、オフラインとオフラインとがシームレスに連携し、新しいサービスや体験を提供するケースは増えていくことでしょう。それでは果たして、どんな未来の可能性が考えられるでしょうか?

たとえば、こんなことが実現するかも

  • ネットショップで購入したアイテムを、ショップが運営するプライベートクローゼットに納品。購入者はショップスタッフを介さずにシームレス認証され、自由にクローゼットを利用可能になる

  • 購入した洋服の購入日や着用頻度から推測し、下取りを提案してくれる(洋服廃棄の低減)

  • 全身スキャンでアバターを作成。そのアバターで洋服の試着が可能になる。実店舗でも同じ洋服が試着できる。アバターと実体(顧客)との紐付けができている

など、これらのようなことが現実になるのも、そう遠くはないかもしれません。常に自分を分析されているようで、少し恐ろしいと思う反面、どんな体験になるのだろう?とワクワクする気持ちにもなります。

今回見てきた事例のように、これまでの既成概念や過去の成功体験にとらわれずに、顧客の求めていることを探りながら、その企業独自の新しい価値を提供しようと果敢に挑戦することは、その企業や事業のブランド価値を高め続けるために必要であることは間違いないでしょう。

出典・引用:
タイトル画像:Clark Street Mercantile on Unsplash

ZOZO初のリアル店舗を表参道にオープン、 自分の「似合う」が見つかる 超パーソナルスタイリングサービス「niaulab by ZOZO」を開始|株式会社ZOZOのプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001602.000008372.html

コロナ禍で生まれた新サービス!3D計測サービス「YourFIT365」と「Match Palette」からオンライン完結のサービスが登場!|株式会社 三越伊勢丹ホールディングスのプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001602.000008372.html

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