見出し画像

コレラが変えたこと、コロナが変えようとしていること

トイレや排泄をとおして社会を少しでもよくしていきたい、そんなことを日々考えながらNPO法人日本トイレ研究所を運営している加藤篤です。

非常事態宣言が延長されましたが、見えないウイルスをディフェンスするのも疲れてきましたね。ですが、気を抜くわけにはいきません。
今回は、江戸時代の感染症のことを書いてみたいと思います。

江戸が清潔と言われていたわけ

江戸と令和では、私たちの価値観が大きく異なることがあります。その一つがトイレです。今、私たちのうんちやおしっこは、不要なものとして水洗トイレに流されます(一部、資源として利用されます)。ところが、江戸時代はうんちやおしっこが大人気だったのです。
江戸には100万人もの人が生活していました。人口密集度でいうと、江戸の町は1平方キロメートルあたり約87,000人が住んでいました。ヨーロッパでは大都市でも60,000人ぐらいだったといわれていますから、江戸にはかなりたくさんの人が集まっていたことがわかります。そのため、農家はたくさんの野菜をつくることが必要でした。

ですが、この時代に化学肥料はありません。そこで登場するのが、うんちとおしっこです。野菜をたくさん育てるための肥料として活用されていたのです。そのため、江戸の人はうんちやおしっこをその辺にすてたり川に流したりせずに、しっかりと集めて売っていたのです。ちなみに、家の台所から出る汚れた水や雨水は溝を掘って川へ流れるようにし、家から出るごみは決められた場所に捨てて、町で集めて運んでいました。
たくさんの人が集まる町にもかかわらず、江戸が清潔に保たれていたのはこのような仕組みがあったからだと思います。

とはいえ、ずっと上手くいっていたわけではありません。江戸時代の後半から明治時代にかけては、それまでの清潔さを保つことができなくなっていきました。なぜだか分かりますか?

その理由は、急に人口が増えたことだと考えられています。

コレラがもたらす不安

このタイミングで、海外からコレラという伝染病が入ってきました。今ではきちんと治療すれば治る病気ですが、このときはそうではありませんでした。そもそも、どうしてコレラになるのかという原因もわかりません。
見えないものへの不安がつのると、社会は混乱します。「感染した人の吐いたものが肥料になる」というとんでもないデマが流れて、畑にぶちまけたという記録もあります。
コレラは、病気になった人のうんちや吐いたものにふくまれる菌から感染するので、こんなことしたら大変です。

都市部への人口増加、感染症の流行、さらには大雨による浸水被害などで悩まされていたわけです。こういうときに変化が求められます。
トイレという視点で言えば、肥料から処理にシフトします。うんちやおしっこを衛生的に処理する方法を整備するという意味です。ちなみに日本で最初の下水道が東京の神田地区につくられたのは、1884年です。

今回の新型コロナウイルスも目に見えずワクチンや治療薬がないところは不安ですが、当時のコレラとは異なり、予防する方法は明快です。集まらない、閉め切らない、近づかないこと、そして手洗いです。これはウイルスへの対策ですが、一方で「不安」にも同じことが言えると思います。
不安を集めない、不安を閉じ込めない、不安に近づかないです。いつの時代も不安がつのると、とんでもないことが起きやすくなりますので、注意していきましょう。

これからのトイレに求められる変化

コレラ後には、肥料から処理へのシフトがあったと書きましたが、今回もトイレに関して何かしらの変化が求められているように感じます。少なくとも「集まらない(混雑回避)」「閉じ込めない(換気)」「近づかない(タッチレス)」は、トイレにとって重要なポイントだと思います。関係者とともにしっかり取り組んでいきたいところです。

※トイレや排泄に関する情報をお届ける「トイレマガジン」を運営していますので、ぜひご覧ください。最近の記事は「高齢者の排泄問題と災害」です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?