【ゲーム攻略&創作日記】ATRI -My Dear Moments-感想_非実在女子大生、空清水紗織の美少女ゲーム攻略&創作日記Vol.0001

【製品概要】
タイトル:ATRI -My Dear Moments-
ジャンル:ノベルゲーム
対応言語:日本語・英語・簡体字・繫体字
対象:全年齢
価格:2,000円+税
配信:Steam / DMM GAMES

【STAFF】
企画・シナリオ:紺野アスタ(Frontwing)
原画・キャラクターデザイン:ゆさの、基4
音楽:松本文紀
アートディレクター:SCA-自
演出:Yow
背景:わいっしゅ
オープニングテーマ:柳麻美
制作:フロントウイング×枕
製作:ANIPLEX.EXE
公式HP:https://atri-mdm.com/

原因不明の海面上昇が続いており、科学技術も失われつつある地球。
高校2年生の夏生は、海に沈んだ町へ潜水艇で潜り、祖母の遺産をサルベージしようとしていた。
海洋地質学者だった祖母は、夏生が寝泊りできる船や潜水艇などを遺していた一方で、多額の借金もしていたのだ。
借金取りのキャサリンに提案された、遺産を引き揚げて山分けにする話にのった夏生は、海中の祖母の倉庫で棺のようなカプセルを発見する。
その中には、少女の見た目をしたロボット、アトリが入っていた――。

2019年の年末、ANIPLEXから発信された『ノベルゲームブランド「ANIPLEX.EXE」(アニプレックスエグゼ)が始動いたしました!』というお知らせを読んだとき、心が躍ったのを今でも覚えている。
なにせこの「ATRI」は、あのフロントウイングと枕という2大ブランドがタッグを組んで制作するというのだ。
しかもシナリオは紺野アスタさん。「この大空に翼を広げて」で胸を打たれた私は、本作ATRIも楽しみにしていた。

果たしてATRIは私の期待を上回り、とても満足できる内容になっていた。
シナリオはもちろんのこと、キャラや背景といったビジュアル、ボイスやBGM、どれをとってもクオリティが高い。しかも2000円という価格だ。
2000円という価格が発表されたときは、ちゃんとしたものに仕上がるのだろうかと不安も抱いたが、良い方向に期待を裏切られた。
この価格設定でビジネスとして成立するのか疑問に思わないわけではないが、そこはANIPLEXが上手にやっているのだろう。
深夜アニメの時間帯にCMも打っているし、低価格でより多くのユーザーに手に取ってもらいたいという意図を感じる。

夏生は祖母が残した船で暮らしていた。
接岸している町は平地が海に沈み、本土から切り離されているため電気が通っていない。
船の電力は風力発電で賄っているため、風がない夜は静かで暗い。
かつてトンネルの崩落事故で母親と右足を失った夏生は、夜になるたびに重苦しさを感じていた。
それに加え、昼間に売ると決めたアトリのことが頭から離れない。
何がしたいのか自分でも分からないまま、夏生はキャサリンのもとにいるアトリを探そうと船を出る。
だがちょうど満潮時であり、道路は波を被っていた。義足の夏生にとっては、それだけでも脅威だ。
この程度のことで進めないのかと、焦り苛立っていたところへ、幼馴染の水菜萌が現れる。
その水菜萌の後ろにはアトリがいた。

本作の魅力の一つとして、アトリへ感じる愛おしさがあるだろう。
「キャサリンと行け」という夏生の命令を言われたとおりに実行したからと言って、夏生のもとに帰ってくるアトリ。(ロボットであるアトリにとって、マスターである夏生の命令は絶対なのだ。)
屁理屈ともとれる行動だが、何としても夏生の傍にいたいというアトリの健気さが感じられるシーンだ。
夏生の義足に対して対抗心を燃やして「わたしの方が高性能でしょう?」と自慢したり、以前のマスターの最後の命令をロスト、つまり物忘れしてアタフタしてしまったり、ポンコツと言われて怒ったりと、随所に人間の子供らしさが現れている点も良い。
キャラの立ち絵やボイスも、セリフの内容にあわせてコロコロと表情を変えており、読み進めていくのが楽しい。この楽しさはノベルゲームならではだろう。
更に大事なのが、子供らしさと共にアトリが持ちあわせている母性だ。
寝ている間の幻肢痛にうなされる夏生を、アトリは優しく受け止める。このときの一枚絵のアトリの微笑みには慈悲が溢れていて、好きにならずにはいられない。
アトリを抱きしめながら眠りに落ちた夏生は、久しぶりに穏やかな朝を迎え、アトリを売りに出さないと決める。
そして、足を取り戻したら何がしたかったのかというアトリの問いに、答えを出すのだ。

アトリの要望に応え学校に来た夏生は、竜司や凛々花たちと出会う。
彼ら、彼女らもまた、海面上昇で何かを失っていた子供の一人だった。
学校は生徒数が減り、教師も不在。水菜萌が教師役を買って出ていたが、このままでは廃校だ。
アカデミーという優秀な人間が集う学校へ通っていた夏生は、子供たちへ勉強を教えることになる。
生徒たちが勉強を続けている中、「大学に行かない者には勉強なんて意味がないのでは」という意見が出る。
そんなことはないと証明するために夏生が取った行動は、自分たちで電気を作る、発電の実験をすることだった。

夏生が学校へ行くようになってから、シナリオ中のギャグの比率も増え、学園モノとしての楽しさも味わえる。
水菜萌や竜司、凛々花たちと潮汐発電に取り組む流れは、青春そのものだ。
夏生は発電機作成の牽引役として皆に影響を与えるが、同じく彼も周りから影響を受け、成長していく。
竜司とはアカデミーで築けなかった友情を育み、凛々花との会話からは勉強することの楽しさを再認識した。
そんな周囲の人たちと関わるきっかけをくれたのは水菜萌だった。
シナリオの紺野アスタさんは本作について『“失われたものを取り戻していく”そんな物語になっているかと思います。』と述べている。
学校でのシーンはまさにその通りとなっており、それぞれが何かを失っていた状態から少しずつ成長をしていく様が丁寧に描かれている。

潮汐発電を終えて以降、物語は本題であるアトリとの関係にシフトしていく。
ロボットとの暮らしへの倫理観やロケットの打ち上げなど、随所にSF要素は登場するが、それでもこの物語の主軸は、誰がどんな思いを抱いたのか、それにどう向き合っていくのかということにある。
その感情を抱いたのが人間であろうとロボットであろうと関係ない。
それぞれがお互いのために真剣に考え、寄り添うことで、ようやく一歩が踏み出せるようになる。
そしてその一歩を重ねていくことで、より良い未来へと辿り着けるのだ。
あなたも是非、夏生やアトリと共に、失われた未来を取り戻す旅に出かけてみてほしい。
うまく歩けなくたって大丈夫。「高性能ですから!」と自慢げに言うロボットがサポートしてくれるに違いない。

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