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【歴史群像シリーズ】自動販売機は無人店舗の夢を見るか?~特化したがゆえの繁栄と限界~②物販自販機について

前回の飲料自販機の歴史(事実上の自販機の歴史)について私の視点から書いてみましたが、今回は物販自販機について書いてみたいと思います。

■物販自販機とは

物販自販機(以下物販機)とは、前面シースルーボックス型でスパイラルもしくはベルトによって商品が押し出されてくるタイプの自販機を指します。ほとんどのものはスパイラル型で、バネを伸ばしたような金属棒が回転することにより上に載っている商品を搬出するものですが、この機構により重さが少ないものや柔らかいもの、形状が円形ではないものも販売できるようになりました。

また、前面がシースルーになっているため商品の確認もできるためフェイスが不要であり、どんなものでも販売できるのが特長です。パック型飲料だとベルト型で搬出するタイプが多く(明治さんの自販機がそうですね)、形状や重さによりある程度の使い分けがなされているようです。

■マイクロマーケットと共に成長するが…

汎用性が高く色々なものが売れる物販機は欧米では割とポピュラーな存在でしたが、日本では全く振るいませんでした。と言うのも、日本では飲料機が有名になりすぎて自販機というと飲料を買う所という常識が長く続いたせいか、あまり需要が伸びなかったのです。また、価格も非常に高く飲料機の1.5~3倍程度の価格帯であったため、新品でも価格が安く中古だとパソコンより安い飲料機には勝てなかったという事情もあります。

(こうした事情から飲料機を使った物販機が現れるのですが、それはまた別の機会に)

しかしここから転機が訪れます。マイクロマーケットという市場概念の出現により、オフィスや公共施設における簡易店舗としてのニーズが高まりました。カップ麺や長期保存パン、軽食の販売に適しているため、高層化に伴い外に出にくいオフィスや外出禁止なのに社食が廃止される工場、駅のキオスク施設の代替として広がり始め、今や特産品を売るために使われるなどされています。飽和状態にある飲料自販機のロケーション獲得のためのセット販売にも使われるようになり、ずいぶんといろいろな所で見られるようになりました。

こうして拡大の兆しが見えた物販自販機なのですが…思っているほど広まらない。セブンティーンアイスなどの特殊機材を含めても7万ぐらいしかありません(JVMA調べ)。減ったとはいえ飲料自販機は約250万ですから、足元にも及ばない。マイクロマーケット市場が広がり、業界内外を含めて無人店舗を追いかけるようになった世界に突入しているにもかかわらず爆発的な普及が期待できないのはなぜなのでしょうか?

■スパイラル機構であるがゆえの課題点

物販機で問題になるのはその格納数の少なさです。販売する商品の大きさなどにも依存するのですが、だいたい1台あたり20コラムぐらい、格納数もおおむね1コラムあたり7~10ぐらいと飲料に比べるとかなり数が少ない。それなのに単価はほぼ変わらないため日販額が少なくなる。ざっくり言うと機材の価格は倍で売り上げは半分…となるとなかなか設置業者を見つけるのが難しい。

そして物販機を物販機として成り立たせるための「スパイラル機構」もまた大きな制約を生みます。良く見ると分かると思うのですが、販売する商品の大きさに合わせてスパイラルの幅を変えてたりします。小さな商品は目の細かい、大きな商品は目が大きいスパイラルを使うため、販売するものをどのコラムに乗せるのかを誤ると正しく搬出されない(ひっかかったり2つ落ちたりする)のです。また、落下に弱いものはNGで大きさもそれほど大きな商品は入れられないため、高単価なものを販売するのには向いていないのも事実です。

これらの問題点は販売面で大きな制約になるのと同時に補給時にも大きな制約となり、間違えないように教育することも必要でありますが、コラム変更が飲料機と違ってその場でできないため、商品選定が常にコラム構造に連動する(小さな商品を扱うコラムは小さな商品を入れ替え対象としなければならない)ため、フレキシブルな商品構成が難しくそれも運用面での足かせになっているのが実情なのです。

■更なる追い打ち~強力なライバルの出現

そして物販機が抱える最大の問題は強力なライバルである「オフィスグリコ」の存在です。物販機はマイクロマーケット市場で伸びていると書きましたが、この市場に数年前から入り込み、大幅に勢力を伸ばしているオフィスグリコ(およびその類似)は物販機から見ると非常に頭が痛い問題でした。

自販機のようにコラムの概念がなく単なる棚なので商品構成を自由にできること、多品種少量販売が可能なため売り場の魅力を維持することが容易であること、なによりフットプリントが小さく機械ではない(=電気を必要としない)ためどこにでも置けることから一大勢力となり、先行していたはずの物販機は事実上端に追いやられてしまった形となります。

フットプリントが大きく種類や格納数が少なく、電気が必要で補充が難しい…ビルバリ荒らしや子供のイタズラがないオフィス内であればオフィスグリコのような業態の方が便利で収益性も高く、わざわざ高額な投資をして物販機を使う必要がない…こう思われても仕方がないのが現在の状況であるわけです。

■それでも増える物販機…なぜ?

市場全体としては加速度的に広まっているのにこういう逆境の中で耐え忍んでいる物販機ですが、それでも少なからず数を伸ばしつつその地位を確立しているのもまた事実ですす。なぜそうなるのか?

それは物販機が「自販機」であることに由来します。クローズドボックス型の自販機であるためチルド帯の商品が取り扱えることから、飲料機では売れない形状のちょっと単価が高い飲料(マウントレーニアみたいなもの)だとかサンドイッチなどの冷蔵管理が必要な商品も販売できるようになります。こうした商品は高単価商品であることが多く、単価を上げることで収益を目指すためには向いているのです。

また、メック/ビルバリがあるのも強みです。オフィスグリコはその性質上価格帯を多数設けることができない(できるけど、やったら面倒すぎて買われなくなる)のですが、自販機なのでお金の取り扱いは自販機任せでOK、売りたい商品を売りたい価格で販売できるのも強みです。特に商品バリエーションを作るために価格帯を複数設けることは一般的な手法であり、これを持ち込めるのも自販機ならではの方法だと思います。

そしてこれが意外なのですが、「オフィスグリコを拒否する職場がある」ことです。外資系IT企業に良くあるのですが、無料で軽食類を置いていたりする職場があります。それと勘違いして持っていかれてしまうことがあったり、福利厚生として導入して販売金額を総務から支払うみたいになった時に販売数が確実に取れることが重要だったりする(要するにしっかりとしたレシートがないと経費扱いできない)ため、物販機をあえて選択するところは意外とあるそうです。

■そして第三世代へ…新たな物販機の登場

こうして徐々にその立場を築いている物販機ですが、ここで安泰とはならなかった。中国を中心として新たな物販機の姿を描く第三世代機、外見は単なる冷蔵ショーケース、しかしその実態は…ということで、その話はまた次の機会に。

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