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【映画レビュー「Red」】 心をほどく瞬間の美しさ

「Red」を知ったのは、note企画 #本棚をさらし合おう で、サカエコウさんがおすすめしていたのがきっかけ。著者は島本理生。気になって、すぐに手に入れ一気に読んだ。

あの世界が映画として観れることが待ち遠しくて、私の手帳の2/21のところには、ずいぶん前から「Red公開日」と書かれていた。

公開日から1日遅れて、3連休初日に映画「Red」を観に行ってきた。


誰もがうらやむ夫、かわいい娘、“何も問題のない生活”を過ごしていた、はずだった塔子。
10年ぶりに、かつて愛した男・鞍田に再会する。
鞍田は、ずっと行き場のなかった塔子の気持ちを、少しずつ、少しずつほどいていく…。
しかし、鞍田には“秘密”があった。
現在と過去が交錯しながら向かう先の、誰も想像しなかった塔子の“決断”とは――。
(公式サイトより)

出演者を知ったとき、妻夫木聡は、主人公の鞍田役としては顔が甘いし、つややか過ぎると思ったし、塔子役の夏帆はかわい過ぎるのでは?というのが第一印象(その代わり、塔子の心を見透かし、鋭い指摘をしてくる同僚の小鷹役に柄本佑とは、なんて適役なんだ!と思った)。

でも、そんな思いは杞憂に終わる。

妻夫木くんは、物悲しげで、失う怖さもなく、言葉少なな鞍田そのものだったし、夏帆は、いつも周りに気を遣い自分を殺していた表情から、徐々に意志を宿す姿へと変わっていった。


映画は現在と過去を交錯させながら進んでいく。原作を知らないと少し状況をつかむのに時間がかかると思わなくもなかったが、どのシーンにも意味があり、映像がとても美しかった。


夫と出かけたパーティーで、夫に先に帰るように命ぜられた矢先に鞍田の姿を見つけ、目で追い、腕を掴まれ、言葉なく、激しく、深い口づけを交わす。この瞬間、塔子の心はほどけ、忘れていた感情が呼び覚まされていく。


塔子は鞍田と再会しなければ、自分の気持ちにふたをしたまま、そのことにさえ気づかずに、自分が我慢していれば家族は円満で、それが自分にとっても幸せなんだと言い聞かせて生きていったに違いない。

鞍田だって、塔子に再会しなければ、ただ淡々と日々をやり過ごしただろう。

三島有紀子監督は、「鞍田と塔子の関係は『宿命』だった」とあるインタビューで語っていた。

出会ったことで、お互い「生」を取り戻す。まさしく宿命だ。ただただ求め合うしかなかった。

その究極が身体を重ねること。これしかお互いの思いを伝えるすべがないのがもどかしいくらい、お互いを確かめ合うように求めた。心の体も解放されているはずなのに、それが切なくて、哀しく映ったのはなぜだろう。

幾度となく描かれた二人の濃厚なラブシーンがこの映画のキモだったと思う。目をそらす余地さえない妻夫木くんと夏帆の視線や息づかいにすごく「生」を感じ、観ている側に切実にそれが伝わってきたからだ。


ラストは映画と小説は異なる。塔子の選択は、実母の放った「人生ってさ、どれだけほれて、死んでいけるかじゃないの?」という台詞が引き金になったのではないだろうか。


女性は生きていく上でいろんな役割を持っている。妻、母、娘、あるいは仕事での立場。だけどその役割だけで求められたら苦しい。

そんなとき、役割に関係なく「私」を見てくれる人がいたら。揺らがないと言ったらきっと嘘になる。心の奥底にある本性を私たちはきっと社会性で覆って隠してるだけ。


映画版「Red」は、設定もラストシーンも小説どおりじゃなかったのが逆に良かった。鞍田と塔子が共有している思い出やものをモチーフに、小説よりも二人にフォーカスした物語になっていた。

それと音楽。降りしきる雪に高音のピアノの旋律が、凍てつく寒さをより際立たせていた。そしてジェフバックリーの「ハレルヤ」を起用したのは、鞍田とジェフバックリーを重ね合わせていたからかもしれない(ジェフバックリーは若くして事故死している)。


現在放映中のドラマ「知らなくていいコト」で、主役のケイトを支え、かっこ良すぎる尾高(おだか)役を演じている柄本佑が、「Red」では、塔子と鞍田の関係を見抜きつつ、そばで見守る小鷹(こたか)役(役名が微妙に近い!)がとてもハマっていて、えもたす推しの私としてはとてもうれしかった。 飲み会後、小鷹が強引に塔子を誘って夜のデートをしたシーンが唯一、Redで心和むシーンかも。


「Red」は、いろんな立場を生きる女性の心をほどいてくれる映画であり、自分の人生を生きるとは?といことを問いかけてくる。かといって女性だけの映画ではなく、きっと男性も観ると気づかされることが多くあるはず。


ぜひ映画館でご鑑賞ください。


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