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宮崎駿の16作品レビュー(1978 - 2023):君たちはどう生きるかと私の地球儀

宮崎駿の16作品レビュー(1978 - 2023):君たちはどう生きるかと私の地球儀


はじめに 宮崎駿の作品を思い出せない。まるで目覚めた瞬間に忘れてしまう夢のように。思い出そうとすれば、頭に靄がかかってしまう。それならばと作品をまた観ると、そこには間違いなく作品が存在しているのだが、観終わるとまた靄の中で、あとはこれを繰り返すだけだ。アニメーションは「記録映像」ではない。スクリーンに投影されている風景や運動は誰かの手によって再現された「記憶の感触」だ。作品は観ているときにしか存

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映画『DUNE/デューン 砂の惑星』人々をかつて結びつけていた幻想。

映画『DUNE/デューン 砂の惑星』人々をかつて結びつけていた幻想。

 「夢は深淵からのメッセージだ」“Dreams Are Messages From The Deep”と始まる『DUNE/デューン 砂の惑星』は「夢」についての映画である。それは作品内で主人公ポールの見る幻視が重要な意味を持つということだけではなく、1965年に出版されたフランク・ハーバートの同名小説が多くの人にとって「夢」だからである。今まで多くの読者が、数多くの言語で翻訳された『デューン』を読

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映画『ザ・スーサイド・スクワッド』とドラマ『ピースメイカー』。

映画『ザ・スーサイド・スクワッド』とドラマ『ピースメイカー』。

1:映画『ザ・スーサイド・スクワッド』(続きは以下のリンクから↓)

interlude
 上記の記事の中では触れられなかったハーレイ・クインのことについても少し書いておきたいーーとは言っても、北村紗衣さんの文章と被るところも多いので引用しておきます(※1)。ハーレイ・クインは本作の中で3人の男性、ジャベリン、ルナ将軍、リックと恋愛関係(らしいもの)になるワケだが、もれなく3人とも命を落とす。恋し

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ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』とドラマ『アトランタ』。

ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』とドラマ『アトランタ』。

はじめに 2020年3月頃、COVID-19による混乱の中、1人で部屋にいる私を勇気づけてくれたのは2人のコメディアンーードナルド・グローヴァーとアジズ・アンサリだった。マルチに活動する2人を“コメディアン”とまとめてしまうのは乱暴ではあるが、彼らのあらゆる表現は優れたコメディアンの資質に裏付けられていると私は考えている。つまり、それは世界の絶望と冷静に対峙する姿勢であり、そのクールな眼差しはあの

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目覚めの式典としての『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。

目覚めの式典としての『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。

1:“式典”としての『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。(続きは以下のリンクから↓)

2:“目覚め”としての『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。 第1章では『シン・エヴァンゲリオン』を未見の人たちへ向けて、本作の“式典”としての側面に触れつつ、その作品構造は『アベンジャーズ/エンドゲーム』などの現行ポップカルチャー作品と並走していることを書いたが、第2章では鑑賞した人へ向けて、作品内容により詳しく踏

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漫画『チェンソーマン』愛って何か知ってる?

漫画『チェンソーマン』愛って何か知ってる?

 『ジャンプ』ではなく『少年ジャンプ』だ。ポリティカル・コレクトネスやジェンダーロールへの意識が、作品のナラティブを劇的に進化させている現代において、未だに「少年」の旗を掲げる漫画雑誌が何度目かの全盛期をむかえている。『鬼滅の刃』の大ヒットを筆頭に、それにつづく『呪術廻戦』の人気、『スラムダンク』や『シャーマンキング』、『るろうに剣心』、なんと『ダイの大冒険』にいたるまで、過去作リバイバルの話も後

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映画『TENET テネット』劇場から外へ出るということ。

映画『TENET テネット』劇場から外へ出るということ。

 『TENET テネット』は“わかりやすい”映画だ。それは「芸術は問いかけであり答えではない」という真実をハッキリ描いているから。優れた表現の中には、複雑な文脈を内包しながらもデザインはどこまでもシンプルで一見しただけでは(教養がなければ)その奥行きに気付けないタイプの作品もあるが『TENET テネット』はそうじゃない。ネットに解説や考察が溢れているように、誰の目にも“わかりにくい”ことが“わかり

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