またね。

高校2年生の時に作・演出した脚本です。
電子データを迷子にさせやすいのでここに載せておきます。(自分用)
書式見にくいのはぼちぼち直していきます。


大塚 紗綾(おおつか さあや)
江藤 陽子(えとう ようこ)
貝原 菜々美(かいばら ななみ)
前田 来夢(まえだ らむ)
野村 雅人(のむら まさと)













【0】

夕焼けに染まる教室。
一人、椅子に座る紗綾。
紗綾は紙パックのイチゴオレを手にしている。
イチゴオレがもうはいっていないことに彼女はようやく気付く。
躊躇を見せ、やがて決意を決めたように深く息を吸う。
電気のスイッチを触る。



【1】

チャイム。
現代、冬。
とある進学校の放課後の教室。
自習中の紗綾を取り囲む友達。
友達が次々と帰っていく。
紗綾と陽子二人に。
数学の教科書を手に、紗綾に話しかける陽子。

陽子 ねえ紗綾

紗綾 なに

陽子 実はさっきの授業でわからないとこがあって

紗綾 ここのエックスはここも通るでしょ?だから代入できるの

陽子 それは分かってるよ

紗綾 じゃあなに?

陽子 グラフの接線求めて何になるの?

紗綾 は

陽子 私の人生において、グラフの接線求めることに、何の意味があるの?

紗綾 え、何を聞いてるの、

陽子 だって何でも聞いていいよって

紗綾 言ったけど、それは勉強のことであって

陽子 これも数学

紗綾 でも、授業ではやらないでしょ。受験にも出ないし

陽子 受験に出ないことにこそ学ぶ価値はあると思うんだけど

紗綾 そんなこと考えてるから赤点なんじゃないの

陽子 あー、もう、わかったよー、やればいいんでしょ、やれば


菜々美はいってくる。


菜々美 金属元素の単体は、鉄Feや銅 Cuなどのように、金属結合によって集合した原子からできている

陽子 菜々美さーん。菜々美さん、菜々美さーん。おーい

菜々美 一方、非金属元素の単体は、酸素O2や塩素Cl2などのように分子からできて…。ご用件は?

陽子 消しゴム。落としたよ

菜々美 (受け取る)無機質物質の単体と

陽子 え、え、終わり?ひろってくれてありがとうございます。いえいえ、たまたまひろっただけだよ

紗綾 陽子

陽子 はい?

紗綾 うるさい

菜々美 あ、紗綾さん

紗綾 なに?

菜々美 センター理系演習α持ってますか?

紗綾 あ、うん。あるよ

菜々美 貸してください

紗綾 はい

菜々美 ありがとうございます

紗綾 うん

陽子 え?私は?メソメソメソメソメソポタミア。うわーん。…あ、ねえ紗綾お菓子食べる?今日お菓子持ってきたんだけど

紗綾 あーうん

陽子 ねえ紗綾、食べないの?

紗綾 これ終わったらね

陽子 ふーん。

紗綾 陽子も勉強しなよ

陽子 今からやるの

紗綾 わかんないところがあったら聞いていいからね

陽子 はーい。…はい

紗綾 なに?

陽子 ここが分かんないです

紗綾 どれ?5乗じゃん

陽子 なんで

紗綾 こことここが分配できて、それで、こう

陽子 ああー。なーるほど

紗綾 わかった?

陽子 まあ…

紗綾 計算だけは早いんだからさ

陽子 それほどでも―

紗綾 ちゃんと考えればいいのに

陽子 考えてるよ

紗綾 じゃあなんでわかんないの

陽子 わかんないんだもん。紗綾のやつみーせて

紗綾 ちょっと

陽子 なになに、山崎リリカさんの応援演説を務める…え、応援演説やるの?

紗綾 ああ、うん。頼まれたし

陽子 なんで?

紗綾 なんでって

陽子 応援やったら、生徒会できないんだよ

紗綾 わかってるよ

陽子 やらなくていいの?先生に言われてなかった?

紗綾 知ってたんだ

陽子 まあ

紗綾 断ったよ

陽子 え、なんで

紗綾 そういうのはもういいの

陽子 やったことあるの?

紗綾 中学のときね

陽子 会長?

紗綾 だからいいって

陽子 やればいいのに

紗綾 もう嫌なの

陽子 なにが

紗綾 そ―ゆーめんどくさいのは

陽子 そお?

紗綾 しつこいよ

陽子 あ、ごめん

紗綾 べつにいいけどさ。ほら、これ

陽子 なに?

紗綾 このくらいのやつからなら出来るでしょ?

陽子 え、無理無理

紗綾 やるの

陽子 えー。…ハックションッ!…紗綾ティッシュある?

紗綾 あるよ。はい

陽子 ありがと。女子力だね

紗綾 いや、普通でしょ

陽子 えーそう?あ、ありがと

紗綾 うん 陽子、鼻をかんだティッシュをゴミ箱に捨てる。



【2】

陽子黒板に落書きを始める。
来夢入ってくる。

陽子 あ、来夢―、あれ?今日も部活?

来夢 今日は自主練。テスト休みだから

陽子 おつかれー

来夢 陽子もテスト休み?

陽子 美術部だし。あっ今自主練中

来夢 あー、なるほどね。っておもしろすぎだわ

陽子 来夢も書く?

来夢 無理無理、うち絵心ないもん

陽子 えー、なんか書いてよ

来夢 やだー

陽子 うわ、汚な(黒板消しをクリーナーにかける) あれ?吸ってる?うわっ、ハックション!来夢 (ティッシュ渡す)いる?

陽子 えっ、なにその女子力

来夢 いや、普通でしょ

陽子 嘘だ―来夢はティッシュなんか持ち歩かないって

来夢 いやいや、普通にもってるから

菜々美 (くしゃみ)

陽子 菜々美さんはティッシュ…

菜々美 (箱ティッシュ取り出す)

陽子 ・・・

来夢 これが普通だよ

陽子 いやいや3人が特殊なだけだって

来夢 そんなことある?

陽子 だってクラスメイト見てみ。絶対みんな持ってないよ

来夢 いやいや持ってるって

陽子 持ってない!阿部君とか絶対持ってないよ

来夢 …阿部君って誰?

陽子 え、知らないの?

来夢 うちのクラスにいる?

陽子 ほんとに言ってる?もう2月だよ

来夢 ま、まあ、しょうがないじゃん

陽子 え、何が?

来夢 だってうち授業中ほとんど寝てるんだよ。しょうがなくない?

陽子 それは私もだよ

来夢 いえーい仲間、じゃなくて、あとほら、クラスイベントないし

陽子 あー、まあ、確かにね

来夢 なんで無いんだろうね。修学旅行

陽子 イイよね~。修学旅行。行きたかったー

来夢 沖縄?

陽子 えー、海外がいい

来夢 じゃあ中国?

陽子 えー、中国は近くない来夢 あー、じゃあロシアは?

陽子 ロシアは寒すぎでしょ

来夢 じゃああったかいところ?あ、ハワイは?

陽子 あー、ハワイいいじゃん。ハワイいいね。こうさムッキムキの兄ちゃんに耳元で「アイラブユー」とかささやかれて

紗綾 陽子~?

陽子 あ、ごめん

紗綾 うちらの修学旅行は山登りだから

陽子 うっ…

紗綾 わかったら勉強。このままじゃ来年も二年生だよ

陽子 うっ…わかったよ、やります。あ、来夢もやってく?

来夢 やる!今何やってるの?

紗綾 私は二字曲線の応用やってるよ

来夢 やっば。もうそんなのやってんだ

紗綾 当たり前だよー。もっと勉強しないと

陽子 医学部だっけ?

紗綾 パパがうるさいからね。『お前以外に誰が俺の後をつぐんだー』って

来夢 お医者さん?

紗綾 うん。私一人っ子だから、親の期待が大きすぎてさー。困っちゃうよー

来夢 すごいね

紗綾 でも、来夢ちゃんも結構できるよね?

来夢 いや

紗綾 前回化学3位だったよね?

陽子 そうなの!?

来夢 あれはたまたまだって。紗綾と菜々美とは10点も離れてたし

紗綾 でも、すごいよ

来夢 だからすごくないんだって

紗綾 生物も一位らしいじゃん

来夢 え、ウチじゃないよ。菜々美とかじゃない?

陽子 ああー、菜々美さんか

紗綾 でも、菜々美ちゃんじゃないってうわさ

来夢 へー。そうなんだ。でも菜々美ってほとんど一位だよね

陽子 なんかもう次元が違いすぎちゃう

紗綾 だけど、来夢ちゃんもできるよね

来夢 いやいや、全然勉強してないし

陽子 うっそだー紗綾 謙遜しすぎだよ来夢 だからそんなんじゃなくって

紗綾 陽子、お絵かきしないの

陽子 やだー、見ないで―

来夢 あっやべっ

陽子 えっ、なに。あっ(机の上にあったお菓子を落とす)ごめん

紗綾 ああ、もう、何やってんのよー

陽子 ごめん。あ、箒箒


陽子ロッカーを開ける。


陽子 え。わああああ

野村 わああああ。すいませんでしたー


野村はける。


陽子 なに今の…

紗綾 箒まだ?

陽子 あ、ごめん

来夢 あ、じゃあ、ウチ職員室行ってくる

陽子 いってらっしゃい


来夢去る。


陽子 ごめんね紗綾 はいはい

紗綾 来夢ちゃんは?

陽子 なんか職員室行くって

紗綾 へー

陽子 なんかやらかしたのかなあ

紗綾 さあね

陽子 紗綾って、来夢と仲良かったっけ?紗綾 用事がないとしゃべらないかな。なんかクラスのこととかどうでもよさそうだし

陽子 ソフト大変らしいよ

紗綾 ふーん

陽子 部活終わるの8時過ぎとか言ってたし。

紗綾 そうなんだ。大変なんだね

陽子 部活もやってて、勉強もできてうらやましいなー

紗綾 陽子も勉強すればいいじゃん

陽子 えー。そういうことじゃないじゃん

紗綾 そういうことでしょ。ほら、やるよ

陽子 何からやればいいかわかんなーい

紗綾 得意科目から?

陽子 美術

紗綾 ない

陽子 えー、じゃあ…数学?

紗綾 嘘つけ

陽子 じゃあ、生物

紗綾 はいがんばれー

陽子 え、教えてくれるんじゃないの?

紗綾 私物理だから

陽子 えー


野村、そっとロッカーの中へ入る。


陽子 うーん…うーん…


菜々美立ち上がりロッカーへ。


菜々美 野村さん。遺伝子の観察実験にショウジョウバエが使われる理由について教えてください


回転扉から野村出てくる。 紗綾は気付いていない。野村 遺伝子の観察実験にショウジョウバエを使う理由ですが、第一に胚から成体までにかかる期間が短く、成長過程の観察が容易であることが挙げられます。さらに、ほとんどすべての突然変異体が見つかっているため、観察実験に適した生物であると言えます

菜々美 ありがとうございます


野村ロッカーのなかへ。

菜々美自席へ。


紗綾 そんなに勉強したくないの?

陽子 いやだって壁が回ったんだよ。勉強どころじゃないっていうか

紗綾 はいはい

陽子 ほんとなんだって。壁から野村君が出てきて

紗綾 わかったよ

陽子 (試行錯誤し壁を回そうとする)ええーなんでー

紗綾 陽子うるさい

陽子 でもだって

紗綾 そんなに勉強したくないなら自販行ってきて

陽子 え、何で

紗綾 陽子の分も買ってきていいから

陽子 やったあ

紗綾 いつものやつね

陽子 オッケー。イチゴミルクね

紗綾 うん。ありがと

陽子 はーい


陽子去る。


【3】

菜々美 紗綾さん、ありがとうございました

紗綾 いえいえ、これ難しくなかった?

菜々美 そんなことないですけど

紗綾 へえー。スゴイね。さすが菜々美ちゃん

菜々美 …やめた方がいいと思いますよ。そういうの

紗綾 え?

菜々美 私、生徒会やってるんです

紗綾 そうなんだ。がんばってるね

菜々美 嫌味ですか?

紗綾 そんなこと

菜々美 ずっと、学校のために活動してたんです。皆さんが嫌がるようなチマチマした仕事も進んでやり、学業面でも

決して手を抜かないようにと、常に勉強をし、ほとんど全教科トップを守り抜いてきました

紗綾 う、うん

菜々美 でも生徒会で頑張ってる私よりも、学級委員の紗綾さんの方が人気もあって目立つんですよね。

紗綾さんは皆の前でさらっといいことやってみせて、…効率よくポイント稼いでますよね

紗綾 そんな言い方

菜々美 でも紗綾さん、紗綾さんは自分を少しでも良く魅せようとしてやってますよね?本心で友達だとおもってないですよね?

紗綾 …ん?

菜々美 どうにかした方がいいと思いますよ。その性格

紗綾 訳わかんないんだけど

菜々美 わかんないと思いますよ。紗綾さんには

紗綾 …生徒会目立たないもんね。どんなに頑張ったところで

菜々美 そうですね

紗綾 むしろ点数稼ぎって思われちゃって、かわいそうに。がんばれー

菜々美 紗綾さん。よくご存じですね

紗綾 べつに

菜々美 ああ、中学の時生徒会だったんでしたっけ?

紗綾 だからそういうのじゃないから

菜々美 そうですか


陽子大量の紙パックを抱え、入ってくる。


陽子 ねえねえねえねえ。ビックニュース!自販機が壊れちゃったから、中に入ってるジュース

全部10円だって!早い者勝ちだよ!


菜々美勢いよく飛び出す。

陽子 菜々美さん!?あれえ?あ、みてこれ!すごくない?これ全部10円だったんだよ!

紗綾 そーなんだ

陽子 どうしたの?

紗綾 別に。なんでもないよ

陽子 あ、うん…


来夢駆け込んでくる。


来夢 ねえねえ、そこの自販機で…ってなんだ、もう貰ってたんだ

陽子 うん

来夢 さすが~

陽子 あ、ジュースいる?

紗綾 あとでいいよ

陽子 どこ行くの?

紗綾 ・・・


紗綾去る。


来夢 どしたの?

陽子 さあ…

来夢 感じ悪っ…

陽子 え?

来夢 あー、いや、なんか、機嫌悪いなーって

陽子 ああー、なんかあったんじゃない?

来夢 そっか、でも紗綾ってさ、たまにそーゆーとこあるよね

陽子 そ―ゆーとこって?

来夢 ちょっとなんか嫌な感じがするときがあるっていうか

陽子 全然そんなことないよ。紗綾はねー、私の話もちゃんと聞いてくれるし、めっちゃ優しいんだよ

来夢 そうなんだ。ってええ?


菜々美大量のジュースを抱えて入ってくる。


陽子 えっ?菜々美さん!?

来夢 そんなに買ってきたの!?

陽子 菜々美さんって…ドケチ?

菜々美 違います

陽子 フードファイター?

菜々美 違います

陽子 じゃあ

来夢 あっ(蚊を手で潰す)

野村 (ロッカーから飛び出して)三郎!三郎、三郎!俺はお前を忘れないぞ。お前が初めて俺の血を吸った日のことを。お前はいつまでも俺の親友だぞ。三郎、三郎、さぶろーう!


野村、回転扉から去る。


来夢 今壁まわったよね!?

陽子 ま、まあ、私知ってたけどね

来夢 知ってたのぉ!?

陽子 ほ、ほほほら、私たちきっと疲れてるんだよ

来夢 いやでも

陽子 ほら、ジュースでも飲んで、ね


【4】

紗綾入ってくる。


紗綾 なに騒いでんの?

陽子 ううん、何でもないよ。あ、それなに?

紗綾 こないだの生徒大会のアンケートの集計

陽子 大変だね

紗綾 まあ、クラス委員だし、しょうがないよ

来夢 ホントえらいよね。ウチそ―ゆーの無理

陽子 私もー。ってかこれ、意味あんのかなーっていつも思うんだよねー

来夢 誰が得するんだろーね

紗綾 それ言っちゃう?

陽子 ごめんー

紗綾 もう

来夢 あ、これもらっていい?

陽子 うん


野村入ってくる。

何故かとてつもなく悲しそうだ。


陽子 やっぱわかんない!やめる!

来夢 はい?

陽子 やっぱさ、人生に必要なのは生物より、数学だよね

来夢 ?

陽子 ね?

来夢 …数学やる?

陽子 そう来なくっちゃ。来夢何やる?

来夢 積分の応用

陽子 何気にできるよね。来夢

来夢 そう?

陽子 塾とか行ってるの?

来夢 全然

陽子 勉強してる?

来夢 いやー、テスト前にまとめてやってるくらい

陽子 なんでそんなにできるのー

来夢 いやいや、できないって

紗綾 やらなくてもできるってホントに頭いいじゃん

来夢 いやいやいやいや

陽子 二人ともさー、高校卒業しても友達でいてよー

来夢 当たり前じゃん

陽子 紗綾がお医者さんになったらさ、友達割引してよ

来夢 あ、それいい!

陽子 だよねだよね。よろしく紗綾

紗綾 ・・・

陽子 ねえーいいじゃーん

紗綾 よくないから

陽子 はーい…あっ、ねえ来夢、これわかる?

来夢 こう…じゃないかな?

陽子 あー、なっるほどー。じゃあこれは?なんでこうなるの?

来夢 これは……んー。わっかんねえ!菜々美、教えてもらってもいい?

菜々美 いいですよ

来夢 え、本当?ありがとう

陽子 私はいいや、聞いてもわかんないから

菜々美 陽子さんがわからないことは、ここでtが出てくることですよね?

陽子 え、うん。なんでわかったの?

菜々美 勘です

陽子 すごーい

菜々美 ここにtが出てくるのは、見やすくするためです

陽子 見やすく?

菜々美 はい。これ、サイン3分のπ+エックスってすごくわかりにくいじゃないですか。

計算するときも、みにくいですし

陽子 たしかに

菜々美 だからtにするんです。tにして、こう計算してから、元に戻した方が実はやりやすいってことなんです

陽子 へー、あとさあ、これもきいてもいい?

菜々美 いいですよ。これは

紗綾 あっ、どれどれー

陽子 紗綾は分かるでしょ!

紗綾 …そうだけど

陽子 もー、紗綾がそうやっていうとさー、こっちが落ち込んじゃうんだよ

紗綾 ・・・

陽子 あーごめんごめんって

紗綾 …別にいいよ

菜々美 で、これは、こんな感じです…って陽子さん聞いてます?

陽子 ああああ、うんうん、なるほどねえ

菜々美 本当にわかってます?

陽子 うん。もうめっちゃすっきり

菜々美 もう一回説明しましょうか?

陽子 ごめん

紗綾 私が説明しよっか?

陽子 いやでも、それは悪いよー

紗綾 いいから

来夢 トイレ行きたい

陽子 あ、じゃあ私も


二人出て行く。

紗綾、ロッカーに近づく。


紗綾 野村君、アンケート出てないですよ

野村 あ、ごめんなさい


野村自席で探す。


紗綾 まあ、別にいいんだけど。どうせ誰も見ないんだし

野村 でも、それ、やってもらわないと困る人もいるんじゃないですか?生徒会の人とか

紗綾 …だったら、ちゃんと出してよ

野村 ごめんなさい

紗綾 字、汚いね。まあ、解読するからいいけど

野村 すいません

紗綾 狭くない?

野村 え?

紗綾 なんでそこはいるの?狭くない?

野村 誰の目にもつかないから、いいんです

紗綾 どういうこと?

野村 もう誰かを気にして嫌な思いすることもないし、誰も僕を気にしないですから

紗綾 十分気になってるけどね

野村 一人、楽なんですよ

紗綾 …ふーん


野村、ロッカーへ。


【5】

陽子と来夢戻ってくる。


陽子 あ、紗綾も飲む?

紗綾 いや、いいよ

陽子 飲みたかったら飲んでいいからね

紗綾 はいはい

陽子 菜々美さん。さっきの続き教えてもらってもいい?

菜々美 はい、いいですよ。これは、24を素因数分解すると2の3乗と3の1乗が出てくるので、3乗を外にだすと

陽子 あああ!そういうことか!

菜々美 わかりました?

陽子 うん!ありがとう菜々美ちゃん

菜々美 え?

陽子 菜々美ちゃんってよんでいい?

菜々美 勝手にしてください。陽子さんは基本ができているのでここと、これと、これが解ければ、赤点はないと思いますよ

陽子 ありがとう。隣でやってもいい?

菜々美 はい

陽子 やったあ

来夢 あ、じゃあ、ウチも

陽子 紗綾もやる?菜々美ちゃんの教え方すっごい分かりやすいんだよ

紗綾 私はいいよ

陽子 そっか。さっ、やろうかな

来夢 ねえ、進路希望出した?

菜々美 はい

陽子 うん。え、来夢まだ出してないの?

来夢 実は、さっき出したんだけど、ダメって言われて

陽子 え…なんで?

来夢 大したことじゃないよ。ほら

陽子 ノベカワ体育大学…?

来夢 私立の短大

陽子 短大?それ、ダメじゃない?

来夢 うん。でも、ソフトがめっちゃ強いし、向こうからも声かけられてて

陽子 そうなの?来夢 一応個人的には

陽子 すっごーい

来夢 でも、ダメなんだって

紗綾 そりゃそうでしょ。来夢ちゃん頭いいんだから

来夢 別に、そんなできないけど

陽子 できるじゃん

紗綾 そうだよ

来夢 まあ、難関国公立も目指せるんだからとか言われたけど、でも先生一方的でさ

陽子 すっごーい

来夢 でもそーゆーとこ行ったらソフトできないから

紗綾 そんなソフト大事?

来夢 大事っていうか、好きだから

紗綾 好きなことやるだけじゃダメでしょ。せっかくできるのにもったいない

陽子 あ、ねえ、紗綾は医学でしょ?どこ?

紗綾 川村医大がいいよって

陽子 川村医大?国立?

紗綾 うん

陽子 えーっと。あ、あった。偏差値71!?

来夢 やばっ、たかっ

紗綾 そうなんだけど、いい塾探してて

来夢 へえー。紗綾それで楽しいの?

紗綾 いや、別に楽しいとか大事じゃなくない?

来夢 楽しくないことやるの辛くね?

紗綾 別に楽しいだけが全てじゃないし。で、陽子は?ちゃんと考えてんの?

陽子 それ私に聞くの!?

紗綾 考えてないの?

陽子 書いたよ。ちゃんと

紗綾 何て?

陽子 …へへへ。美大ってかいたんだ

紗綾 美大?

陽子 笑っちゃうよね。たいして絵がうまいわけじゃないのに

来夢 いいじゃん。絵が好きなんでしょ?

陽子 どうなんだろー。ただ、高校で真面目にやってることって絵だけだし。まあ、真面目にではないか

紗綾 画家とか目指してんの?

陽子 まさか

紗綾 イラストレーターとか?

陽子 全然。別にプロ目指してるわけじゃないし

紗綾 じゃあなんで?

陽子 …とりあえずそう書いておけば先生も納得するかなあって…。あ、ほら、私バカだからさ、皆が書くようなとこ絶対に行けないじゃん。まあ、美大ったって、そんな簡単に入れないかもなんだけどね

紗綾 …いいの?

陽子 え

紗綾 …ホントにいいの?

陽子 そりゃ、そう聞かれると答えにも困っちゃうけどさ

紗綾 がんばって勉強しなよ

陽子 なんかピンとこなくてさ

来夢 分かる。なんのために受験勉強するんだろうって

陽子 そもそもいい大学行くことがそんなに偉いのかな

紗綾 じゃあなんでここはいったの?

陽子 それは…なんでだろ

紗綾 ここ進学校だよ?わかってる?

陽子 …あーあ。私、絶対入る高校間違えたよね

来夢 確かに、ウチこんな生活想像してなかったよ

陽子 でしょ。こんなに勉強する意味ある?

来夢 なんかさ、もっと自由にやりたいことやりたいんだよね

陽子 ホントそれ。こんなものに縛られてさ、私たちテストのために生きてるみたいじゃない?

来夢 わかる。テストに命かけすぎだよね

陽子 こんなの頑張って、何のためになるのかわかんないよね

来夢 わかる。勉強だけがすべてじゃないし

陽子 そう!勉強なんていつでもできるじゃん。逆にかわいそうだよね。勉強しかしてない人って

来夢 それな

陽子 やりたいこと全然できてないじゃん。人生で大事なことって他にあると思うんだよねー。まあ、それが何だかわかんないんだけどさー

紗綾 (ぼそりと)フザけるなって

陽子 ?

来夢 ?

紗綾 あー、もうムカつく


沈黙。


陽子 …え、なに

紗綾 ダサいんだけど

陽子 …

来夢 …、

陽子 あはは、そうだよね。やっぱ、ダサいよね

紗綾 そんなことないよって言ってほしいだけなんでしょ?

陽子 なんでそういうこと言うの?私ほんとにそう思ってるんだよ

紗綾 どうせ、できないって保険かけて自分が傷つくのが怖いんでしょ?陽子 そりゃあ紗綾にはわかんないよ。私これでも中学までは学年トップだったんだよ。でも高校入ったら上がいっぱいいて、ただの子になっていつの間にかバカにまで下がって

紗綾 それって結局は言いわけでしょ?努力してない自分を正当化してるだけでしょ?

来夢 言い過ぎだから

紗綾 あんたも、勉強できるくせに上目指さないとかありえないから

来夢 決めつけんなよ。親に進路決められてる紗綾に、うちらのことなんかわからないでしょ

紗綾 なにそれ

来夢 うちは紗綾と違って、ソフトだって勉強だってちゃんと自分の意志でやってんだよ

紗綾 私はソフト頑張ってるけど勉強もできますってこと?努力しなくてもできますよーって?

来夢 そんなこと言ってないから。それにウチだって努力したってできないこといっぱいあるし

紗綾 だよねえ、ソフト部弱いもんね。県大会も出れなかったんだっけ

来夢 そうだよ。でも私がみんなを強くして、インハイの予選に出ようって。練習時間少ないけど頑張ってやってて

紗綾 先生がソフトやらせてくれないんじゃなくて、あんたがたいしてうまくないから、先生もやる気に

ならいんなじゃないの?

陽子 やめてよ!どうしたの?大丈夫?

紗綾 大丈夫?何それ?本当は私のことなんか興味ないくせに

陽子 そんな…

紗綾 どうせ私のこと勉強教えてくれる都合のいい奴だとしか思ってないでしょ?

陽子 そんなこと思って

紗綾 思ってるよ!もういいじゃん。勉強は菜々美と来夢に教えてもらえば?私いらないんでしょ?

陽子 いらなくないって!私本当に紗綾のこと友達だって思ってるよ!

紗綾 うざいんだって。そーゆーの全部

陽子 ごめん


陽子出て行く。


来夢 陽子


来夢、陽子を追いかけていく。

【6】

菜々美 うらやましいですよね

紗綾 なに?

菜々美 うらやましいですよね。陽子さんも来夢さんも

紗綾 は?うらやましい?うらやましいわけないじゃん

菜々美 私は紗綾さんもそう思ってるものだと思いましたが

紗綾 あんたと一緒にしないでよ

菜々美 同じじゃないですか?私も紗綾さんも

紗綾 私とあんたが同じ?同じわけないでしょ?私は変わったの。私はいつもみんなの中心にいて、私の周りにはたくさんの人がいて、いつも一人のあんたとは違って

菜々美 紗綾さん、本当は私のことうらやましいんじゃないですか?

紗綾 何言ってんの?そんなこと思うわけないから!

菜々美 私は紗綾さんが、うらやましいですよ

紗綾 は?

菜々美 私も、医学部目指してたんです

紗綾 だったら?あんたならいけるでしょ

菜々美 無理なんです。私

紗綾 なんで?

菜々美 貧乏だからです。私、高校の学費も払えてなくて、だから医学部なんて

とてもじゃなくても無理なんです

紗綾 別に、奨学金とかあるんだから無理じゃないでしょ

菜々美 学費完全免除の奨学金取るのにどのくらいの学力がいると思ってるんですか?

紗綾 じゃあがんばれば

菜々美 何でもかんでもやればどうにかなるわけじゃないんです。紗綾さんにはわかんないと思いますけど

紗綾 それはあんたの事情でしょ?私には何の関係もないでしょ?

菜々美 関係ないです

紗綾 じゃあ

菜々美 だから、私は、何でも持っている紗綾さんのことがうらやましかったです。だからこそ紗綾さんが許せなかったんです。

だからついあんなことを

紗綾 全部なくなったけどね。あんたのせいで。もう、何でもいいよ。これで満足でしょ?

菜々美 ・・・


菜々美ロッカーのところへ行く。


菜々美 野村さん、聞いてるだけは不公平です


菜々美去る。


野村 …ごめんなさい

紗綾 は?…何謝ってんの

野村 あ……えっと、勝手に聞いてたから

紗綾 そっかー。あんたも聞いてたんだ。最悪

野村 ・・・いいんですか?このままで紗綾 は?

野村 あ、いや

紗綾 なに?はっきり言ってくんない?

野村 嫌われることって、何にも怖くないと思います。嫌いだって言えるのは、それだけ、その人を意識してるからってことじゃないですか。多分。スキの反対は無関心だって言うじゃないですか。だから、無理して好きになる必要なんかないと思います紗綾 わけわかんないんだけど

野村 …僕、虫が好きなんです。虫って、いたらきもち悪くて、すぐ殺されて、また虫なんかいなかったかのようになって。嫌われるし、存在するだけで、ひどい目に合うけど、虫を目の前にして、無関心でいられる人って、少ないじゃないですか。だから、虫が好きなんです。すごくないですか。虫って。

紗綾 …キモ

野村 え…

紗綾 虫なんか好きになんかならないから野村 そうですよね…

紗綾 あんたは?無関心でいいの?

野村 僕はいいんですよ。虫がいますから紗綾 わけわかんない

野村 本当に、このままでいいんですか?


野村ロッカーへ

紗綾席に座り、考えている

【7】

来夢と陽子戻ってくる。

少し遅れて菜々美やってくる。教室の外で佇む。


陽子 …やっぱわかんないや。私。私は紗綾といると楽しかったから、紗綾にとって、私が友達じゃないっていうの…。

わかんないよ

紗綾 わかんないと思うよ。あんた、バカだし

陽子 だよねえ。なんか、うん。ごめんね。ホント。ごめん。私、無神経だよね。紗綾がめっちゃ勉強してたのに。

ごめん

紗綾 謝らないでよ。ひどいこと言ったのは私なんだから

陽子 でも、その原因は私でしょ?だからごめん

紗綾 何で陽子はそんなに明るくいられるの?

陽子 それは…、何も考えてないから~みたいな?

紗綾 もういいよ。どうせ陽子にはわかんないから

陽子 わかんないよ、言ってくれなきゃ何もわかんないよ

紗綾 ・・・

陽子 教えてよ。私は、どんなこと言われても、紗綾のこと嫌いにならないから

紗綾 …私は、一人になりたくないから、みんなに友達だって言ってほしくて頼まれたことやってあげて、話も聞いてあげて、勉強だって、クラス委員もやってあげて

来夢 それは違う。だって何かしてあげるだけじゃ友達だとは言えないじゃん。紗綾はうちらのこと見下してるんだよ。心のどこかでバカにしてんだよ

紗綾 そんなこと

来夢 そうに決まってんじゃん。そうじゃなかったらあんなこと言わないでしょ

紗綾 …そうだよ。見下してるんだよ。だって、みんな私の言ってることホイホイ信じて、私のいうこと何でも聞いて…。

でもみんな私のこと、委員長とか、勉強教えてくれる人としか見てくれないから

陽子 私は、紗綾のこと、そんな風には思ってなかったよ

紗綾 それは…

陽子 私とは気が合わないんだよ。私のばかなとことか、そういうとこが、紗綾とは…。ただ、それだけ。多分、

どんなことがあっても、仲良くなれないんだよ。…私が、紗綾のこと好きなのと同じくらい…紗綾は私のこと、

嫌いなんだよ。理由なんかなくて、ただシンプルに嫌いってだけで、何かを変えるとかそういう問題じゃなくて、誰が悪いとかそーゆーことでもなくて、

紗綾 違うの!…うらやましかったんだよ。…いつもニコニコしてて、何も考えてないのに、

友達がたくさんいて、みんなに好かれてて、私にはないものいっぱい持ってて、

でも、認めたくなくて、だから私、陽子の悪いとこいっぱい探して…。陽子は何も悪くないのに


誰も、何も言わない。

しばしの静寂。


紗綾 …私なら嫌われても平気…

陽子 え…

紗綾 もう、友達じゃなくていいから

陽子 …

紗綾 陽子のことは、ただの嫌いなクラスメイトだから

陽子 …いいよ。私も紗綾のこと、ただの嫌いなクラスメイトだって思うから

紗綾 うん

来夢 紗綾、うちも紗綾のこと、ただの嫌いなクラスメイトだって思うから

紗綾 そっか…

来夢 じゃあ紗綾 …またね来夢 あれ?

菜々美 さよなら

来夢 あ、うん。ばいばい


来夢はける。


紗綾 あんたも聞いてたんだ

菜々美 聞こえただけです。紗綾さんのこと見直しましたよ

紗綾 …ありがと

菜々美 さよなら

紗綾 …またね

菜々美 あ、カミキリムシ


菜々美はける。


野村 カミキリムシぃ!?


飛び出していく野村。


陽子 なんなの?あれ?

紗綾 いつものことでしょ

陽子 そっか

紗綾 好きの反対は無関心。だって

陽子 え?

紗綾 よくわかんないよね。ホント。よくわかんないよ

陽子 …また。友達になれる?

紗綾 …

陽子 なれるよね?

紗綾 …

陽子 ばいばい

紗綾 …陽子!

陽子 ?

紗綾 また…。…サヨナラ

陽子 …

紗綾 …

陽子 うん。さよなら


陽子出て行く。

紗綾、追いかけようと振り向きやがて足を止める。

陽子の残したイチゴオレの紙パックに気づく。

イチゴオレを握るその顔は、泣いているようにも笑っているようにも見える。


紗綾 またね


紗綾、紙パックを手に取る。

夕焼けの中彼女は一人、勉強を始める


幕。

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