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「ロボットは人の心を動かせる」話をユカイ工学の青木俊介さんに聞いた【コモさんの「ロボっていいとも!」】

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こんにちは、コモリでございます。

今月も、ロボティクス業界のキーパーソンの友達の輪を広げるインタビューコーナー「ロボっていいとも!」のお時間がやってまいりました



前回はPreferred Networksの矢島さん・海野さんに「ロボット開発でUnityを使いたくなる3つの理由」を伺いました。



やはりロボット開発ならではのトピックスもありましたし、そこに対して今のUnityが貢献できていること、また課題点もあることもお話しいただきました。

今回ご登場いただくゲストの方は、まだ開発にUnityをご導入していないとのことですが、ゲストの方の会社がどのような開発体制なのか?などをいろいろ聞いてみたいと思います。



それではゲストをお招きしましょう。本日のゲスト、Preferred Networksの海野さんからのご紹介。ユカイ工学の青木俊介さんです!

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青木 俊介
ユカイ工学株式会社 CEO

青木:はじめまして。よろしくお願いします!




映画『ターミネーター2』のエンジニアが憧れだった


――では、青木さんの自己紹介をお願いします。

ユカイ工学という会社の代表をしております青木です。

私自身は元々、チームラボという会社の創業メンバーとしてCTOの仕事を7年間したのち、ピクシブという会社でCTOを3年間務めました。

小さい頃からロボットを作ることが夢で、2011年にユカイ工学を起業したのですが、当時はまだ今ほどロボットの市場が大きくなくて、創業初期は『necomimi』(※1)を開発したり、『konashi』(※2)のようなIoTツールを作ったりしていました。

しかし昨今は『Pepper』のようなもの、あるいはスマートスピーカーもロボットの一種だと思っているのですが、そうしたものが普段の生活の中でも人々が認知し浸透してきたので、ロボットの市場が大きくなり始めていると思う今日この頃です。


※1:『necomimi』とは猫耳型コミュニケーションツールで、装着した人の脳波を検知し、集中するしている時は猫耳はピンと上に立ち上がり、リラックスしている時はくたりと寝た状態になるなど、新しい意思表示をすることができる。2012年に製品化。
http://neurowear.com/projects_detail/necomimi.html

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※2:『konashi 3.0』とはiOSデバイスと通信を行うことが可能な、スマートフォン・タブレット時代のフィジカル・コンピューティングツール。BLEで通信するのでMFi認証も不要。日本の技適マークも取得済みである。
http://konashi.ux-xu.com/

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――そもそもロボット開発に興味・関心を持ったキッカケは?

元々は『ターミネーター2』という映画を中学生の頃に観たのがキッカケで。今ではもう50回以上観ているのですが、この映画から影響を強く受けてます。

でも、ロボット自体と言うよりは、それを開発するエンジニアの姿のほうに憧れていました。映画中でも、そのエンジニアが自宅のパソコンに向かってキーボードをカチャカチャ叩きながらAIを作るシーン(※3)があるのですが、ああいうシーンにすごくシビれていました。

※3:青木さんが影響を受けたシーンは、1時間22分あたりにあります。Amazon Primeなどで視聴できますので、ご興味ある方はぜひ。




――ロボット開発に興味がある方はハードウェア開発に憧れるのかなと思っただけに意外な答えでした。だとすると、ソフトウェアの興味の方が強かったんですかね?

そうですね。自分も映画を見た後に、あのシーンと同じようなことをやりたかったのですが、残念ながら当時は家にパソコンが無くて。

なので、映画を観てから半年間ほど親を説得して、やっとの思いでPC-9821の98MULTiを買ってもらいました。Windows 3.1でCD-ROMドライブが搭載された機種でした。




「ユカイ」という言葉に込められた意味


――そんな青木さんが起業されたユカイ工学さんですが、どんな会社か教えてください

ユカイ工学スタッフ

ユカイ工学は、ロボットの開発・製造・量産・販売まで手がけており、社員もデザイナーからエンジニア、その他営業も併せて約35人ほどおります。「ものづくり」主体の会社なので、エンジニアの人員数が一番多いです。

ロボットは、商品化しようとするとメカのデザインから基板の設計、マイコンのファームウェアの開発、OSやドライバーの開発、あるいはクラウド連携部分の開発など、あらゆるレイヤーの作業が必要となるので、当社は少人数で役割分担しながら活動をしています。




――月並みな話かもしれませんが、「ユカイ工学」という独特な社名にどういう意味が込められています?

理由の一つは、エンジニアが愉快にものづくりに取り組める会社にしたかったという点。特に私もITサービス出身で、自社サービスを持っている企業の方がエンジニアがモチベーション高く働けるのを見てきたので、自分が起業する際も「エンジニアが自分のアイディアを自由に出せるような環境を作りたかった」という思いがありました。

もうひとつは、ソニーさんの設立趣意書に「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」というフレーズがあるのですが、そのキーワードがすごく気に入っていて、「自分も愉快な理想工場を作りたいな」という思いですね。




――あと気になったのが、御社のドメイン名。「ux-xu.com」って、どうしてこんな記号めいたドメイン名なんです?

これも理由は2つあって。ひとつは顔文字っぽいドメインにしたかった。もうひとつは、「X」はギリシャ文字の読みだと「カイ」になるので、ux→ユカイと読めるようにしたんです。・・・この話、あまり話したことが無いですけど。




「洗濯機」は定義的にはロボットだけど・・・


――ユカイ工学さんの特色を教えてください

当社は「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げて、ご利用いただくユーザーさんの生活がただ効率的になるという価値だけでなく、「愉快になる」みたいな感情・情緒的な価値を打ち出していきたいなと思っています。




――「情緒的な価値」というキーワード、非常に興味深いです。どのようにしてその価値観にたどり着いたんですか?

なぜなら、技術的にロボットの定義はとても曖昧だと思うからです。

たとえばロボットの学会などに行っても、ひたすら画像処理について研究している人もいれば、心理学でロボットと人間の対話について研究している人もいたり、伝統的に二足歩行の研究している人もいたりして。同じ定義の中で動いている・・・とは思えないほど、ありとあらゆる分野の研究者がいるんですよね。

あと、全自動洗濯機は自動で汚れを検知して洗い方を調整したりなど、センサーとアクチュエーターがあって自律的に判断できるという視点で捉えると、定義的には完全にロボットと言えると思うんです。でも、普通の人に「どんなロボットが欲しい?」と尋ねたら、たぶん洗濯機の事をロボットとは言わないと思うんです。洗濯機に名前を付けて可愛がっている人を、少なくとも私は見たことないですし・・・。

どちらかと言えば『aibo』や『Pepper』のような、コミュニケーションするとか触れ合うみたいなことをするモノを「ロボットだ!」と思うでしょうし、多くの人はロボットにはそういうことを期待していると思うのです。




――たしかに世の中の人が思うロボット像みたいなものはありますね

だから、私たちは「人との新しいインターフェイスになるのがロボットである」と考え、活動をしています。

スマートスピーカーも「別にタブレットにアプリをインストールすればいいじゃん」と思う方もいるでしょうが、ハードウェアが変わるとユーザー体験が変わることはスマートスピーカーを使ったことがある人なら分かると思います。また、ロボットいう形になると、感情を表現したりコミュニケーションを取れるインターフェイスになり得たりします。

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たとえば、当社商品で『BOCCO』というロボットがあり、これはスマホアプリを通じてメッセージを送るとロボット自身が読み上げてくれるという機能があるのですが、運動会が嫌で学校に行きたがらないお子さんが『BOCCO』に励まされたことで学校に行くようになった事例があるんです。

あとご年配の方が薬を飲む時間を『BOCCO』が教えてくれるようになるとキチンと薬を飲むようになったり。

家族から言われると「うるさいわよ!」と言いたくなるシチュエーションも、ロボットが介在することでコミュニケーションに変化が出てくる。そういう「人の心を動かすことができる」というのが、ロボットの一番の特長ではないかなと思うのです。

――同じメッセージを人間が入れているにもかかわらず、ロボットが言うだけで受け入れ側の姿勢が変わるのは面白いですね




ハードウェア or シミュレーション、ロボット開発ではどっちを先行させるとよい?


――次の話題は開発環境についてですが、ユカイ工学さんで利用頻度の多い開発環境は?

ハードによっても異なるのですが、OSはOpenWrtという組み込みシステム向けLinuxディストリビューションを使うことが多いので、CやC++でコードを書くケースが多いと思います。モーションエディタを自作する時はElectronでUI構築して作ることが多いです。CADをする際はSOLIDWORKSを使っています。




――私も、他のロボティクス業界の方からの「UnityとCADの接続」の問い合わせの中で、SOLIDWORKSの話題は何度か伺ったことがあります

そういえば、先日のコモさんの記事で紹介していた「『aibo』の開発環境でUnityを導入している話」はすごく興味深かったです。

というのも当社の場合、エディタも自社開発する傾向にあるんですが、開発していく上でロボットのハードウェアができていないとモーション開発をするエディタが作れず、工程が後回しになりがちなので、モーションを先にシミュレーションできることは大きいアドバンテージだろうなあと感じました。

先ほどのSOLIDWORKSの連携の話も含め、Unityを使った開発環境については当社でもトライしてみたいと思いました。




――ハードウェアの手触り感を優先すべきか、それともシミュレーションを先にドンドン作っちゃうと良いのか・・・という議論ですね

ロボットを作っている方だとありがちだと思うのですが、開発期間・出荷時期が決まっているために、モーションやインタラクティブのバリエーションは後回しにされがちな工程だと思うんですよね。

そういう意味では、シミュレーターを取り入れるのは良いアイディアだと思います。

あと、YouTuberのこーじさんのような、物理系面白動画はよく見たりしていて、あそこからハードウェアのインスピレーションをしたりもしていますよ。そういう意味では、あれもシミュレーションの一種ですよね。




「触り心地のよいロボット」がコロナのストレスを緩和


――ここまでの話をまとめつつ、聞きたいことがあります。「人の情動に訴えるロボット」を目指す時に、バーチャルなシミュレーションはリアルに敵わないというか、やはりロボットの手触り感とか重さは非常に重要だと思うので、その点についてはご意見ありますか?

やはり人間ですので、実際のものが存在する事で人間の意識は変化しますよね。そういう点では、リアル世界の手触り感などは大きな要素だと思います。




――ですよね。というのも、私もそう思ったキッカケが御社の『Qoobo』(※4)を見た時なんです。ああいうプロダクトは、ソフトウェア視点だけで考えても出てこないアイディアだと思うんです。ある意味「ロボット業界の革命」だと思ったくらいです!

※4:『Qoobo』はしっぽのついたクッション型セラピーロボット。撫でるとしっぽを振って、人に癒やし効果をもたらす。

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『Qoobo』については「オフィスに置いて癒やしアイテムとして使って欲しい」というメッセージもアピールしようと思ったのですが、今回のコロナで皆さんあまりオフィスに行かなくなっちゃいましたよねぇ。

本当は皆さんに触ってもらいたいんですよね。『Qoobo』の大きな価値はそこにあるので。




――私は逆に、家族含めこのコロナで自宅に閉じ込められているストレスや、自宅のマンションでペットが飼えない事情もあるからこそ、家族のために『Qoobo』を購入しようと思っているんですよね。

ありがとうございます、ぜひご購入いただければ。
https://qoobo.info/index-jp/

【後日談】
――実はインタビューの後、私も早速『Qoobo』を購入しました。今では我が家の娘もお気に入りです。

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少し話を戻すと、「実物の触り心地」のようなアプリだけとかでは実現しにくい事は世の中にたくさんあると思うんです。すごく言語化が難しいので、いろいろな経験や体験から考えていく必要はあると思うのです。

――この話は私もすごく大事なポイントだと思います。「実物の触り心地の良さもある」ことも前提に、Unityも「ソフトウェアというポジション」からどうロボット開発に寄与していくべきかを考える必要があると感じました。




お友達紹介

コモ:それではお友達紹介のお時間になりましたので、お友達をご紹介いただけると。

青木:『LOVOT』の開発を手がけるGROOVE XのCEO・林要さんをご紹介します。

コモ:ありがとうございます。林さんに伝言はありますか?

青木:「日本のロボット業界は林さんにかかっていますから!頼りにしています!」とお伝えいただけますか。

コモ:はい、今日はありがとうございましたー。




お知らせ

今回ご登場いただいた青木さんの会社・ユカイ工学さんでは、『Petit Qoobo』の海外向けクラウドファンディング・Indiegogoを開始しました。

『Petit Qoobo』は『Qoobo』よりひとまわりサイズを小さくしたしっぽロボットで、今回のクラウドファンディングキャンペーンは海外在住者の皆さんが『Petit Qoobo』をゲットできるチャンスとなります。

詳しくはプレスリリースをご覧ください。


ちなみに日本向けはこちらから予約できます。




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