オンライン演劇用台本①『特別なあの子の思い出』

緊急事態宣言から早何日か。なんとかして変化し演劇を続けようとしている状況で自由に使用できるオンライン演劇用台本の作成を始めました。

この作品は、
・オンライン配信環境で上演可能であること。
・ツイキャスなど短めの枠の中でも配信可能であること。
上記に重きを置いております。

また、著作権の放棄はしませんが、
許可なく自由に配信や収録・録音に使用していただいて問題ありません。またそれにあたっての内容の改変や例えば性別の変更なども可能です。自由に変更してください。使用報告も必要ありませんが、いただければよろこんで見に行きます。

台本のテーマなども募集しています。
基本無償提供です。(投げ銭いただけると嬉しいですが設定方法迷子)

オンライン演劇想定 台本
PDFファイルはこちらから

以下台本本文:

タイトル:
『 特別なあの子の思い出』

Cast:
武田香 たけだかおり(女性:相談者)
守田歩 もりたあゆみ (女性:回想シーンのみ)
みつき(女性:相談屋)
※守田歩とみつきは兼役 想定


ーーー

プロローグ:(配信設定が難しい場合はカット可)


SE:ピコン(LINEの通知音)
画面:LINEの画面に切り替わる

画像1

SE:通話の呼び出し音
画面が、ビデオ通話に切り替わる

香「あ、もしもし」
みつき「こんばんは」
香「こんばんは。武田香です。」
みつき「みつきです。よろしくお願いします。緊張されてますね?」
香「あ、はい。なんか、すみません」
みつき「いえいえ、みなさん、そんなもんですよ。なにせ初対面ですから」
香「そうですよね。なんだか不思議な感覚です。」
みつき「えっと、小林さんからの紹介でしたよね。確か同僚なんでしたっけ。小林さんからは何か聞いてます?」
香「はい。小林とは入社以来ずっと同じ職場なんですが、突然、小林の雰囲気がいつもと違って、なにかあったのかときいたら、相談屋の噂を知っているか?と言われました」
みつき「そうですか」
香「知らないと答えると、小林はあなたの存在を教えてくれました。なんにでも相談に乗ってくれる人で、ただ解決してくれるわけではないんだけども、不思議と救われた気分になれると。正直、小林の説明はよく分かりませんでした」
みつき「ははは、そうですね!胡散臭いですもんね」
香「えぇ、まぁ…ただ、そのときの小林はいままで見たことがないぐらいに穏やかだったことはとてもよく覚えてます」
みつき「そうですか。それで?今回、連絡しようと思ったのはどうしてでしょう?」
香「小林から話を聞いたのは一年ほど前でしたから、正直すっかり、忘れていました。
ふと、1カ月まえに貴方の噂を思い出しました。それで」
みつき「それで、思い切って連絡してみたと」
香「はい」
みつき「分かりました。では本題に入りましょうか。どうぞお話してください。香さんがお話したい相談事を存分に」
香「わかりました」

BGM IN

香「あの子はとても特別な子でした。いや、あの子自体はとても普通で、普通すぎるぐらいに普通で、それでも、特別な子だったんです。私にとっては。」

画面切り替わり 映像から静止画へ
回想 小学制時代:

香「歩ちゃん、ねぇ、よかったら、一緒に遊ばない?面白い遊びを考えたの!」
歩「え?あ、うん…遊ぶ」
香「やったー。じゃあ、こっち!一緒に来て!」


香「季節外れの転校生は、どこの学校でも注目の的。彼女も類に漏れず、その対象でした。守田歩ちゃん。彼女は、田舎の小学校には珍しい転校生でした。
ねぇねぇ、前いたところはどんなところ?
ねぇねぇ、前はどんな学校だったの?
ねぇねぇ…まだ制服は届かないの?

彼女がなんと答えていたかは覚えていません。
多分、はっきりとは答えていなかったと思う。
彼女の制服はいつまでたっても前の学校のものだったし、彼女の返答はいつまでたっても煮え切らない。次第に、皆の興味は彼女から離れていきました」

BGM:OUT
画面切り替え:通話画面

香「でもね、私はまだまだ子供だったんです。多分…同級生たちよりもずっと子供だった。周りの女の子たちが盛り上がっているアイドルの話やコイバナなんかより、難しいことなんて考えないで遊んでるほうが楽しかった。それに…」
みつき「それに?」
香「自分は少し特別だと思い上がってました。クラスの誰とでも上手くやったし、今でいう、スクールカースト、中の上的なポジションで上手く渡り歩いて…その、なんていうか…仲間外れになってる子たちとも中途半端に仲良くして、善人ぶってました」
みつき「それは、別に悪いことじゃないような気がするけど」
香「この子たちと上手くやれるのは私だけ。私って凄い、偉い、そうやって思いあがるため、私は、きっと、彼女に声を掛けたんだと思う」
みつき「そう…」
香「彼女とは何度も話しました。彼女とはまた別のタイプの一人ぼっちと一緒に遊ぶこともあれば、彼女と二人で遊ぶこともあった。遊ぶといっても所詮、小学生、レパートリーもなく、ただただ話すだけ。話せば話すほど彼女は普通だった。普通の女の子、可も不可もない、普通の子。彼女とは特別どこかに出かけることはなく、いつも学校で遊んでました。相変わらず彼女の制服は前の学校のもののまま。でも、私はもうその理由を知っていました。彼女の口から一言も聞いてないのに。親や先生の噂話はあっという間に子供たちに伝搬していた。彼女が父子家庭であることや、借金があり住処を転々としていることを」

画面切り替え:画像

香「ねぇ、歩ちゃんは、どこに住んでるの?」
歩「えっと…学校の近くの大きな本屋のすこし手前」
香「え、学校から近いじゃん!いいなー。あ、そうだ、今日帰りに本屋寄りたいから、近くまで一緒に帰っていい?」
歩「え?うん…いいけど…」

香「本当にただの好奇心でした。帰り道。ここが私の家だと教えてもらったのは、人が住むには不向きな古びた3階建ての雑居ビルでした。もちろん、上がっていくなんて、聞かれるわけもなく、ああ、そうなんだね、じゃあ、また明日と別れました」

画面切り替え:通話画面

ーー

みつき「彼女は貴方といる時、どうでした?」
香「どうというのは?」
みつき「歩さんは貴方といて楽しそうでした?」
香「どうでしょう…でも、次第に彼女の口数が増えていった気がする。二人の時はよく笑ってた…でも。もう相当、昔の記憶だから、そうだったらいいな、そうであって欲しいという願望かもしれないけど」
みつき「そうですか」
香「それから数日後、彼女は消えた」
みつき「消えた?」
香「そう、消えた。突然、居なくなった。先生の説明では、引っ越した。ただそれだけ。なんの前振れもなく、突然来なくなって、その日に、それだけでした。…でも、風の噂では…夜逃げしたって」
みつき「夜逃げ?」
香「今時、そんなことあるんだって思った!そんなドラマみたいなこと、あるんだって。幼い私は無邪気にも興奮した。ドキドキしたの。非日常な存在がそこにあったから。テレビの向こう側、物語の中のような、他人のお話。勿論、大人たちの身勝手な噂だから本当かどうか分からないし、もう何十年も昔のことですから確かめようもありません」
みつき「……」
香「それから、私は、こっそりと彼女の家に行ってみました。私だけが知ってる彼女のおうち。それは、勿論、私だけの世界の話。先生たちはきっと知っている。数日ぶりに訪れたそこは、元々、人なんて住んでなかったような佇まいで存在していました。部屋に忍びこむなんてできるわけがなく、扉の前で、幼いながらに、ああ、ここには、もうあの子はいないんだなと、漠然と感じたことを覚えています。結局のところ、彼女がいなくなったことで私の日常なんの影響も受けませんでした。何の変化もなく平穏な日々が進んでいく。人間って本当に非情ですよね、私は次第に彼女がいたことさえ忘れてしまいました」
みつき「でも、貴方はまた思い出した」
香「はい。先日、久々に地元に戻ったんです。久々の実家は暇で暇で、暇つぶしを探しに本屋に行こうと思って。その時、ふと思い出したんです。彼女のことを。もう、ずーっと忘れていた、彼女の家のこと。なんとなく寄り道したそこには、もうあの雑居ビル自体がなく、ただの空き地でした」
みつき「当時で古かったのなら、それはあり得たことですね」
香「ええ、だけども、段々とその建物は最初から存在しなくて、彼女がいたこと自体が私が見た夢だったんじゃないかって思えてきて…!私は、あのとき、二人で話したと思ってるけど、あれは本当だったんだろうか。もし本当だったのなら、私は彼女になにかしてあげられたのだろうか。してあげられた、なんて厚かましい…。それでも、私は、あの時、彼女に話かけたことで、彼女の何かになれていたのか…、ねぇ、私は貴方にとって特別でしたか?特別な存在でしたか?わからない、もう、なにも、わからない…ふと、思い出して、わからなくなって、記憶と、願望と、夢の境界線が曖昧になっていって…」

みつき「優しい人なんですね、香さんは」
香「やさしくなんてありませんよ…」
みつき「そうかな?まぁ、彼女があなたに笑っていた気がするのならそれでいいじゃないですか」
香「え?」
みつき「その時、どう思っていたなんて分からないし、ましてや、そんな、幼い頃のことなんで誰もはっきりと覚えてなんていやしない」
香「そうかもしれないけど、それでも、私は…あの時、彼女の何かに少しでもなれていたのなら…もう少し、もう少しだけ頑張れる気がするんです。身勝手ですよね、勝手にエゴを押し付けて、都合のいいように解釈して、勝手に彼女を特別な存在に仕立て上げて、彼女の特別でありたかったと望む。結局、私は、誰かに縋って生きようとする」
みつき「だったら、それで良いと思います。都合の良いようにしてしまえば。だって彼女はもうここには居なんだから」
香「そんな勝手な」
みつき「勝手でいいじゃないですか。好き勝手に想像して都合のいいように勘違いしてしまえばいい。そうですね…えーっと、香さん。あなたから1カ月前に連絡をもらったときに、『守田歩』という名前は教えてもらいましたね」
香「はい」
みつき「そんなフルネームではっきり覚えてる人間が貴方の妄想なんかであるはずないですよ。守田歩さん。あなたと同じ街で、あなたと共にわずかな時間を共有した人物…。
彼女は間違いなく存在していたし、あなたの記憶は本物ですよ」
香「もしかして…調べたんですか?」
みつき「さぁ?さて、そんな彼女から、貴方に言葉を届けましょうか」
香「言葉?」
みつき「こういうのは雰囲気作りが大事です!まず、目をつぶってください。そうですね、想像する場所はきっと貴方が彼女とよく話していてた場所が良い。時間は放課後の夕暮れどき。ほらほら、ちゃんと目を閉じてくださいね?」
香「はい…」
みつき「じゃ、想像してみましょう。彼女と二人、あの時の夕暮れを」

BGM IN

香ゆっくりと目を閉じる。
みつき、香が目を閉じたことを確認し語りかける。

みつき「香ちゃん…ありがとう。あの時声を掛けてくれて。何度も何度も、面白味もない、私なんかを気にかけてくれて。本当に短い期間だったね。本当はもっと、一緒に居たかったよ。あの時の貴方は、間違いなく私にとって唯一の友達で、特別な存在でした。ありがとう」
香「あゆみちゃん…」
みつき「はーい、目をあけてください。さてさてー私が本当に彼女の言葉を伝えているのか、それとも私が適当に考えた言葉を貴方に伝えただけなのか。それは、貴方の都合の良いよう、好き勝手に解釈してください。ま、きっと胡散臭さしかないと思いますけどね」
香「ふふ…ありがとうございます。たとえ、嘘だったしても、なんだか、少し信じられるものが出来た気がします」
みつき「そう、それならよかった」
香「相談屋なんて、少し、いや、かなり信用してなかったんですけど、貴方に話せてよかったです。こんな、しょうもない話なんですけど、考え出すとぐるぐるとその事しか考えられなくなってしまって、…あの時の小林の気持ちが分かった気がします」
みつき「まぁ、私も好き好んで相談屋なんて言われてるわけじゃないんだけどね、人の相談事を聞いてたら、勝手に評判が一人歩きしちゃって」
香「なんでもない、見ず知らずの貴方だからこそ、こうやって、どうでもいいことを相談できる気がします。それに、なんだかとても、穏やかな気分です」
みつき「それはよかった。ま、人って結局のところろ誰かと何かを共有したいもんですからね。あーでも、噂はあんまり広げないでくださいね。最近じゃ、変なオカルト話の相談まできちゃうんで」
香「それは大変ですね、でも、噂ってそういうものですもんね」
みつき「まぁ、それもそうなんですけどね。でもまぁ、なんだかこうやって、すっきりした人の顔見るの好きだから、お話きいちゃうんですけどね」
香「ええ、貴方に向いてると思います。相談屋さん」
みつき「それは、どうも」
香「そろそろ、時間ですかね。長々と話、聞いてくれてありがとうございました」
みつき「はい。では、また何か相談したくなったら連絡ください。あーでも何もないのが一番ですが。またお会いしないことを祈ってます」
香「確かに、それはそうですね。では、ありがとうございました」


BGM OUT
画面切り替え:通話終了


Written by 高尾静(空空-karakara-) 2020.4.24


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