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オンラインで「人生路線図」ワークショップをやってみた!~準備から実践まで、その舞台裏と気付き~

(5/3 18:30 記事タイトルを変更しました)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学校の休校が続く中、学生の皆さん、保護者の皆さまも不安な日々を過ごされていることと存じます。また、日々刻々と変わる状況の中でご尽力されている学校の先生方、行政機関の皆さまに、心より感謝申し上げます。

このような中、私たちUniculも中高生のために何かできることをしたい!と考え、3月には、昨年「伊那谷サマースクール2019」に参加してくれた長野県伊那地域の高校生向けにオンライン企画を開催しました。

そして今度は、普段対面で実施している中高生向けキャリア教育プログラム<Queque>のうちの一つ、「人生路線図ワークショップ」を、オンラインでも展開できるよう、まずは団体内部でチャレンジしてみることに!
新年度、団体のメンバーに応募してくれた新入生が多数いたので、活動の体験会を兼ねて実施することになりました。

…という話が持ち上がったのは4月4日(土)、そのとき決めた実施日は18日(土)。差し引き、準備期間は2週間。さらに、中心を担うメンバーの大半はボランティアの社会人メンバーで、作業に確保できる時間は仕事終わりの深夜と土日のみ。
そんな相変わらずの突貫工事でしたが、どんな手順で”ワークショップのオンライン化”に漕ぎ着けたのか、白熱のルポ(!)をお届けします!

1.「人生路線図ワークショップ」とは

<Queque>プログラムのうち、「視野を広げる」フェーズにあたる「人生路線図」は、

・ゲスト(大学生や社会人)を参加者で囲んで、その人の歩みを聞き、「自分ならこのとき、こうする」と考え、
・一人ひとりの「自分ならこうする」をもとに、ゲストに過去の選択に関する質問をぶつけて、得られた回答からその人の大切にしていることや価値観を言語化する方法を学ぶ

というワークショップです。一言でまとめれば「人の歩みや価値観の引き出し方を知る」がテーマです。

さて、そんな「人生路線図ワークショップ」ですが、普段行っているオフライン版は、

・ゲストの話をふせんにメモし、模造紙に貼って、ゲストの人生の歩みを描いた「路線図」を模造紙上で作る
・「自分ならこうする」と考え、さらにふせんに書いて貼る
・「自分ならこうする」をもとに、ゲストのこれまでの歩みについて質問して掘り下げていき、話を聞きながら模造紙にメモをとっていく
・最後に「ゲストはこんな価値観をもった人」を1人ずつ言語化して、路線図に名付けしてまとめる
・1人1つ、ゲストの「人生路線図」が完成!

という順番で進行します。

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▲オフライン版の「人生路線図」はこんな感じ

こんな超アナログワークショップをどうオンライン化するか、Uniculのワークショップ職人のチャレンジがはじまりました。

2.ワークショップのオンライン化における3つのステップ

Uniculでは、ワークショップを運営する際は、
・タイムライン(各パートの作業内容や所要時間を書き込んだ進行表)
・進行用スライド
・ワークシート

の3点を必ず用意することになっています。

ということで、まずはオフライン版としては既にあるタイムラインと進行用スライドを、オンライン版にアップデートすることに。
どのようなステップを踏んだか、簡単にご紹介します。

①ツール利用のイメージを固め、タイムラインをアップデートする
今回は進行をzoomで行い、参加者が作業をする場(ワークシートの代わり)としては、オンラインのホワイトボードアプリであるmiroを活用することにしました。

※miroって何?という方には、こちらの記事がわかりやすくておすすめです。

使用するツールを決めたら、元のワークショップの進行を置き換えていきます。たとえば、

・開始時の趣旨説明はzoomで・全員で。
・自己紹介はzoomのブレイクアウトセッションを活用しつつ、あえてmiroを利用する作業を挟むことで、miroの使い方に少し慣れてもらうと良さそう。
・その後は、作業内容の解説は全体で行い、グループでの作業に移る際はブレイクアウトセッションを活用する、の繰り返しかな。
・ゲストの話を聞きながらmiro上にふせんを大量に作っていくのは辛いかも…となると、どこかにメモのスペースを作ったほうがいいのか。

…といった具合に、頭の中でシミュレーションしながら、その結果をタイムラインに細かく落とし込んでいきました。

いろいろ検討していく中では、オフラインでの実施よりも時間がかかりそうなパートが出てきますので、そのあたりも微調整します。
たとえば、ふせんをめくって書く、という一見単純な行為も、miro上ではふせんのアイコンを選んで、文字サイズを調整して、という、わずかに余計な手間が生じる場合があります。

あるいは、個人ワークではなくグループワークにした方がうまくいきそうなパートも出てきます。
たとえば、オフライン版のワークショップでは1人1つ(1枚)の「人生路線図」を作成することになっていましたが、互いのコミュニケーションを促進するため、今回はグループで1つの「人生路線図」を作成することとしました。

②miro上に、作業用のテンプレートや見本を作成する
次に、前述したような「miro上ではふせんのアイコンを選んで、文字サイズを調整して、という、わずかに余計な手間」を省くため、またオンライン版ではなかなか作業イメージが示しづらいこともあり、あらかじめ作業用のテンプレートや見本をmiro上に作成して準備しました。

自己紹介用・人生路線図用など複数のフィールドを、グループファシリテーターごとに用意し、その周辺にコピーすれば使えるような状態にしたふせんやメモ用スペースを貼っておきました。

また、見本として、自己紹介フィールドの完成イメージや人生路線図の完成イメージも作成しました。これらはこのまま画像化して進行用スライドに貼り付けたりという活用もできるので、おすすめです。

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▲miro上で作った完成イメージ

③進行用スライドをアップデートする
最後は、タイムラインやmiro上の見本などを素材に、対面でのワークショップで用いていたスライドをオンライン向けにアップデートしていきます。

その際はとくに、各パートの作業内容を説明する部分で、ブレイクアウトセッションへの移行後に行う作業について、すべての手順を詳細に紹介できるよう注意しました。
zoomでの進行は、機能的には申し分ないのですが、たとえば途中で全体にアナウンスしたい、グループごとの作業内容を確認し軌道修正したい、といったことに対する機動性は、どうしても落ちてしまいます。
作業見本の画像なども活用しつつ、いつもより丁寧にスライドを作りこむよう心がけました。

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▲スライドの一部。視覚的にわかりやすく、丁寧に手順を説明

3.いざ実践!

…という作業を2週間(と言いつつ、総作業時間は3日間くらいの突貫工事でしたが…)で行い、当日の午後に運営側の打ち合わせを行って内容や進行を微調整、そして本番!ということになりました。
参加者側としては、最近加入したメンバーを中心に計17人が参加してくれることとなり、あくまで「体験版なので!」と言いつつもも、「うまく進められなかったらどうしよう…」と運営側もかなりのドキドキでした。

なお、運営側の打ち合わせも相当重要だと感じました。

まず、タイムラインで想定した通りにツールを操作できるようになるまで、時間がかかります。
運営側全員で段取りを確認しながらzoomのブレイクアウトセッションが利用できるまでに30分程度かかりましたし(これは情けない限りですが…)、miroの機能を確認しつつ全員が操作に習熟するまでまた30分程度、という感覚です。

また、打ち合わせをしながら、「通信環境が悪くなった、ツールの使い方が分からない」等の参加者の困りごとにどう対応するのか、また各グループの進捗についてメインファシリテーターやグループファシリテーターの間でどう共有するかについて、ルールを決めることになりました。

参加者の困りごとについては、

・そもそも通信環境が悪い等でzoomが使えない場合は、参加者専用のslackで問い合わせを受ける
・それ以外、進行中にツールの使い方でつまずいたなどがあれば、zoomのチャットで呼びかけてもらう

という方法で対応することとし、メインファシリテーターやグループファシリテーターの進行中の情報交換は、slackに専用のチャンネルを設けて対応することになりました。
(一般論として、オンラインでのワークショップでは、zoomやmiroといったメインのツールが利用できない場合の、バックアップの連絡手段を持っておくことは、非常に重要かと思います)

さて、本番に話を戻すと…こんな感じ!

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▲各グループでつくった「人生路線図」
(個人情報が含まれているため、解像度を下げています。ご了承ください)

3グループに分かれて、各グループのゲスト(兼グループファシリテーター)の話を聞き、「私ならこうする」を書き込み、質問をしてゲストの価値観を掘り下げながら、各グループ個性豊かな人生路線図を作り上げました。

結果としては、新メンバーからも「楽しかった!」「価値観を掘り下げることができて、視野が広がった!」「自分もオンラインワークショップを運営してみたい!」という声が多く、大成功に終わりました!
オンライン版ならではのやりづらさも多少はありましたが、それを上回る面白い発見もあり、オフライン版とまったく遜色ないものになったと思っています。

4.オンライン版体験会からの気づき5つ

実施後のフィードバックも踏まえ、以下オンライン版体験会を通じて感じたことを簡単にまとめておきます。

①成果物の自由度が上がる

オフラインでは、「その場にあるもの(大抵はふせん・模造紙・ペン)しか使えない」というある種の制約があったわけですが、オンラインではその制約がない、というのは最大の発見です。
作業が進むにつれ、各グループではイラストや画像を自由に貼り付けたり、オフラインでは出せないようなデザイン感を出したりと、運営側が用意したテンプレートからは想像のつかない、個性あふれるアウトプットができました。

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▲路線図に電車を走らせてみたり、ファシリテーターの口癖「神!」を真似したり・・・

②メインファシリテーターとしての運営全体統括は、ほとんどストレスがない

参加者の反応が分かりづらく喋っていて若干寂しかったことと(笑)、ブレイクアウトセッションの設定の仕方が若干鬼門かと思いましたが(グループ分けに若干手間がかかる、毎回時間設定をミスる…)、それ以外はほとんどストレスなく進行ができました。
ブレイクアウトセッション中も、zoomのルームを横断したりmiroで動きを見ることや、slackの専用チャンネルで情報交換を行うことを通じ、各グループの作業状況を把握できたため、オフラインでのワークショップとそれほど感覚は変わりませんでした。

③運営側のスタッフ数は、オフラインよりも多い方が良いかも

上記で、運営全体統括はほとんどストレスなし、と書いたものの、zoomを操作し、miroを見て、slackにも気を配り、というのは割と大変でした。
一応、参加者の困りごと対応専門として、既にテクニカルサポートスタッフを1人置いていたところでしたが、たとえば
・メインファシリテーターを、「喋る担当」と「プレゼンテーション・zoom操作担当」などで2人体制にする
・グループファシリテーターも同様に、「グループ内のファシリテーション担当」と「メインファシリテーターとの調整担当」で2人体制にする
といった手厚い対応の方が、より安心して取り組めるかもしれないと思います。

④ワークショップ中のコミュニケーションへの課題感

私個人としては、ワークショップ中のコミュニケーションについては、オフライン版を完全に代替しきることは難しいと思いました。
メインファシリテーター・グループファシリテーターによる参加者個人へのちょっとした声かけや、参加者個人同士のちょっとした会話は、オンライン版ではまだまだ再現しづらいような印象です。
ワークショップでは、ワークショップそのものからの学びに加え、そういったコミュニケーションから得るものも重要かと思っています。
もちろん、オンラインでも進行の工夫やツールの使い分けで変わらない効果を出せるという説もありますので、今後もいろいろな方の実践やフィードバックを期待したいと思います。

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▲終了後には参加者から忌憚なきフィードバックを。こちらもmiro上でメモ

⑤そもそも、通信環境やツールへの習熟に、機会や学習効果が左右される

最後、忘れないように、あえて少し大きな課題を指摘しておきますが、そもそも「通信環境が悪く、そもそもzoomにアクセスできない(結局参加を断念)」「PCがないのでスマホで参加します」といった参加者がいました。
また、こういったツールを使った経験のある大学生や社会人であっても、miroの使い方に慣れるまでに時間がかかる、zoomとmiroを同時に見るのが難しい、といった声もあがりました。
オンラインで学ぶため、またそこから最大限の効果を得るためには、その前提となるインフラやリテラシーが必要です。
既に学校や行政でも検討が進められているところではありますが、インフラをどう整えていくか、そしてそもそも「オフラインとオンラインで、どう学びを再構成していくか」について、最大限に急ぎつつ、かつ中長期的な視野で、議論を重ねていく必要があるように思いました。

4.まとめ

新型コロナウイルス感染拡大の影響は長期にわたる可能性が高く、学校が休校になり、オンラインでの機会も(様々な方々の努力で急ピッチで拡大していますが)まだまだ発展途上ということで、中高生向けのキャリア教育に携わる団体としても「学びが止まる」ことに対する危機感は日に日に強まるばかりです。

とくに、仮に学校が再開されたとしても、教科学習の内容消化が優先されれば、キャリア学習や進路を考えることに費やす時間が大きく失われることも、大いに考えられます。
今年、進路選択に直面する現中学3年生・高校3年生をはじめとして、中高生は様々な困難に直面することが懸念されます。

Uniculとしては、今回の「人生路線図」ワークショップのオンライン化を皮切りに、少なくとも既存のワークショップについては、可能な限りオンラインでも提供できるよう、順次準備を進めていければと考えています。

一方で、Uniculがこれまで大切にしてきたのは、ただ一方通行で話を聞いたり情報を届けたりするだけでなく、一生役に立つ「考え方」を楽しみながら身に付けられるような場を設計することです。
これらはただ単純にオンラインで置き換えられるものではなく、団体としても大きなチャレンジだと感じています。

中高生のキャリア学習や進路選択という切り口で生じている影響や課題についても、微力ではありますが、「今必要とされていること」「長期的に必要とされてくること」の両面から現状をとらえ、オンラインワークショップという枠にとらわれることなく、貢献していきたいと考えています。
学校の先生方や保護者の方、行政の皆さま、私たちにお役に立てる場面がありましたら、こちら からぜひご連絡ください。

新年度、Uniculは新たなメンバーを迎え、大学1年生から、20代・30代の社会人まで、バックグラウンドも様々なメンバー30名ほどの組織となりました。
困難な状況が続きますが、今後も様々な形で、「若い世代に、未来を描き、切り拓くチカラを。」届けていくチャレンジを続けていきたいと思います。引き続き応援よろしくお願いいたします!
(共同代表理事・永野)

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いただいたサポートは、より多くの中学生・高校生に私たちのキャリア教育を届けるために活用させていただきます。ぜひ応援いただければ幸いです。