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【読書ノート】26「失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織」マシュー・サイド

著者によると、人や組織が進化を遂げて成功するカギは失敗から積極的に学ぶことであり、これが出来るのはごくわずかな人と組織であるということです。そして重要なことは個人の判断ミスが起きた根本原因を究明すること、そしてそれが生じる原因となった組織の改革に着手することであると著者は述べています。なぜなら個人を処罰したところで問題の抜本解決には至らないだけでなく、逆に処罰を恐れ失敗を隠す意識が組織全体に広がり、表面化しない失敗が積み重ねられ大事に至る可能性が高くなるからです。また、日本の企業のように失敗が許容されず失敗から学ぶ文化が根づいていない組織ではリスクを取って挑戦する人がいなくなるのでイノベーションが起こりにくいと述べています。
(以下、重要と思われた個所を抜粋)


1. オープン・ループとクローズド・ループ

「クローズド・ループ」とは、 失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、 進歩 につながらない現象や状態を指す。逆に「オープン・ループ」では、失敗は適切に対処され、 学習の機会や進化がもたらされる。(No.247-249) 
クローズド・ループ現象は遠く離れた世界で起きているものではない。我々が暮らす現実社会の縮図そのものだ。(No.2330-2331)

2. 失敗の内的要因

1) 人はたいてい、自分は頭が良くて筋の通った人間だと思っている。自分の判断は正しくて、 簡単にだまされたりしないと信じている。だからこそ、その信念に反する事実が出てきたときに、自尊心が脅され、おかしなことになってしまう。(No.1206-1208)  事実をあるがままに受け入れず、自分に都合のいい解釈を付ける。あるいは事実を完全に無視したり、忘れたりしてしまう。そうすれば、信念を貫き通せる。(No.1211-1213)
 
2) 人は無意識のうちに、早く利益を受け取りたいと願う。値上がり株を売った瞬間、自分の判断は正しかったという正真正銘の証拠が手に入るからだ。(No.1507-1509) 我々は外発的な動機より、自尊心を守りたいという内発的な動機のほうに支配されやすい。(No.1515-1516) 

3. マージナルゲイン

マージナルゲインとは、小さな改善を重ねることで大きな成果が生まれるという考え方です。 マージナル・ゲインは、今や新世代の開発経済学者の中心的なアプローチになっており、この10 年で国際開発援助のあり方が大きく変わった。彼らは壮大な構想を立てるより、小さな改善点を探す。(No.2623-2624)

4. 失敗から学ぶ

1) ひとつは貴重な学習のチャンス。失敗から学んで潜在的な問題を解決できれば、組織の進化につながる。もうひとつは、オープンな組織文化を構築するチャンス。ミスを犯しても不当に非難されなければ、当事者は自分の偶発的なミスや、それにかかわる重要な情報を進んで報告するようになる。するとさらに進化の勢いは増していく。(No.2902-2905)  肝心なのは、問題を深く探って、本当に何が起こったのか 突き止めることだ。(No.2908)
 
2) ビジネス、政治、軍事の世界では、責任のなすりつけ合いは日常茶飯事だ。だが当の本人には、まったく悪気がないことが多い。みな、本当に相手のせいだと思っている。(No.2987-2989)
 
3)「非難や懲罰には規律を正す効果がある」という考え方が管理職に浸透していることも問題を根深くしている。 彼らは「失敗は悪」として厳しく罰すれば、社員が奮い立って勤勉になると信じている。No.3003-3005)
 
4) つまり、管理者が非難に走らず、 時間をかけて本当に何が起こったのかを丁寧に調べる姿勢を見せていれば、部下は責任追及を恐れずに済む。プロとして堂々と事情を説明し、意見を言うことができる。(No.3061-3062)
 
5) ミスの適切な分析を伴わない非難は、組織に最も頻繁に見られ、 かつ最も危険な行為のひとつである。こうした懲罰志向は、「規律と開放は互いに相容れないものである」という間違った信念の上に成り立っている。
(No.3072-3074)
 
6) 公正な文化では、失敗から学ぶことが奨励される。失敗の報告を促す開放的な組織文化を構築するには、まず早計な非難をやめることだ。(No.3129-3130) これはつまり、我々が非難の衝動と決別するためには、相当な努力と覚悟が必要となることを意味している。(No.3380-3381) 

5. 成長型マインドセット

1)「 成長型マインドセット( growth mindset)」の傾向がある人は、知性も才能も努力によって伸びる考える。 先天的なものがどうであれ、根気強く努力を続ければ、自分の資質をさらに高めて成長できると信じている。(No.3495-3497) 

2) 個人でも組織でも、失敗に真正面から取り組めば成長できるが、逃げれば何も学べない。(No.3512) 肝心なのは、成功や失敗をどうとらえるかだ。(No.3601) 彼らにとって、引き際を見極めてほかのことに挑戦するのも、やり抜くのも、どちらも成長なのだ(No.3611-3612) 

3) 成長型マインドセットで物事を考えれば、失敗から学べる。失敗から学べれば、進化がもたらされる。そしてこの進化のメカニズムこそが、人や組織の成長を加速するのだ。(No.3666-3667)

6. 失敗を嫌う日本

1)「失敗はより賢くやり直すためのチャンスにすぎない」
一方、日本では全く文化が異なる。複雑な社会的で経済的背景の影響によって、失敗は不名誉のものとみなされる傾向が強い。失敗は、基本的に自分だけでなく家族にとっても恥なのだ。ビジネスが失敗して非難されるのは珍しいことではなく、非常に厳しく責任を追求されることも多い。
 
2) 起業家精神に関する統計も見てみよう。世界銀行のデータによれば、日本の年間企業率は OECD 諸国の中で最下位だ。2013年においては、アメリカの1/3に止まった。また「OECD科学産業スコアボード2008」によれば、ベンチャー投資額についても日本が最下位だ。アメリカの投資額は対 GDP 比で見ると日本の20倍以上にも及ぶ。(No.3261)

7. 確証バイアス

1) 「人間は一度意見を決めると(それが一般的に認められているものであろうと、自分自身が 信じているものであろうと)、何事もその意見を支持するものとしてとらえる。たとえその向こうに数々の反証が存在していようとも、見て見ぬ振りをして決して受け入れず、有害な固定観念 によって、もとの解釈を神聖化し続ける」(ベーコン)(No.3728-3731)
 
2) ところが社会問題となると、逆に何の裏付けもないほうが、説得力のある話として受け入れられる。それが単なる個人的な直感でしかなくても「信念」が礼讃されてしまう。(No.3793-3794)

(2022年5月7日 )
 



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