アンサング・ハニービー


 魔法都市アトランティアの夜は明けることを知らず激しく猥雑であった。魔法ネオンライトで照らされた看板はどれも頽廃的でこの都市の狂乱ぶりを物語っていた。そんなイカれた繁華街を黒ローブの男が人手を避けるように移動していた。
「奴らに尾行されている……尾行をまかないと主の生命が危ない」
 黒ローブの男は焦っていた。彼の主はアトランティアの市長に対して叛意を抱いていた。しかし、アトランティアの市長は強大な力を持つ独裁者であり、対立したものは必ず変死体として発見されるのだ。それ故にアトランティア市長に動きを悟られないようにしなければならぬのだ。だがそれは不可能に近かった。現に黒ローブの男は謎の追跡者に追われていた。
「しまった……行き止まりだ」
 黒ローブの男は焦りからか袋小路に迷い込んでしまった。これは黒ローブの男の迂闊であった。
「ようやく追い詰めたぞ、市長の周囲をコソコソと嗅ぎ回るネズミをな」
 追い詰められた黒ローブの男に嗜虐的な笑みを浮かべながら辮髪姿の大男が現れた。どうやら彼が追跡者らしい。
「貴様がどこの家の何者かはどうでもいい……ネズミは駆除しなければならないからな!」
 辮髪はそう吐き捨てると懐からトゲつき鉄球を取り出して黒ローブにめがけて投擲した!
 黒ローブにはこの豪速球は回避不可能であり、トゲつき鉄球を直撃してしまい、血を流し倒れた。
「他愛もない奴だ……市長に刃向かうやつは遅かれ早かれこうなるのだ!」
 辮髪は黒ローブの死体に一瞥もせずに去っていった。だから彼はその殺人の様子を観察していた一羽の蜜蜂の存在に気づかなかった。蜜蜂は黒ローブの死体の周囲を飛び回るとどこかに去っていった。

「また、人が死んでしまったのね……」
 遠い目で外の景色を見る少女。ここはアトランティア某所にある占いの館だ。その少女の視点の延長線上には蜜蜂の姿があった。

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