陰陽師、修繕屋と宴す

聖帝歴666年、初春、機工街。
 二級陰陽師、萩生清純は難題に陥っていた。帝都の霊的守護に向けて警らとして放っていた式神の烏が行方知らずになり、最後に目撃されたのがちょうど機工街の上空だったのだ。
 清純は二級陰陽師である。しかも同族のコネで入れられた陰陽府で毎日ひたすらにこまごまとした雑用をこなす清純にとって今回の任務は大変な難題である。
 萩生清純の人生の目標は無風生活である。出世名誉などには興味はない。日々穏やかに暮らして生きたいのだ。どういうわけか、行方知らずの帝都の警ら式神の調査という一大事を担うことになったのだ。
「今回の一件は、どうなることになるのかわからんがやってみるしかあるまい」

 清純は陰鬱な心持で機工街に足を踏み入れることになった。機工街は、雑多な人々でごった返している。路上でブリタニア渡来の蒸気工芸品を販売する行商人やら、旅芸人の興行、辻碩学家の演説やらで、洛内の静謐なる空間の一線を画した、別空間であることを主張する。
 (まず誰に声をかけるかが問題だ。私には協力者が必要だ。できれば暇人がいい)
 機工街であてもなく調査をするわけにでもいかない。ここで思い切って占術に頼ることにした。おもむろに八卦盤を取り出し、祝詞を紡ぐ。この程度の占術は二級陰陽師でも容易い。あっという間にどう進むべきかの指針ができた。北東方向に探し人あり。早速北東方向の路地を潜り抜けていく。やがて、薄暗いパイプを張り巡らせた路地に突き当たり一軒の寂れた店舗を見つけ出した。見るからに何らかのオーラを感じるたたずまいに清純は手ごたえを感じる。「よろず、修繕します。蒸気鍛冶、岸部商会」と書かれたホーロー看板が鈍く光り存在を主張していた。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?