マグロブリンガー

静寂なる深夜、冷凍庫ダンジョンを俯瞰する黒い影があった。スキンヘッドのミショウ、モヒカンのマスタード、そして上半身タトゥーのパスカルだ。
 彼らは全身を重火器に武装しており剣呑なアトモスフィアを漂わせていた。それもそのはず、奴らはプロのマグロレイダーだからだ。冷凍庫ダンジョンを襲撃してはマグロを略奪し、裏ルートで高く売りさばく悪辣な裏社会の住人だ。マグロレイダーの恐ろしさは関東一円に知れ渡っていて、命知らずのパンクスが避けて通るほどである。敵に回してはいけない存在である。
「パスカルの兄貴、ここに鮮度がいいマグロが安置しているのはほんとうですかい?」
「拷問により聞き出した確かな情報だ。マグロ情報は足が速いから早い者勝ちだ」
「早く新鮮なマグロのご尊顔を見たいぜ」
 恐るべき襲撃者どもは一般人が聞いたら身の毛がよだつような会話をしながら念入りに冷凍庫ダンジョン襲撃の準備をしていく。何たる用意周到な襲撃計画であろうか!?
じわりじわりと冷凍庫ダンジョンに近づきつつあるマグロレイダーは見張りを確認すると、マスタードが見張りを始末に向かう。
「ククク……死ねい!」
 BLAM! BLAM! アサルトライフルが火を噴き、見張りはあっけなく地に伏せた。これが一般警備兵とマグロレイダーの残酷な実力差であろうか!?
マスタードは首尾よく始末したことに安心した。そして懐から携帯用発煙筒を取り出した。襲撃の準備完了の合図だ。だがそれは使われることがなかった。……次の瞬間、マスタードの胸を刃物が貫いたからである!
「アバーッ!!」
薄れゆく意識の中でマスタードは恐る恐る振り向くと一人の男の姿が目に見える。藍色のスタジャンに大間マグロのエンブレム……手に持つカタナの銘は「刺身包丁」!――奴の仕業だ。マグロレイダー界のリビングレジェンド。その名はマグロブリンガー!!

【つづく】

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