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多発性硬化症治療剤/ヒト型抗CD20モノクローナル抗体 ケシンプタ皮下注20mgペン:オファツムマブ(遺伝子組換え)

多発性硬化症に対する新しい作用機序の薬剤

本剤はCD20 分子エピトープを特異的に認識する遺伝子組換えヒト型免疫グロブリン(Ig)G1κ モノクローナル抗体です。B 細胞及 び一部のT 細胞サブセット表面に発現したCD20 分子上の細胞外小ループ及び大ループの一部をエピトープとして特異的に認識して細胞に結合し、補体依存性細胞傷害(CDC)作用及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)作用を誘発することにより細胞を溶解させます。

本剤の有効成分であるオファツムマブ(遺伝子組換え)はアーゼラ点滴静注液100mg、1000mg(以下、アーゼラ)の製品名で「フルダラビンおよびアレムツズマブ(遺伝子組換え)に抵抗性の慢性リンパ性白血病」の効能効果で、本邦においては2013 年3 月25 日に「再発又は難治性のCD20 陽性の慢性リンパ性白血病」の効能効果で承認されました。ノバルティス ファーマ社は、2015 年11 月にグラクソ・スミスクライン株式会社よりアーゼラの製造販売を承継したが2022 年4 月に承認整理しています。

一方、慢性炎症性脱髄疾患である多発性硬化症(MS)では、再発時に認められる急性期病巣の形成に自己反応性B 細胞及び自己反応性T 細胞が重要な役割 を担っています。オファツムマブは、細胞溶解作用を介して末梢及び中枢神経病巣における自己反応性B 細胞及びT 細胞の免疫反応を抑制し、炎症性脱髄の形 成及び進行を抑制することによりMS に対して治療効果を発揮します。

再発寛解型MS(RRMS)患者においてプラセボ対照の海外第Ⅱ相静脈内投与試験(OMS115102 試験)でオファツムマブの安全性及び有効性が確認された 後、皮下投与での至適用法用量を検討する海外第Ⅱ 相皮下投与試験(OMS112831 試験)が実施されました。その後、2015 年12 月にノバルティス社が グラクソ・スミスクライン社から開発権を継承し、 MS の診断基準を満たすclinically isolated syndrome(CIS)、RRMS 及び疾患活動性を有する二次性 進行型MS(SPMS)を含む再発を伴うMS 患者を対象としたオファツムマブ皮下投与の海外第Ⅲ相臨床試験(G2301 試験及びG2302 試験)を実施しました。 その結果、teriflunomide(本邦未承認)に比べ有意なMS の再発予防効果及び身体的障害の進行抑制効果を示すことが検証され、良好な安全性プロファイル を示すことも確認されました。米国では、2020 年8 月に成人の再発を伴うMS(CIS、RRMS 及び疾患活動性を有するSPMS を含む)を適応症として承認されました。 本邦においては、ロシアと共同で、Gd 造影T1 病変数を主要評価項目とした、再発を伴うMS 患者を対象とした、24 週間のプラセボ対照二重盲検期のコアパ ートとコアパートを完了したすべての被験者に対してオファツムマブを皮下投与した継続投与パートからなる国際共同第Ⅱ相臨床試験(G1301 試験)を実施 し、24 週のカットオフデータにおいて主要目的を達成しました。2020年3月に「希少疾病用医薬品」の指定を受け、主に上記のG2301 試験、G2302 試験及び G1301 試験の成績に基づき2021 年3 月に効能又は効果を「下記患者における再発予防及び身体的障害の進行抑制:再発寛解型多発性硬化症、疾患活動性を有する二次性進行型多発性硬化症」として承認を取得しています。

ここまでは本剤インタービューフォームの抜粋です。

B型肝炎ウイルス再活性化リスクの評価について

以上を踏まえて、B型肝炎ウイルス再活性化(HBVr)のハイリスク症例における本剤の使用可否についてどのように考えるべきでしょうか? 

以下、同剤の申請資料概要から抜粋しています。


警告欄に「B型肝炎ウイルス再活性化(HBVr)」が設定されている根拠について

多発性硬化症(MS)を対象としたオファツムマブの臨床試験では B 型肝炎の再燃は報告されていない。また,MS 患者では,悪性腫瘍患者のように極度な免疫不全となることはなく,免疫抑制剤の併用の有無も異なることから,免疫抑制の程度は異なると考えられ,本剤の B 型肝炎ウイルスの再活性化のリスクは既承認本薬製剤を慢性リンパ性白血病患者に使用する場合とは異なる。
一方,海外第 III 相試験(G2301 試験及び G2302 試験)及び国際共同第 II 相試験(G1301 試験)では B 型肝炎ウイルスキャリア患者等のハイリスク患者が除外されていたこと,既承認本薬製剤を含む抗 CD20 抗体を悪性腫瘍患者に投与した際に B 型肝炎ウイルスの再活性化が報告されていること,B 型肝炎ウイルスの再活性化は致死的な経過を辿る可能性があること等を考慮して,警告の項を設定し,慢性リンパ性白血病を対象とした既承認本薬製剤の臨床試験で B 型肝炎ウイルスの再活性化が報告されていることを記載した。
本剤投与後の B 細胞枯渇による全身的な免疫調整及び免疫機能の低下を考慮し,B 型肝炎ウイルスキャリアに対する注意を設定した。B 型肝炎ウイルスによる劇症肝炎又は肝炎増悪を防ぐために,日本肝臓学会作成の B 型肝炎治療ガイドラインを参考に,本剤投与開始前に必要なウイルスマーカー検査を行い感染の有無を確認し,あらかじめリスクを評価すること。

ケシンプタ 申請資料概要

こちらが日本肝臓学会編 B型肝炎治療ガイドラインです。


慢性リンパ性白血病(CCL)に対するオファツムマブは、HBVrにおいて高リスクに分類されます。ですが、同剤は概ね3rd lineの治療で用いられており、2000mg/4weeksのレジメンです。MSに対する20mg/4weeksの治療と比較して患者背景や用量の乖離が大きく、上記の通り評価困難と考えました。

しかし、承認申請時に提出された臨床試験にはHBVrのハイリスク症例は含まれていないようです。

症例報告を探してみましたが、見つけることができませんでした。

日本肝臓学会編 B型肝炎治療ガイドラインによると、このような症例はHBs 抗原陽性例は肝臓専門医にコンサルト。また、すべての症例において核酸アナログの投与開始ならびに終了にあたって肝臓専門医にコンサルトするのが望ましい。とのことです。
ケースバイケースということでしょうか。

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