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僕が「ライジャケサンタ」を10年続けている理由

香川県を拠点に、熱く子どもたちへのライフジャケット普及活動に取り組む方と出会いました。森重裕二さんです。

小学校教諭として働いていた2007年、高知県の四万十川で小学生2名が亡くなった事故をきっかけに、「ライジャケサンタ」を名乗りながら、さまざまな活動を通じてライフジャケットの必要性を訴え続けています。

森重さんが代表を務める「子どもたちにライジャケを!」のコンセプトは、“思いはただ1つ…子どもたちの命を守ること”。今回は活動を始めた経緯、活動内容とその成果、今後の展開についてお話を伺いました。


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(プロフィール)
子どもたちにライジャケを!
代表 森重裕二さん
2009年より活動を開始。趣旨に賛同してくれる人を募りつつ、ホームページやTwitter、Facebook、Instagramでの情報発信に加え、テレビ・ラジオ出演、講演や各種イベントへの参加を通じて、「水辺に近づく子どもたちには『ライフジャケット』を着けさせましょう!」というメッセージを発信。香川県が運営する“学びと交流の場” である「かがわ里海大学」の講師も務める。2019年春、約20年続けた小学校教諭を退職。さらに「ライフジャケット」のことを伝えるために日々活動中。

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思いはただ1つ・・・水の事故から子どもたちの命を守ること。

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—森重さんが、子どもたちにライジャケを!の活動を始められたのは2009年からとのことですが、そのきっかけを教えてください。

森重:
その頃、滋賀県の小学校で教員を務めていたのですが、もともと私が趣味でカヤックの大会などに出場したり、障がい者カヌーの大会運営に携わっていたこともあって、ライフジャケットの必要性についてはよく知っていました。

当時、自分が勤務している学校では、川での体験学習の活動をおこなっていたのですが、ライフジャケットを着けていなかった。私自身、ライフジャケットの重要性を感じてはいたのですが、「これまでに学校行事では事故も起きていないから、仕方ないのかな」と思っていました。

そんな体験学習で、目の前にいた子どもがスッと溺れました。私自身、川をずっと見ていたし、他のスタッフも配置していた。水深が浅かったこともあってすぐに救出できましたが、「本当に危ない」と肝が冷えました。

そこから徐々に、ライフジャケットの必要性を訴え始めたんです。

その矢先の2007年、私も所属している市教育委員会の体験イベントに参加した小学生2名が高知県の四万十川で亡くなる事故が起きてしまいました。二人ともライフジャケットを着けていませんでした。

すごく悔しかったし、悲しかった。町中が悲しみに包まれていました。

二度とこういった事故を繰り返さないため、「ライフジャケットの整備が必要や!」と学校中の先生に訴えました。まだ事故の悲しさを含めた混乱が残り、応援していただける方も多かったのですが、心配する声や反対する声ももちろんありました。そのぐらい市はシビアな状態だったんです。

ですが、子どもたちの命を守るためにも、ライフジャケットの必要性を広く訴えなければいけないと信念のような思いで、「水辺に近づく子どもたちには『ライフジャケット』を着けさせましょう!」とウェブサイトやTwitterでメッセージや情報の発信を始めました

そんな中でも情報発信を続けていると、事故に遭われたお子さんのご遺族の方からも、メッセージをいただくことができ、力をもらいましたね。


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「SATOUMIライフジャケット レンタルステーション」開設までの軌跡

—現在は、滋賀県から香川県に移られて活動をされていますが、その内容を教えていただけますか。

森重:
香川県に移ってから5年目になりますが、こちらに来て行なったのは、滋賀にいた時と変わらず、SNS等で毎日ひたすら発信することです。それに加えて、50着ちょっとのライフジャケットを準備して無料レンタルを始めました。あと、マルシェなどのイベントに出展してアピールをしたり、安全教室を開いてライフジャケットの体験会を開催するようになりました。

—情報発信をする際、大事にしていることは何ですか。

森重:
大事にしているのは、「発言はポジティブにする」ことです。「水辺の子どもたちを見守る時の、当たり前の選択肢の1つに『ライフジャケット』を!」ということで活動し続けていますが、誰かを批判したり、事故の揚げ足をとったりするようなことをしてはいけない。

子どもを守りたくないなんて、誰も思っていないんですから。だから、ライフジャケットの必要性を訴え、川や海など水辺のリスクをとにかくわかりやすく伝えたいと思って発信を続けてきました。

—そうした活動の中で、香川県が子ども用ライフジャケットを無料で貸し出す「SATOUMIライフジャケット レンタルステーション」の開設につながったのですね。このプロジェクトにも森重さんの尽力があったそうですが。

森重:
昨年、日本財団さんが行っている「海と日本PROJECT」の中で、安全のためにライフジャケットを訴求するようになりましたよね。

その少し前に、「海と日本PROJECT」の香川県の事務局であったRNC西日本放送の方と知り合いになる機会に恵まれました。私の活動を知っていただいた所、同じくライフジャケットの普及活動に取り組む海と日本プロジェクト主催のキャンプなどのイベントに参加させてもらうことになったんです。

そのキャンプでたくさんの人とつながることができました。すると今度は、そのつながりから、県が実施している『かがわ里海大学』の講師の話が来て、その仕事を通じて県の担当者ともつながったんです。

そこで、2007年の四万十川での事故で行政が責任を問われた事実や、2012年の愛媛西条での事故で「ライフジャケットを着用させる義務がある」という判決が出たことなど、これまでの事故から行政の責任について、とにかく必死に訴え、県でのレンタルステーションの開設をお願いしました。県の担当者の方が、その場で大切さに共感していただいて、すぐに動いてくださったことで実現につながりました。

県は予算が決まっているので、ライフジャケットを購入するにも大変なことが多いのですが、今回はRNC西日本放送が中心となり、企業に呼びかけて寄付を募って購入することができました。

結果、施設の管理を行政が担い、購入予算を企業の寄付でまかなうことで「SATOUMIライフジャケット レンタルステーション」ができたんですよ。

無料のレンタルステーションが作られたことだけではなく、このスキームで成立させることができた点にも注目していただきたいんです。今後、この行政×企業の連動による活動を「香川モデル」として広めていきたいですね。

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「水辺のアタリマエの選択肢の1つに!」を現実に

個人で始めた活動が多くの賛同者を集め、行政や企業を動かすことができた。それは森重さんの信念であり、活動のコンセプトである「思いはただ1つ…子どもたちの命を守ること」に多くの人が心を動かされたからではないでしょうか。

そんな森重さんが、活動を続ける中で今の思いを語ってくれました。

森重:
ここ数年でライフジャケットに対する認識が、ずいぶん変わってきたように思うんですよ。

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僕たちの世代はライフジャケットを知らずに育ちました。それは僕たちの親にライフジャケットの文化がなかったからです。地元の自然の中で遊び、何が危険かを知恵として身に付け、子どもである僕らに伝えてくれた。

でも今はプール世代になったことで、自然の中の怖さを感じられなくなっているのが事実。分かっていないからこそ、子どもたちを守るためにライフジャケットが重要なんです。

シンプルに子どもの命を守ることができる。それを理解できないのは着る機会がなかっただけ。着てみれば必要性がわかる。それを多くの人に知ってもらうためにも、今取り組んでいる活動をもっと広げていきたいと思っています。

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森重さん、ありがとうございました!
これからも持ち前のバイタリティと、人とつながる力を駆使して、子どもたちにライジャケを!の活動をパワーアップさせていくことでしょう。今後の活動に期待しています。

子どもたちにライジャケを! 詳しい活動内容についてはコチラ
http://lifejacket-santa.com/


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