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彼女がその名を知らない鳥たち

今日の映画は「彼女がその名を知らない鳥たち」。2017年公開で、こちらも何かの記事でおすすめされていた記憶があり、気になっていたものです。

これ以降は、ネタバレしまくりの感想です。気をつけてください。


年上の男と暮らしながらも、妻子ある男と不倫関係に陥る十和子。忘れられない昔の恋人が行方不明だと知り、暗い過去が彼女に影を落とし始める。

これだけのあらすじで見たから、先入観ゼロすぎて、オチも含め驚きました。

阿部サダヲの、不潔で下品な年上男、陣治の演技がすごい。歯の治療を行わず外れかけた差し歯?を自分で食事前に口から出して、テーブルに置いてシーハー言ったり、熱々の料理を口に運び暑くて吐き出して、口元を手でぬぐい、その手をシャツでまた拭う。細かいところで見事な不快感を演出。それでも、どうしてこんなわがままな女にそこまで入れ込むのか?と訝ってしまうほど、蒼井優の演じる十和子からの陣治への愛情が感じられない。汚らしいところをのぞけば、優しくて一生懸命で、もっと大事にしてもらってもいいんじゃないか、、、と悲しくなるほど良いやつ、陣治。金銭的な援助のみならず、毎日マッサージをさせたり、家事一切は陣治がやっている様子だし、、、セックスどころか汚いから触るなとまでのたまう。美しくて若い女の子ってだけで、こんなひどい扱いをされてもなお、十和子との暮らしが手放せないのか、、、と信じられない思いで見つめてしまうが、私にはおじさんの気持ちがわからないだけなのかな、、、?それともこれが噂のサンクコストというやつなの、、、?と思ったりしつつ観続ける。

しばらくすると、松坂桃李演じる既婚者水島と不倫が始まる。十和子が時計の修理を頼むも断られ、新品と交換でどうですかと話をつけにきた水島が、思い出の時計なのに軽んじられてる、、と泣き出した十和子の頰をおもむろに撫で始める。。。そのおっぱじまり方は「え??そんなことある?」と思ってしまうが、あれぐらい性欲の強い男と色気のある女ならありえるのか、、、?とこれまたちょっとわからないまま関係が深まる。

そこからは回想含めセックスシーンに次ぐセックスシーンで濃厚接触が終わらない。蒼井優の女優魂に脱帽。画面が移動するときに松坂桃李の両方の手のひらが蒼井優の胸をしっかり覆い隠していたのだが、その仕草がすこし不自然だったので、冷めた頭で「流石に乳首はNGで」と話し合う事務所側と制作側の様子を想像してしまった。二人が、がっつり夢中になっている感じは十分に伝わっていたので、あそこむしろ画面移動する必要あったかなぁ?と。

水島さんが、情事の後で十和子に「タクラマカン砂漠に行った」とか、「砂の子宮のなかにいるみたいだった」とか、「人間はみんな結局孤独なんだ」とか、どうしたらこんなに薄っぺらいこと言えるんだろうってくらいそら寒いセリフを並べてて、それでも好きになったら信じてしまうであろう恋の悲しさが痛い。水島に会いたくて十和子が尾行した時も、他の女に「人間はみんな結局孤独なんだ」のくだりを演じてる最中だったのにも、つい吹き出してしまった。結局は立ち読みしたであろう本に書いてた、それっぽいことを言っていただけだと分かったとき、やっぱりね、と思ったと同時に、こういう男、居そうだよな〜〜〜上手い表現だな〜〜〜と唸った。それらしいことを女性に打ち明けたように演出して、私にしか見せない自分を見せてくれたんだ、と思い込ませてうまくやる。女を馬鹿にしてるんだなって間接的によくわかる。薄っぺらい水島という男がよく描かれていた。

水島に夢中になり陣治が鬱陶しく感じる十和子。調理途中のじゃがいもを握りしめながら、水島のところに行くなと追いすがり懇願する陣治が切なかった。十和子を心配して尾行し、物陰から見つめる陣治。十和子が一瞬好意のような目を向けた男の人を電車で突き飛ばす陣治。その狂気を秘めた眼が、めちゃくちゃ怖かった。絶対陣治が元彼の竹野内豊を殺したんでしょ?!もーわかってるから〜!!と思わせる策略に見事にはめられた。

竹内豊演じる元カレもクズすぎて、驚く。自分の為だけなのに、お前と一緒になる為だと騙し、権力者と寝ろと彼女に指示し、金をむしり、邪魔になると暴行しセックステープで脅す。思いつく限りのクズ行為を全て備えた人間。お金も、体も差し出してもいいくらい深く愛した男に裏切られた時、その愛の深さが憎悪に変わると殺意になるのかなぁ。私は結局自分の方が可愛いから、人のために体を差し出したりできないだろうし、殺した方が自分の損になると思うとやらないなと傍観者だから思ってしまう。人をものすごく好きになると、狂うんだろう。しばらく狂っていないので、理性だけでコントロールできないものだということに思い至るまで少し掛かった。確かに復讐くらいしてやりたくもなるようなひどいことをされている。

十和子の全てを受け入れて、殺しですら隠してやり、いざとなったら自分がかぶる覚悟で全ての面倒を見る。陣治の「愛」は特別で、冒頭でも疑問に思っていたその愛の深さを、まさに走馬灯のようなスピード感で陣治の死の前に振り返る。十和子に一瞬で恋におちた陣治。傷だらけで包帯まみれの十和子でも美しさを見出した陣治。出会った瞬間から、まるで啓示を受けたかのように、一心に十和子に尽くし、何もかも差し出す。阿部サダヲの恋に落ちた瞬間の表情だけで、全てを理解させられる。

悔し紛れに、結局は顔ですか?と思ったりもしたが、でも同時に、そんなものかもしれない、とも思う。どうしようもなく惹かれてしまう時、その理由なんて誰にも説明できないんだろう。抗えないほど強い引力であの日十和子に出会ってしまった陣治の運命は、すでに決まっていたみたいに見えた。

ずっと咳き込んでいた陣治は、自分の死が近いことを感じていたのかな?

一度たりとも咳き込む陣治を心配することのなかった十和子。お前の子供に生まれ変わるとまで宣言して死を選んだ陣治が悲しかった。歪んだ愛。でも歪んでないとか歪んでるとか誰が決めるんだろう。

冷静な頭では理解できない不条理さこそが愛なのかもしれない、と納得させる力のある作品だった。

原作の小説も読んでみたくなった。ラストシーンは、一緒なのだろうか?

個人的には若干違和感のあった最後のセリフは、どうだったんだろう?

⭐︎7点 (10点中)


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