最終話 07 翌日、学校へいくと先生が言った。 「はい。今日は重要なお知らせがあります。宇仁田ハルキくんが、海外の学校へ行くことになりました」 後半は上の空だった。 うに子がいなくなった? うそだろ? なんでもアメリカだかどっかの大学からスカウトされてあっちに行ってしまったら…
06 三〇分ほど歩いてコンビニを見つけたのでそこでジュースを買って二人で飲んだ。 駐車場には誰もいなくて、ぼくとうに子だけが疲れた足を伸ばしてそこへ座っている。 「あ」 ケータイに着信が入った。着信名は家。ぼくはすぐに電源を切った。 「どうしたの?」 うに子はミネラルウォータ…
05 「そういうわけなんで、ちょっと家出してきます」 隣の姉ちゃんの部屋のドアをあけ、ベッドの上に座って本を読んでいるSに言うと、 「思い出した」 そう言ってポケットからよれよれの茶色い革の二つ折り財布を取りだしてうに子に放り投げる。 「それ、返しといて」 うに子が不思議そう…
04 「お、おおう」 家に帰って部屋に入ると女がいた。 「どど、どうも……どうもです」 マッジッで何勝手に部屋はいってんだよこのボゲェ! とか言いたくならなかったのは、女がベッドに腰掛けて本を読んでいる姿がけっこうかっこよかったからだ。ぼくはランドセルを椅子の背中にかけて、ポケ…
03 翌朝おきて学校に行くと、一時間目からファックな展開が待っていた。 「はーい、今日はこないだのテストを返しますよ~はなまるの人が今回はふたりもいますよぉ~」 そうテストの結果発表だ。それはおいといて、この若き女教師であるところのコナミ先生はテレビの子供番組の司会者と教師とい…
02 家に帰ると、すぐにトイレにこもる。 東京の南の郊外の一軒家。猫の額ほどの土地にもかかわらず、べらぼうな値段で、本当ならばいまだ我が家はローンを払っているはずだが、それはそれ、父の死によって入った保険金によってローンはほぼ返し終わった。 いつからだろう。ぼくは空間の大きさに…
最終章「こどもたちの素数」 01 「野球ふりかけ、井川が出たの!」 教室の最前列でうに子が叫んだ。 昼休みの教室。ぼくは食事中の大多数生徒たちの刺すような蔑みの視線を背中に受け、やきそばパンをもぐもぐと咀嚼し、型落ちのガラケーで撮った写真を整理していた。くっつけられたぼくとうに…
08 風の音で目が醒めた。 「……っつ」 寝返りを打とうとすると、腹に灼熱の棒を差し込まれたような痛みを感じた。シャツをめくってみると腹部には白い包帯が巻かれていた。いつ服を着替えたのか、思い出せない。 窓のカーテンのむこうからうす暗い夕陽が差し込んでくる。どうやら夕方らしい…
注:過激な描写を含む表現がありますので、苦手な人はご注意ください。 07 二ヶ月が過ぎ、夏も終わりかけた金曜の昼のことだった。 町工場の職人たちと煙草を吸いながら、小田桐がまたなにかを話しているのが工房の窓から見えた。たまたま目があった小田桐が手招きしたので、気が進まなかったが…
注:過激な描写を含む表現がありますので、苦手な人はご注意ください。 06 翌日、出社すると工房に小田桐はいなかった。 自業自得とはいえ、やはりあの日のことは強烈な体験だったのだろう。 長机の上に並んだバラバラ死体のような人形のパーツが、三日前のままになっている。 ドールの顔を…