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【無料公開中】もういない君と話したかった7つのこと

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2019年11月の記事一覧

もういない君と話したかった7つのこと #32

怪しい宗教に足を突っ込んでみた! それで、うちのおばあちゃんがハマっていた宗教があったので、そこへ修行に行ったんです。  その宗教っていうのは、いわゆる、密教系のちゃんとしたところだったんですけど……そこのお坊さんが「仏の声が聞こえちゃった系」の人で、宗教自体も「仏が、ある日、降りて来ちゃった系」でした。  お寺とは言いつつ、小さな民家なんです。  お坊さんの資格みたいなものは持っていたんでしょうね。今考えると、なぜ持っていたのか不思議ですが。  その民家は、1階が8畳くらい

もういない君と話したかった7つのこと #33

あり得ないことを真面目に語るおかしさ その宗教の修行っていうのは、そこで暮らして朝昼晩にお経を読むんですが、夜は近所の檀家が集まって、みんなでお経を読む。そうすると、檀家の1人が、トランス状態になるんです。揺れ始めたりして、飛び跳ねたりするんですよ。  お祈りが終わってから、「今日は何が見えましたか?」と聞くと「今日、こういうものが見えました」とか答えるわけです。  たとえば、「近所に神社があって、そこの神社の人が来ました」とか言うんですよ。 「そういえば、あの人、最近見ない

もういない君と話したかった7つのこと #34

「自分宗教」は信じない 大人になってから瞑想にハマッて、禅寺に行ったことがあるんです。  お寺に行くと、まず座り方を教えてくれて、そのあとで本堂に移動するんです。  そうすると、100人くらい檀家さんがいて、すごいな……と思ってたら、お坊さんが出てきました。  哲学的なことを言ってくれるのかなぁと思ったら、 「皆さん、さっき、トイレを見たんだけど、スリッパが揃ってなかった。どういうことですか?」  っていう話をするんです。 「小学生でも、スリッパは揃えますよね。なぜ、あなたた

もういない君と話したかった7つのこと #35

宗教の代わりになるものを持つ  怪しい自己啓発本は、宗教の代わりを果たしていると思います。  浄土真宗の住職であり、大学教授でもある釈徹宗さんが言うには、今の宗教の特徴としてあるのは、自分を変えないということだそうです。 「あんまり自分を変えないまま、現世利益を得たい」ってことですね。  でも、これは昔からそうなんじゃないかと思います。  踊り念仏とか、そういうことじゃないでしょうか。 「この念仏を唱えていれば、大丈夫ですよ」みたいな。  掃除をすると人生がうまくいく、という

もういない君と話したかった7つのこと #36

6つめ 「君」は今、自由か? 自由になりたかった彼は、今どうしているだろう?  Kと最後に会った日、根津で串揚げを食べたんです。  その頃、Kが働いていたマンガ喫茶はつぶれて、彼はまた無職になっていました。  Kは少し前まで実家に帰っていたらしく、「やっぱり、なんか実家はちょっと不自由だから、東京に居たいわ」みたいな話をしました。  わりと高いお店だったんですが、なぜかKが「今日は俺が払うよ」と言って、勘定を済ませました。  それから「じゃあ」って別れた1週間後くらいに、夜突

もういない君と話したかった7つのこと #37

「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」  だけど時間が経っていろいろ情報が出てくるとやはり、そうしたポジティヴな方向ではないことがわかってきました。 「やっぱり、うつ病の死とかって、すごく追いつめられて、最後の土壇場の、なんか逆ギレ的な死なんだな」  ということがわかったんです。 「むしろ殺されるくらいなら俺のほうから死んでやるよ」みたいな、なんか謎の居直り感があった。  すごい衝撃でした。死体を見たわけではありませんし、その瞬間も見てない。だから、連続性がないんで

もういない君と話したかった7つのこと #38

人の情報はいつでもアップデートされる それからしばらく経ってふと、本を読んでいるときに、「あいつに今度これ貸そう」とか「あいつだったらこれ好きそうだな」とか思ってるんです。  でも、「あ、そうかいないのか」と思ったり。  人間って、会うたびに、ちょっと相手のイメージが修正される部分があるんです。 「こういう本を読んで、こういうことを言うんじゃないか」と思っても、会って話すと、絶対違うんです。  それによって、相手の情報がアップデートされます。  ところが、本とか読んで、「あい

もういない君と話したかった7つのこと #39

死んだ人の「データ」は世界に散らばっている そういう感じの世界観で考えると、非常に、いろんなことが説明できるんじゃないかと思っています。  たとえば、幽霊って、それで見えるんじゃないかなと思ってるんです。  要するに、データだけが残っているっていうことは、なんらかのタイミングで、非常に近いハードがあったり、誤認識をしてしまったときに、その人の実存が立ちあがると思うんです。  枯れ尾花を見たときに、「ハッ!」って思って、幽霊が見えるみたいなことです。  対象に付随していた、ハー

もういない君と話したかった7つのこと #40

騒がしい世界で「しずかな自由」を手に入れる Kの遺書には、 「誰のせいでもない、自分が死ぬのは単なる病気で、自分のせいだ。まあ、楽しかったといえば、それなりに楽しかったよ」  とありました。Kらしいと言えばらしい言葉です。  部屋で遺品を整理しているとき、彼が一番好きだと言っていた本を見つけました。  池澤夏樹さんの『スティル・ライフ』です。Kはこんな小説が書きたいとよく言っていました。冒頭を引用しましょう。 〝この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみ

もういない君と話したかった7つのこと #41

7つめ 対談 末井昭×海猫沢めろん 小さなころ母親がダイナマイト心中をした末井昭さんと、友人・Kが「自由になりたい」と自殺をした海猫沢さん。ともに身近な人を自殺でうしなった二人が、「自殺」を切り口に、宗教や自由、幸福について語っていきます。いま自分が悩んでいる人も、身近に悩んでいる人がいる人も、きっと心の重荷が軽くなる、特別対談です。 自殺「された」経験海猫沢めろん(以下、めろん) では、はじめましょうか。末井さんの新刊『自殺』(朝日出版社)、拝読しました。こう言っていい本

もういない君と話したかった7つのこと #42

めろん 末井さんはこういう本を出されて、自殺したい人から相談をされたりしませんでした? 末井  ひとり、ホームページ経由でメールを送ってきた方がいるんですよ。「私は自殺をするつもりでいます」で始まってて、『自殺』を読んでぼくに興味を持ったと。自殺を止めてもらいたいわけでも、励ましてもらいたいとも思ってないと、「死ぬ前にコミュニケーションを図りたかっただけです」って書いて終わってたんです。 めろん お会いになったんですか? 末井  いや、そのときはどこに住んでるかも、年齢

もういない君と話したかった7つのこと #43

世間のしがらみのなかで生きる末井  『自殺』は、ギャンブルで借金地獄になったことや、夫婦喧嘩のことや、自殺未遂した恋人とセックスする話や、自分のどうしようもない体験を書いているんですけど、読者はそんな僕に対して優越感を持ってもらって、「こんなやつでも生きていられるんだ」と思って、笑って欲しいと思ったんですね。クスッとでも笑うと、閉ざされた心に窓が開く気がするんです。気持ちが外に向かうと思うんです。     僕は聖書を読むんですが、聖書って、突き詰めていくと人と人との関係になっ

もういない君と話したかった7つのこと #44

あとがき  いかがでしたか。  読み返してみると、これはなんだか奇妙な本です。  エッセイなのか、実用書なのか、それとも思想書なのか、あるいは私小説なのか、自分でも良くわかりません。  最初に述べたように、この本は、生きることが不自由な、内向的で悩みを抱えるKのような読者が読んで、少し楽になれるような本を目指しました。  書き終えてみると、なんだかいつもの自分の本とはかなり違ったものになっている気がします。  必要とするどこかの誰かに、うまく届けばいいのですが。  僕も、思

もういない君と話したかった7つのこと #45

文庫版のためのあとがき  この本が書かれたのは二〇一四年、いまから五年前のことです。  当時に比べて統計的に自殺者は減ったにせよ、ぼくの周りの人々の生きづらさは相変わらずです。  読み返すと「なんか気楽な話をしているなあ」と思う部分もありますが、それは時代というよりも、ぼくが当時より年齢を重ねたことが大きいと思います。  結婚出産引っ越し、はたから見るとぼくの人生は前進していることでしょうが、そのぶん日本という国の嫌な部分を見ることも多くて、相変わらず未来にまったく希望を持て