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掌編「鳥になって」

掌編「鳥になって」

 寒空を鳥が飛んで行く。
 私はそれを病室の窓から見送る。ふと街並みを見下ろすと、ランドセルを背負った少年が道を駆けて行った。
 「私もあんな風に、空を大地を翔けていきたい」
 振り返る。何もない、誰もいない狭い病室。きっと春にはここを抜け出せる。そしたら、
 「あと少ししたらなれるかな。」
 声を出しても返事はない。彼に会えていないのに。

 私に家族はいない。もうとうの昔に死別した。それからは

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掌編「海月姫」

朝がやってこない。
私にはわからない。
きっと誰かが願ったことで、それを誰かが叶えたのだろう。

今の私には都合がいい。ずっとこうしていたいから。
ずっと部屋に引きこもっていた。いったい何のために生きているのかわからない。生きたいと思えない。だからずっとこうしていられる今はとてもありがたい。明日のことを考えずにいられる。

今日も最悪な気分でベランダに出る。
ここから誰かが連れ出してくれるわけも、

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掌編「宇宙人の恩返し」

 今日は大晦日。
 いつもならば、大掃除など年末にやる事をしている時間だ。だけど、今日の外は真っ暗だ、時計を見れば、丁度昼の正午。時計がずれた訳じゃない。この原因はもう知っている。三日前、太陽が消えてしまったからだ。世間は終末論争でごった返ししていて、もう年越しどころではなくなっている。

 太陽が消えてしまった理由は、きっとどこかの頭のいい人たちが必死に解明してくれるだろう。僕はそれよりも急いで

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掌編小説「私だけの道標」

人混み。…人混み。
どこを見ても、人ばかり。

全員、目指している方向へ
あちらは働くための道。
あちらはニートになる道。
あちらは未開拓地。
(我が道を行く人向け)
と書かれている看板に従って

私は立ち尽くす。
木の枝のように無数にある岐路
一歩踏み出したらもう戻れない
どうしたい?どうすればいい?

答えが見つからなくて
行き交う人々の中、一人うずくまる。

喧騒だけが私を覆い尽くす。
途端

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掌編小説「千生」

私には千生(ちせ)という友人がいた。

今日あった、楽しかったこと、嫌なこと、なんでも話せて、まるで双子のように仲が良かった。

ずっと私は千生と一緒に遊んでいた。

痛いこと、苦しいことがあっても、千生と遊ぶだけで全て許せるような気がした。それくらい楽しかったし、笑ってた。

時が経って私は千生を忘れるほど、成長していた。

けれど、千生ほど親しい友人は出来なかった。

話したいことが山のように

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掌編小説「電脳少女」

 まだ、ネットワークが無く、テレビやラジオも無かった時代。
 私の親友は、他人には見えないものが見えた。
 それは妖怪や幽霊などではなく、見えていたのはこの世のあらゆる情報である。分かりやすく例えるならば、明日の天気や初めて会う人の名前や職業、どこかの事件の詳細、国家の機密文書の内容などなど。未来のことを予知するのではなく、あくまでも更新される情報をいち早く知ることができた。
 それらは彼女の意思

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掌編小説「流れ星」

掌編小説「流れ星」

今日もこの夜はまた馬鹿らしい程に綺麗だ。誰かの流れ星がまた1つ、また1つと流れていく。誰かの些細な願いを纏って。



この私がいる現代では、非科学的だが、願うと空に星が流れる。流れる星に願うのではない。祈れば願いが流れる星となって現れる。その人だけの色を纏って。

私の母親曰く「お母さんが20歳くらいの時に、突然有り得ないほど星が降り出したの。それまでほとんどなかったのに。始めは見とれるほど

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掌編小説「何も出来ない自分へ」

掌編小説「何も出来ない自分へ」

夜に君がいつまでも泣いているから、僕は助けたいと思った。君は「私はいなくなるしかない」と言うから。

君は幼い頃、いつも無邪気だった。
何にだって目を輝かせて、憧れて。新しいことに恐れず、何もかもを楽しんでいた。
目に映る全てのものが、輝いていた。

対して、

僕は何もかもを怖がった。未来も今も。
やりたいことだって言えない。やりたいことなどなかったから。見つからなかったから。
思い叫べば、誰か

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掌編小説「タイムリープ」

掌編小説「タイムリープ」

故郷には、私にしか知らない良い場所があるんだ。

そこは森を抜けた先の小高い丘にあって、街を一望できる。君にも一度見せてあげたいと思うくらい、絶景なんだ。でも、そこで誰かと会ったことがなくて、きっと私だけの穴場なの。だから、その風景を独り占めしたくて、今まで誰にも教えたことがないんだけど…これは君と私の秘密にしておいて欲しい。

さて、話が逸れたね。……あの日のことはよく覚えてるよ。
その日はいつ

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掌編小説「孤独の世界で」

掌編小説「孤独の世界で」

僕はずっと1人だ
変えられやしない
変えようともしない
ずっと孤独の世界で
真っ暗な場所で
膝を抱えて
どうしてこうなったのか

僕はずっと考えている
いつも通りの日々だった
楽しかったはずなのに、
それさえも、孤独だった
いつからだろうか
あの日の無邪気な君の笑顔が
頭から離れてくれない
ずっと、ずっと、僕を
助け続けてくれたのに
なのに、もうどこにもいない
その面影すらもうない。

私は、恐れ

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掌編小説「夜景」

掌編小説「夜景」

夜景がとても綺麗。

都会の夜景とは違って地元は光がまばらだ。

建物が照らし出されることもない。

でも、そこに誰かがいるんだろう。

誰も乗っていない電車に揺られながら、

星のように光る街の明かりをただ見とれている。

もうすぐ終点だ。明日はどうしようか。

そんなこと考えもせず、ただ見とれている。

君はこんな夜景の中に身を隠しているのだろうか。

私がこの暗闇に身を隠しても見つかってしま

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願望

雪が降る。
荒廃した町、錆びれた電柱に。
何処を見ても人はいない。
崩れた廃ビル、陥没した地面に。
何処を見ても私一人だけ。

一体、どれだけの時間を生きただろうか。
交差点で一人立ち尽くす。

昔、聞いた音楽を思い出す。
大通りで叫んで暴れてみたいと思った。

私は誰もいない世界で、
踊る。
踊る。
踊る。

声が擦り切れるまで。
体が動かなくなるまで。

…最期が迫る。
私一人だけの世界がやっ

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不眠

誰かが言った。「夢を見るために眠るの」と
誰かが言った。「夢はいつも隣にあるの」と

目を閉じて真っ暗な世界へ。夢の世界へ。
それなのに、一向に暗いまま。

私を別の世界へと連れ去ってくれない。
ずっと此処に縛りつけられたまま。
何処かに行ってしまいたい。
でも、怖い。暗闇が。夢が。

だから、「夢を見るために夢を見る」
いつか夢の世界へと行けるように。
今日もまた眠れないまま、朝が来る。

夏の魔法

夏の魔法なんてないと思っていた。
夏休み。本当は将来のことを考えなくちゃいけない。でも、ずっと逃げたまま。遊んでいた。

焦燥感、背徳感、後悔。それらで板挟みになって、苦しくなったのか。夢を見た。暴れている猫の夢。

最初は暴れている猫をどうにか抑えようとしていた。けど、気づく。暴れながら苦しんでいることに。どうして苦しんでいるのか、分かるはずないのに、伝わってくる。…心が苦しくなる。「こわい…、

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