波に映す  門田修(もんでん おさむ)

マガジンの名前を「波に映す」として、コラムを綴っていきます。よろしくお付き合いください。

最初なので、このサイトを立ち上げた理由と目的を書きます。

まず最大の理由はコロナです。私が主宰する海工房は1997年の設立ですが、それ以来今日にいたるまで、すべて海外取材による映像製作を行ってきました。しかし、COVID-19の蔓延により一切の海外取材はできなくなりました。新たな取材方法、サバイバル術を探さざるを得なくなりましたが、その一つの手段がインターネットによる映像配信です。しかし、映像をオンデマンドによって配信し、利益を得ることはほとんど不可能でしょう。弱気ですが、海工房が製作しているような映像が数万人の人に視聴してもらえるとは想像できないからです。

つまり、サバイバル術としてはあまり役には立たないわけですが、目的としては、ごく少人数の方々でもいいから、「こんな世界があるんだ!」「なるほど、そうなのか」と、これまでの人生であまり出会わなかったことに、映像を通して出会いができる機会を提供することです。また、膨大な量の映像、貴重な映像を倉庫に眠らせておくのも忸怩たる思いがあります。著作権などの問題もありますが、海工房の自主作品を中心に、逐次作品を掲載していくことにしました。少しでも記憶に残る映像が、この場で見つかることを望んでいます。

波に映す

大海原のうえを風が走っていきます。風は強くなり、海面を持ち上げ、やがて大きく、ゆったりとしたうねりを海に造り上げます。うねりは岸辺に打ち寄せる波となり、あるいは怒涛となりぶつかります。夜の海岸線に立つと、砕ける白波だけが不気味に輝いています。いつまでも寄せては返す白波の泡に向かい、砂漠で出会った少年の厳しい顔を投影してみましよう。オマーンのナツメヤシの林を、トンガのクジラやイルカを、マオリの刺青の顔を、帆をあげたカヌーを、モーリタニアの老女を、ホースをくわえて潜るナマコ漁師を、丁子の実を摘み採る男たちを、とぼけた顔の犬を、君の手や足を、空から見た熱帯雨林を、海と森と人とが密接な関係をもった一瞬の行為を砕ける波に向かって映す、そんなことをして見たいと思っているのです。

あらゆる事象も、映像として記録された瞬間に過去の記憶となります。ヴァーチャルの世界ですね。砕ける波は、それは海がある限りは永遠に続く運動なのですが、二度と再現できない姿、形をして泡立っています。移ろいやすく、絶えず変化し続ける現実ですね。そんな二面が貼り合わさったのが、今の私の気持ちです。

コロナ禍のいま、どうやら私は不要不急の人物となったようです。存在理由そのものを否定されたわけではありませんが、もし、誰かが海岸に座り、白波に映る映像を見て刺激を受けてくれれば、必要至急な人物に近づけるのではないかと思うのです。さて、こんなことを夢見つつ、インターネットの世界に進出です。(6 Nov. 2020)





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