復職して最初にしたのは上司への謝罪でした
恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、育児をしている会社員の生活というものが、見当つかないのです。赤ちゃんは可愛いものだと思っていました。いや、それは、自分が赤ちゃんを可愛いと思わないという意味ではなく、そんな馬鹿な意味ではなく、自分には「赤ちゃんは可愛い」の裏に存在する育児とはどんなものだか、さっぱりわからなかったのです。
妊娠前、バリバリ働いていた頃、社内打合せや顧客打合せなど、打合せの設定をすることが多々ありました。打合せの設定は若手の仕事です。先輩社員ほどスケジュールが埋まっているので、なんとか調整してもらって打合せを入れたいと思うのは全ての若手が思っていることです。
私はAさんがプロジェクトリーダーを務める案件に入ることが多く、Aさんの予定表をしょっちゅう見ていました。Aさんの予定表には朝に「保育園送り」、夕に「保育園迎え」と入っていることがあります。だいたい保育園送りは8~9時、保育園迎えは17~18時です。
朝はともかく、夕方の17~18時は打合せをしやすい時間帯でした。特にお客さんから希望日時として出された場合は、ぜひこの時間でやりたいと思います。
私はAさんに
「保育園のお迎え、調整していただくことは可能ですか」
と、聞いていました。それも一度や二度ではありません。度々聞いていました。聞きながら、きっと調整してくれて打合せをできるだろうと思っていました。
その通り、Aさんは毎度調整してくれました。プロジェクトリーダーたるもの、お客さんの希望を受け入れないわけにはいきません。
私は大いに反省しました。Aさんがパートナーにかくかくしかじかと事情を説明してお迎えを代わってもらわないといけないこと、保育園にお迎え担当が変わる旨を連絡しないといけないこと(これは園によって運用が異なると思いますが、うちの園は元々のお迎え担当が変わる場合連絡するシステムです)、そしてなにより、お子さんが親に会える時間が遅くなり、親子がふれあう時間を奪ってしまうことがわかっていませんでした。
私はAさんの仕事を増やし、パートナーに恨まれ呆れられ、お子さんに寂しい思いをさせていたのです。
うちはまだコロコロの赤ちゃんなのでそう思うのかもしれません。子どもが大きくなったらまた事情は変わるのかもしれません。でも、家事育児あっての仕事なのです。打合せは第2希望の日時でもよかったのです。お子さんが今日家で親とふれあう時間は、今日だけのものでした。私は無意識に大切な家庭の時間を奪っていました。
実は私は、Aさんがあまり好きではありませんでした。あまり好きではないから保育園のお迎え時間に打合せを調整してくれと言った訳ではありません。それは他のプロジェクトリーダーにもしていました。ただAさんは、作るスライドは汚いし、ぼそぼそと話すし、Aさんの年齢になったとき(40台後半)もう少しかっこいい人間でいたいなと思っていました。
でもAさんはグループ1の稼ぎ頭なのです。長年の経験値から広く深い洞察力を持っていて、お客さんからは評判がいいです。育児をしながら、あれだけの仕事をしていたこと、今も続けていることが本当にすごいことだと、私も育児をするようになってようやくわかりました。
私は復職して初めてAさんと顔を合わせた際、第一声で謝りました。Aさんはこう言いました。
「あっはっは、そんなこともありましたっけ。忘れっぽいので忘れました」
懐の深さに完敗です。私はもうAさんに頭が上がりません。
(あとがき)
時同じくして、復職初日。グループリーダーとの面談があった。
「あなたが休職している間に別グループから来た人や中途採用の人がいるので、来週のグループ会議で自己紹介してください。持ち時間5分です」
ここで画面の前のあなたならどのようなスライドを作るだろうか。自己紹介なので、名前、生年月日、居住地、学歴、入社年次、休職前にしていた仕事などが一般的な内容だろう。復職初日で頭ボケボケの私も同様に考えて、当たり障りのないスライドを作った。
だが、待てよ。グループの人が聞きたいのはこのような話だろうか。別グループから来た人や中途採用の人も、うみさんがいてかくかくしかじかで……という話は自然と耳にしているだろう。また私の自己紹介資料の古い版はグループのフォルダに入っているから、新しく来た人は目を通していてもおかしくない。そして大多数を占める、元々一緒に働いていた人は私のプロフィールなんて既に知っている。
クライアントファースト、という言葉を思い出した。今回のクライアントはグループの人だ。グループの皆さんは何を知りたいか、私は何を伝えるべきか……。
●想定質問
・元気?
→元気なものの、常に風邪リスク大
・復職後の働き方は?
→時短9-16時
・産休育休中何してた?
→産前は夏休みenjoy、産後はブラック企業並
●私が伝えたいこと
・保育園送迎の時間に打合せ入れるのはダメ
・育児と仕事両立してる人はいっぱいいるけど、普通にできることじゃない(めちゃくちゃ大変)
・子どもが保育園で頑張ってる分、私が働く時間も無駄時間ゼロで付加価値最大にしたい
スライドを載せることは憚られるが、上記内容がスッとわかるようスライドを作成した。
産前、妊娠出産にまつわるコンテンツはたくさん見たものの、育児の大変さは知る機会がなかった。ワーママの印象って
「仕事も育児もできて楽しいよ⭐︎」
あるいは
「育児しながらも前と同じように仕事できてますけど何か?(サラッ)」
というものだったが、周り(特に子なしの同僚)に伝えるべきは
「育児と仕事の両立、一筋縄ではいかない! それでも働くのはいろいろ考えたうえでの決断です。迷惑かけるけど、まずはまだ人間になりきれてない子どもを守らせてください。よろしくお願いします」
ということではないだろうか。保育園の送迎時間に打合せ入れないのはその一例にすぎない。
私が0歳児抱えて復職したてだからこう思うのかな、職場・職種が違ったら感じ方も違うのかな、とか頭をよぎるものの、とりあえず私は上述のようなスタンスでしばらく仕事をして行こうと思う。
≪終わり≫
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