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アフリカにおける新型コロナウイルスの状況(その4)最新データと今後の見通し

アフリカにおける新型コロナウイルスの感染状況について最新データをまとめます。
データ更新: 4月26日 8:00GMT

【アフリカ大陸全体の現在の数値】
感染者数: 30,305人
百万人あたり感染者数: 24人
感染者DT: 13日
死亡率平均: 5%

データはこちらで随時更新しています。

(1)新規感染者数の推移

アフリカ全体で日毎に新たに確認された感染者数です。赤線は7日間移動平均。感染者数が日々どのくらい増えたかがわかります。

アフリカのほとんどの国は、3月末までに、空港封鎖・国境封鎖、ロックダウンや外出禁止などの行動規制を開始しました。このグラフは過去1カ月分を対象としているので、規制が実行されてからの感染者の増加数といえます。
(グラフはクリックで拡大)

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残念ながら増えています。特に、4月半ば以降、1日あたりの感染者確認数が増加しています。

ただし、これはあとに見るように、検査数の増加も背景にあります。たとえばジブチ、モーリシャスは国民100人に1人を検査するという、猛烈な勢いで検査をしています。

また、国による感染者の増え方にも差が出てきました。ロックダウンなどの行動規制により増え方を緩やかにできてきている国もあれば、ここにきて増えている国もあります。

国別の数値を見る前に、累積感染者数のトレンドを見てみます。

(2)累積感染者数の片対数グラフ

感染者100人以上の国(28カ国)における、100人目以降の累積感染者数の推移を対数グラフにしたものです。

感染者数の「増え方のペース」が分かります。傾きが上がっていれば「増え方」が拡大していて、下がっていれば減っています。点線のDouble Every Weekは1週間で2倍になるペースの場合の傾きです。これよりも傾きが緩やかならば、その国の増え方は1週間で2倍よりも緩やかだということになります。(クリックで拡大)

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トップ集団にいるのが南アフリカ、エジプト、モロッコ、アルジェリアの4カ国(累積感染者数3000人を超えています)、増え方は一定のペースを保っており急拡大といった状態ではないものの、ピークアウトに至ってもいません。

星印は、ロックダウンなどの行動規制が開始した日を示します。南アフリカ、アルジェリアとも、星印以降は増え方が緩やかになっており、規制の効果がうかがわれます。

ただ、アフリカのほとんどの国は、感染者が100人にも至らないうちに、つまりこのグラフに示される以前のタイミングで行動規制を行っています。100人を超えたあと12日目に行動規制を敷いたエジプト含め、少し遅かったのかもしれません。

先に「検査をしまくっている」と書いたジブチ、モーリシャスに加え、チュニジア、ブルキナファソは増え方が治まってきています。ケニア、ルワンダ、マダガスカルも緩やかな増え方に留まっています。

(3)国別基礎データ

大きな表で見づらいですが、クリックして拡大してみてください。データのソースはこちらに記載しています。

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国別の感染者数は、これまでトップだったエジプトを南アフリカが抜きました。百万人あたりの感染者数も、エジプトの約2倍となっています。一方で、南アフリカの百万人あたり検査数は約3倍の2,787件です。なお、日本の百万人あたりの検査数は1,166件ですので、南アフリカの方が約2倍多いです。

南アフリカは、飲食店のデリバリーも許さない厳しいロックダウンを行っている最中です。Googleが発表している移動減少率をみても、人の移動がコロナ以前より-75%減ったという大幅な減少です。こうやって移動を減らし、ロックダウンを行っているのにどうして感染者数が増えるのかとも思いますが。。

そして、5週間に渡って続いたロックダウンは、4月30日に終了します。ロックダウン解除を前に、体調が悪いという自己申告に従って検査するだけではなく、人口が密集するエリアで家庭訪問をするなどしてプロアクティブに検査を行い、1日あたりの検査数は5,000件に達しているようです。

直近1週間の数値から算出した感染者数DT(感染者数が2倍になるのに必要な日数)は13日。急拡大というペースではないですが、ロックダウン解除の前にもう少し落ちてほしいところです。ただ、南アフリカは比較的医療が進んでいる国であり、ICUは人口10万人あたり9.8床(日本は5床)、人口呼吸器は人口10万人あたり6.9台(日本は19.7台)あります。死亡率も、いまのところ2%に抑えられています。

なお、南アフリカには、日本の自動車メーカーや部品メーカーが工場を持っています。ロックダウン解除後の経済活動は段階的に復活が許可されることが決まっており、自動車はまだ製造できないですが、トヨタは南ア工場でフェイスシールドの生産を行うようです。

チュニジア、ブルキナファソはDTが50日程度で1週間ごとの感染者数も減少に入り、増え方が減速しているといえます。このままピークアウトに向かうことができるでしょうか。

感染者DTが短い、つまり感染者が倍増するのが早く、1週間ごとの感染者数に増加が見られる国はどこでしょうか。ナイジェリア、ギニア、ソマリア、タンザニアなどが挙げられます。

ナイジェリアは、最大の人口を抱え人口密度も高いラゴス、そしてアブジャ、オグン州、北部のカノでロックダウンを行っています。Googleの移動減少率では、ラゴスだけでみると67%の減少となっています。そしてそのロックダウンが解除されるかどうかが決まるのが明日(4月27日)です。

感染者の増え方を見ていると、解除しない方がよいようにも見えます。解除されれば、ラゴスから故郷に戻る人もでて、いまはまだなんとかラゴスの中に留まっている感染が地方へと広がるリスクもあります。

ただ、感染のことだけを考えていればいいのではないのが、難しいところです。脆弱な国々こそ、コロナウイルスを医療や健康だけの問題として捉えることはできません。ロックダウンなどの行動規制は経済、ひいては人々の生活に与える影響が大きく、経済が人を殺すからです。

ナイジェリアは、先日当社が行った調査でも、政府の感染対策に対する満足度はそれなりに高いにも関わらず、経済支援に対する不満がとても高いです。

この調査を、ナイジェリアのビジネス紙であるBusinessDayが取り上げたのですが、やはり、経済支援に不満というところにフォーカスを当てられてしまいました。読者の総意なのでしょう。

感染者が増加すると、経済が傾きます。増やさないために行動規制を行うと、経済が止まります。経済が止まれば、政府は財政支出を行うしかありません。感染者数の増加は、財政支出の先行指標です。

アフリカの国々は、感染者数がまだ少ないときから強力な行動規制を開始し、時間を稼ぎました。感染者の追跡と接触者の把握、検査や隔離施設、医療品の手配、ヘルスケアワーカーの訓練といった準備を行ってきました。

これからは、少しずつ規制を緩め、経済活動を復活させながら、感染者の発見と追跡をモニタリングしていくことになると思います。これがうまくいくかどうかは、もともとの政治の安定度によると思っています。こういう場面では独裁政権は有利です。直近に混乱の末政権の交代を迎えたばかりの国、スーダンやアルジェリア、チュニジアなどは不安定です。カメルーンやタンザニア、ザンビアも少し不安です。政権への不信感が高い国では、国民は政府の指示を疑います。また、もともとあった対立やリスクが、こういうときに顕在化してきます。

私がいまいるケニアは、比較的政治が安定している国です。ケニアは、完全に行動を規制するのではなく、夜間外出規制とナイロビ首都圏の交通封鎖という、感染防止と経済活動を両立させる中庸をとる戦略をとってきました。レストランで食事をすることは禁止されていますが、テイクアウトとデリバリーはできるといった具合です。よって、いまでも経済活動は続いています。

政府は、国民へのアナウンスを徹底しています。毎日ブリーフィングを行い、保健大臣や大統領が情報を明らかにし、国民に話しかけています。いまのところは、感染は拡大しているものの、ペースは緩やかです。ケニアも政治的、治安的に多くの課題がありますが、いままでのところは大きな問題は起こっていません。いまのところは(あくまでいまのところはですが。。)うまくいっていると言えると思います。

5月から6月にかけて、アフリカの国々は行動規制を緩めてくると思います。たとえば外出禁止を夜間のみにしたり、都市にのみ交通封鎖を敷いたり、特定の産業の活動のみを禁止したりといった具合です。政権が妥当な対策を決定し、国民に的確なメッセージを伝えてそれを守らせることと、経済を復興することのバランスをとることができるかが、重要な局面となっていきます。あわせて、混乱に乗じてかねてからの課題が浮上しないか、守りを固める必要があります。

一足先の4月20日に、ガーナはアクラ、クマシなどの都市でロックダウンを解除しました(いまではマスク着用が義務となり、みんなマスクをしているようです)。ちょうど一週間ほど立ちましたが、上の表にもある通り、解除される前の1週間とされた後の1週間の感染者の増加数は、ほぼほぼ同じ程度といってよいかと思います。ガーナは政治的にも安定した国です。

最後に死亡率をみてみましょう。死亡率の違いには、その国の人口構成などさまざまな要素が影響すると思いますが、医療が機能しているかどうかの結果指標とみることもできるかと思います。アフリカがもっとも心配されている医療崩壊が起こっているかどうか、です。

全体としては、アフリカの死亡率は5%。世界の死亡率の7%や、医療崩壊が起きているとされる英国やイタリアの14%と比べると、まだ低い数値といえます。

国により大きなばらつきがあります。多くのアフリカの国が4%以下の低い数値に抑えられている一方、アルジェリアは当初より死亡率が高く推移しており、いまも13%にも上ります。世界の国々をみると、英国やイタリアのような死亡率が10%を超える国と、日本や韓国のような数%に留まる国にどうやらわかれているようですが、アルジェリアは欧州型なのでしょうか。

世界平均の7%よりも高い国、スーダン、リビア、マラウイ、ジンバブエといった国々は、コロナ以前から社会制度、医療制度、政治が脆弱な国々です。「アフリカが危険」と語られるとき、ほんとうに手を差し伸べなければならないのはこういった国であるように思います。


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