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通知表を見た保護者によるクレーム①〈成績の根拠と内訳の開示〉

前回は成績処理に関する概要を書いた。

期末試験が終わると、生徒たちは休校になったり、もしくは午前中のみ登校したりしてのんびり過ごしているかもしれないが、教員は成績処理に追われてとても忙しい。



しかし、成績判定会を経て成績が決定し、教務が通知表を印刷して教員同士の読み合わせが終わると、ようやく成績関連の作業は終了する。



……と思いきや、実はもうひとつだけ、重要な作業が残っている。

通知表の配付である。

そんなものただ終業式の日にサッと配付するだけだろうと思うかもしれないし、ほとんどの場合はそうなのだが、稀にここから新たな展開が始まることもあるのだ。



それは保護者からのクレームだ。



通知表を見た保護者から、成績に関する疑問を投げかけられることがある。

具体的にはすべて「なぜこんなに成績が良いのか」ではなく「なぜこんなに成績が悪いのか」という内容だ。

もし前者だったらちょっとほっこりするかもしれないが、実際は後者であり、こういったクレームを入れる保護者は感情的になっていることが多い。



なお、再度書いておくが、このようなクレームは稀である。決して頻繁に起きることではない。



わたしは自分のクラスの保護者からこのようなクレームを受けたことはないが、ほかのクラスで受けた際、成績処理を担当する教務として、何度か携わったことがある。

正直に言うとげんなりする。

終業式後の穏やかな職員室で「保護者からなぜこんなに成績が悪いのかと言われました」などと報告が入ると、周囲の教員たちから「え……」「うわっ」「きつー」などと声が上がる。

忙しいなかでようやく成績処理を終え、ホッとしながら夏休みに向けて気持ちを切り替えていたところで、また成績処理に引き戻されるのだ。



しかし保護者の疑問を軽視はできない。

もしかすると理不尽な成績がついていたり教員側にミスがあったりするかもしれない。

そのためクレームを受けたら、まずは教科担当と教務が中心となり、最終的に管理職も関わりながら、成績の再確認を念入りにおこなっていく。



さて、ここで大切なことをふたつ書く。



ひとつめは成績の根拠に関すること。

成績は必ず客観的な根拠に基づいてつけられることになっている。

判断材料は、定期試験の点数、小テストの点数、提出物の出来や提出状況など、どれも数値化できるものとされている。

なお、上司によると、まだパソコンが普及されずに成績も相対評価でつけられていたころ、「この生徒は態度が悪いので4から3に下げ、代わりにこの生徒はいつも積極的なので3から4に上げよう」などという判断もされていたらしい。ずいぶん適当である。

授業態度などは個々の価値観によって判断が変わるため非常に曖昧で主観的だ。

ある教員からすれば真面目に見えるかもしれないが、別の教員からすれば不真面目に見えるかもしれない。明確な根拠はどこにもない。

したがって、現在は、主観的な材料を用いて成績をつけることがご法度とされている。

誰もが納得できる客観的な根拠に基づき、到達度に達しているかどうか判断しながら、絶対評価で成績がつけられることになっているのだ。



ふたつめは成績開示に関すること。

保護者から求められれば教員は成績の内訳を開示する。

いくら成績が客観的な根拠に基づいてつけられているといわれても、果たして本当なのか、その内訳はどうなっているのかと疑問に感じる保護者がいるかもしれない。

そのため、教員は保護者から求められれば、具体的にどのような材料があり、それぞれどのような点数がつき、どのような割合でこのような評価となったのかという内訳を開示する。

開示するためには、先述の通り客観的な根拠に基づいて成績をつけ、きちんと説明できるようにしておかなければならないのだ。



客観的根拠と成績開示のふたつは、意外と知られていないかもしれないが、とても大切なことである。



とはいえ、保護者から「なぜこんなに成績が悪いのか」というクレームを受けること自体が稀なので、さらに面談をおこなって具体的な成績開示までたどりつくことは極めて稀である。



わたしは1度しか経験がない。

保護者は小学校の教員で、我が子の英語の成績に疑問を持ち、成績開示を求められた。

面談では担任以外に英語科主任と教務主任が同席し、中間試験・期末試験・単語テスト・リスニングテスト・スピーキングテスト・ノートやプリントや宿題などの提出物という材料について、それぞれの点数と割合が打ち込まれ、到達度がExcelによって換算された一覧表を開示した。

かなり細かな表になっているのだが、保護者は隅々まで確認し、結果的に「定期試験の点数以外は各観点の到達度が低かった」という事実がわかったらしく、納得のうえで帰っていった。

おそらくこのケースは保護者が成績処理に関する知識をある程度持っていたからこそ、開示を求め、内訳を理解し、最終的に納得したのだろう。



このように客観的な根拠に基づいて成績をつけ、さらに求められればそれを開示して説明する行為は、教員の義務である。



まあ、実際は極めて稀であり、ようやく成績処理を終えて夏休みモードに切り替わっている教員からするとげんなりすることも事実だが……

教員はこういった事態も起こり得ると想定し、客観的根拠の徹底と成績開示の可能性を意識しながら、緊張感を持って成績処理をおこなうと良いだろう。

そして、もしもこういった事態に直面したらそれは保護者の権利なので、納得してもらえるよう真摯に応えるべきである。



なお、わたしは不登校の生徒の保護者から通知表に関するトンチンカンなクレームを受け、別次元のげんなりを経験したこともある。
そのことを踏まえ、出席日数と成績に関する事柄については、次の記事で書いていきたい。

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