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多羽(オオバ)くんへの手紙─27

(1,366字)

理数系の科目のように答えが1つしかない問題を解くのが好きだ。
パズルのピースを組み合わせるように、1つしかない答えを導き出すのは楽しく達成感がある。
ただ、何度やっても理解できないものがあった。

いったんは分かったような気になるのだけれど、しばらく経った別の日に再度解いてみようとするとやっぱり分からない。
諦めが良すぎるのは良くなかったのだろうが、出来ないことに時間を費やすよりも、出来ることをより確実にした方が賢明だ。

そう割り切ってはいたのだけれど、返却された理科の答案用紙は惨憺たるものだった。
点自体は悪くはないが、全滅している箇所がある。

隣の多羽オオバの答案用紙を覗き見ると
点こそ良くなかったが、私の全滅箇所を全問正解していた。

「何やねん。見んなって~。お前みたいにええ点ちゃうねんから。」
「ここ、全部合ってるやん。すごいな。何べんやってもわからんねん。」

「うわ、お前全滅してるやん。何でやねん。簡単やのに。」




多羽オオバは中学の延長のような地元の高校を受けると言っていた。
平均か、あるいはそれより少し下の学力の者が大勢進学する高校だ。



多羽オオバと同じ列車に乗っていられる時間はもうそんなに長くはない。
皆が別々の列車で、別々の目的地へと向かうために降り立つ分岐点の駅はすぐそこまで近づいていた。



「おいー、聞いてんの?分かった?」
「うん、分かった。ありがとう。」

多羽オオバの説明はほぼ分からなかったが、分かるように話そうとしているのを見ている時間が好きだった。



✳✳✳



「受験までもうすぐやねんから、同じようにフラフラ遊んどったらあかんよ。」

母がよく使っていた「同じように」という言い方には、いつも強い拒絶反応を覚えた。
その言葉には「自分より勉強の出来ない子たちと “同じように” 付き合うな」という含みがあるからだ。
いろいろなタイプの友達がいて皆それぞれに良さがあるのに、それを「同じように」と見下すような、親の尺度で測って一括りにする言い方には嫌悪感しかなかった。

一度だけ、あまりに腹が立って「自分の友達のこと悪く言われたらどうなん?イヤやろ?」と言い返したこともある。

よその母親も、こんなにも人を嫌な気分にする言い方をするものなのだろうか。

──大人は分かってくれない。
そのような、青春病にありがちな微熱のような感情を私は持ち合わせていなかった。

いつも独りで何かと闘っているような気持ちが、意固地で可愛気のない私という人間を作り上げていた。


✳✳✳



(中略)
いつかお別れの時が来ると、私にはわかっていました。
私は青春の幻影。若者にしか見えない時の流れの中を旅する女。
(中略)
あなたの青春と一緒に旅をした事を、私は永久に忘れない。

「さよなら銀河鉄道999」メーテルのセリフより一部抜粋



鉄郎との別れのシーンでメーテルが言う。


随分と大人になってからこのセリフを目にした時、ふと多羽オオバを思い出したことがあった。


ファンタジー映画のように別の次元であの時間が流れていても、二度と行くことの出来ない時の流れの中をいま私たちは生きている。

少女の頃の溢れるほどのロマンチシズムは指の隙間からさらさらと零れ落ち、一握りの砂ほどしか残っていなかったけれど、妄想列車の切符は今でもかろうじて持っていた。



28に続く…


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