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新たな刑事コロンボ誕生「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」

007シリーズとMCUを観ている自分にとって「これは観なくてはいけないかもしれない」という映画が公開された。ナイブズ・アウト名探偵と刃の館の秘密だ。探偵ブラン役に007シリーズのダニエル・クレイグ、殺害された小説家の孫の1人ランサムにキャプテン・アメリカでおなじみクリス・エヴァンス。しかもミステリーときた。

NY郊外の館で、巨大な出版社の創設者ハーラン・スロンビーが85歳の誕生日パーティーの翌朝、遺体で発見される。
名探偵ブノワ・ブランは、匿名の人物からこの事件の調査依頼を受けることになる。パーティーに参加していた資産家の家族や看護師、家政婦ら屋敷にいた全員が第一容疑者。調査が進むうちに名探偵が家族のもつれた謎を解き明かし、事件の真相に迫っていく―。

ハーランの死の状況はどう見ても彼が自殺であることを示している。しかし、調査の中で家族の誰もが殺害に足り得る動機があることにブランはたどり着く

郊外の大小説家の豪邸。
どう見ても自殺な状況。
しかし家族の誰もが一歩間違えれば殺害の動機にたどり着きかねないという動機がある。

本当に自殺なのか?自殺じゃないなら一体誰が殺したのか?
どうやって殺したのか?何故殺したのか?
そもそもブランに捜査依頼をしたのは誰なのか?

ダニエル・クレイグ演じるブランは紳士的でありながらどこか抜けている。音楽を聴いて車で待機していたら救急車が駆けつけてようやく事件が起きていたのに気づく有様だ。だがその操作能力はホンモノで、事件をドーナツに例えてその穴を塞ぐピースを推理する。

クリス・エヴァンス演じるハーランの孫ランサムはキャプテンアメリカを知ってなくとも「言葉が汚いぞ」といいたくなるくらい暴言を吐く。特に遺産絡みで家族が一同に会し言い争うシーンで1人1人にEat shit(クソくらえ)を突きつけるシーンは痛快ですらある。

本作のヒロイン、ハーランが信頼を置いていた看護師であり、移民の母を持つマルタは嘘がつけない。嘘をつくと吐く。文字通り、吐く。

冒頭ブランが各々家族に誕生パーティの夜の話を事情聴取するシーンがある。しかし各々知られてはまずい事情(例えばリチャードはハーランに自身の浮気について問い詰められている)があり歪曲した話を回想として語りだす。
それを察したブランは、最後にマルタに事情聴取することで彼女が吐いたことで誰が何の嘘をついているのかあぶりだす。彼女をワトソンに任命し、ブランは捜査に乗り出す。

この作品の面白い部分はミステリー部分だけでなく、家族は移民問題や政治思想などといった社会問題を暴言のドッヂボールのなかで語られるがそれは脇に置かれている内容であって、あくまで主題はミステリーが置かれている点だ。監督ライアン・ジョンソンがこの作品をアガサ・クリスティーに捧げているというだけある。探偵のブランがすでに書いた通りどこか抜けている部分もあって決して重くなりすぎないそのバランスはとても良かった。雰囲気たっぷりでドロッとしていながら最後はスカッと終わる、良質なミステリー作品だった。


ここからある程度ネタバレを含みます

ミステリーなのでネタバレを控えるべきなのは当然なのだが、ある程度はネタバレしないと魅力が語れないので容赦してほしい。
ハーランの死因は中盤で思いのほかあっさりと判明する。ハーランの死因はマルタの医療用に使うモルヒネの投薬量のミスによるものだ。しかも解毒剤がない。パニックになるマルタ。しかも彼女の母は不法移民歴がある。このことが発覚すれば彼女は一家揃って破滅だ。
マルタの献身的介護もあり彼女に目をかけていたハーランは残り数分で毒が全身に回ろうとしている中で一計を案じる。自身の小説家としての知恵を総動員し彼女のアリバイを手ほどきをし、最後は自身の手で命を断つことで自殺の状況を作り上げる。そしてマルタはハーランの最後の願いの為にアリバイ作りの奔走する。

しかし何者かの捜査依頼により探偵ブランが現れる。彼女はハーランと作りあげたアリバイを崩すことなくブランを出し抜けるのか?しかも嘘をつくことなく

観客は探偵側の視点から観ていた物語のはず突然、犯人側の視点から物語が展開される。
それはまるで古畑任三郎、刑事コロンボに連なるの倒叙ミステリーだ。

自身のアリバイを成立させるため、奔走するマルタはユーモラスで「ミステリーじゃなく、コメディ映画だったのかこれは?」と錯覚させてしまうほど。

マルタはアリバイを成立させられるのか。
名探偵ブランは真実にたどり着けるのか。
ドーナツの穴の真実をたしかめてみて欲しい。



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