見出し画像

ワンダーエッグ・プライオリティという卵

キャストに釣られてという不純な動機なのだが、今季放送のアニメ、ワンダーエッグ・プライオリティを観ている。これが面白い。
私は脚本の野島伸司さんのドラマは観たことは無いのだが、いじめや自殺など重いテーマを描くエキスパートだという。そんな方が作るオリジナルアニメという触れ込みだった。5話時点までの感想を書いて行こうと思う。

4人の主人公のうち大戸アイは新人声優の相川奏多さんなのだが、他の3人は楠木ともりさん、斉藤朱夏さん、矢野妃菜喜さんとくればまぁ気にはなる。ならざるを得ない。
じゃあ観てみるか〜となるも1、2話はまぁ面白いかも……?となりつつも提示される情報の少なさ、陰鬱さもあって、感触は微妙だった。しかし3話で3人目の少女、川井リカが登場して流れが変わってくる。そして4話、4人目の少女、沢木桃恵が登場し一気に引き込まれた。
なのでもし興味がある人がいるならいわゆる3話まで観て欲しいというやつを推奨します。dアニメストア他にあります。

ストーリー

大戸アイ 青沼ねいる 川井リカ 沢木桃恵
4人の14歳の少女達はそれぞれ自分の大切な人を自殺により失っている。そんな少女達に掛けられる声。エッグを購入し眠りにつくと別世界:エッグ世界へ引き込まれる。購入したエッグ割ることで出てくる少女達。そんな少女達を狙う怪物。怪物はエッグから産まれた少女達のトラウマが具現化した怪物だった。
そんな怪物から少女を守り抜けば自分の大切な人が蘇るかもしれないと示唆される4人の少女達。持ち物を武器に変え、少女達はエッグを割り、闘う。

陰鬱さと軽さと

Q、この子たちは何のために戦っているの?
A、大切な人を蘇らせるため

4人の少女達はそれぞれ自分の大切な人を自殺により失っている。例えば大戸アイは親友、長瀬小糸を学校から転落死で失っている。
それだけでなくエッグから産まれる少女達(少女達も自殺したことが示唆されている)を狙う怪物=ワンダーキラーは少女のトラウマの象徴なだけあり、体罰を行う教師、アイドル像を押し付ける厄介な客、痴漢する少女の父親が通う会社のお偉いさんなど、そのサイケなカラーリングも相まって不愉快極まりなく、その暗さを全体的に漂っている。1話は具体的な設定が提示されぬまま一気にその暗さを叩きこんできたため、視聴するのに体力が要りそうなアニメだなぁというのが正直な印象だった。

なのだが、彼女たちの会話は全体的に軽快で聴いてて心地良い
それは3話、川井リカが現れてから顕著に感じるようになった。リカは元ジュニアアイドルでファンが自分が原因で自殺したことに責任を感じエッグを割っている。彼女を演じるのは斉藤朱夏さん。斉藤朱夏といえば渡辺曜、渡辺曜といえば斉藤朱夏と言えるほどに結びついた2人だが、川井リカは「あ、斉藤朱夏さんの声だ」と一発で認識できるものの、渡辺曜とはうって変わって擦れたところがあり初対面のアイへ「お金貸してくれない?」と言ったり、アイの部屋へ図々しくおしかけたり、全体的に雑な女かと思いきや5話では思慮深さ見せるなど物語を重過ぎなくする緩和剤となっている。

画像1


4人目の沢木桃恵、彼女も彼女で、ボーイッシュな容姿をしており、同性に関係を求められるほどだが、自分は女の子でいたいと考えている少女。
自分に恋愛感情を持っていた同級生を拒否したことから生命を絶ったことを負い目に感じエッグを割っている。演じる矢野妃菜喜さんといえば、前期高咲侑を演じていたが高咲侑はあっけらかんとしていたのとは対照的に、悩み苦しむ少女の側面とイケボを使いこなし、本当に同じ人だろうか?と3ヶ月彼女の声を聴いていたのに不安にさせるほどだった。
上で同性に女の子でいたいと、言いつつ求められるのも満更では無いらしく「その気はなかったんだけど楽しくなってきちゃった…ってことあるでしょ?」と語ったりもする歪さもあるのだが。

画像2


この2人が現れたことでキャラクター同士のやりとりの奥行きが産まれ非常に見てて楽しいものになったと思う。

青沼ねいると大戸アイの2人も無論魅力的なのだが、キャラクターとしてはあまりお喋りなタイプでは無い上に2話で重症を負ったねいるが入院するという事態まで起きたため尚更そのように感じた。

桃恵の喉が綺麗だよね〜と言う話から、喉仏が好き!とガールズトークに花を咲かせるシーンや
アイの家に集まりジェンガに興じながら喋っているシーンではジェンガの抜き方や積み上げ方にそれぞれの個性が出る中でどんどんこの作品の謎の軸となっているである小糸の死の原因に踏み込んでいくのは見てて面白い。視聴者が思っている予測などそれくらいこっちだって気づいてると言わんばかりに。

アイの担任でもある沢木先生が小糸の死に関わっていた?小糸は妊娠していた?など、軽い口調で重たい話をめちゃくちゃする。美麗な作画でありながら突然コミカルな顔になることもある。

画像3

おそらくその何気ない描写の中にも隠喩などがそこかしこに仕組まれているのだなというのは、アニメ虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会を観ていたときのような感覚に陥る。

その一方ではバトルシーンは少女たちが文具や持ち物を大型のハサミや槍、ライフルなどに変化させ立ちまわる。そのスピード感とサイケなカラーリングのワンダーキラーがより不快感を際出たせている。汚い大人と少女の純粋さの対比か?と思ったりもする。

全体的な感想なのだが、これは脚本が実写ドラマ畑の方だから思ったことだが、もしドラマだったらキツいな~というイジメ描写が妙にリアルでアニメだからこそ緩和されている部分もあるな、と感じる。ドラマだったら牙狼のようなホラーが襲い掛かってくる作品になっていたのだろうか?

卵は割らないと分からない

5話にしてリカがもう私達エッグ買う必要なくね?と言うシーンがある
だって自殺した子達はその人の勝手で死んだんだし、なんで私達が自分の命賭けてまで責任感じる必要があるの?と3人へ語る
アイは小糸の死の原因を知りたいからと語るも、リカはそもそも小糸が生き返りたいって思っているのかどうかも分からないじゃん?と詰める。「なんでそんなこと言うの!?」キレるアイに対し「悪役やってやってんだ!友達なら出来たじゃんか!」と吐露するリカ。

5話はねいる担当回でもあり、ねいるが実は妹に斬りつけられており、戦っている理由が妹を甦らせるためでなく、戦うことで死の影を忘れるためという自分の為にやっているということが明かされる。
また、エッグを割ることを降りても良いということも語られ、彼女たちが戦う理由が再確認されたが、このアニメの着地点がどうなるのか、私はこの会話で予測が全く立てられなくなった。

野島伸司はワンダーエッグプライオリティにおいて、ドラマ脚本の定石にのっとった、実写ドラマにあるような「友達の死の謎を追う少女」という、ありきたりのミステリを提示してきました。それは、エヴァのように脱線することが難しいフリなんですよね。そのオチを回収するものは、1つしかない。
すなわち「友達の小糸ちゃんは良いやつ/悪いやつ」でした、のいずれかしかない。で、大オチとしては「大戸アイはその時どうするのか?」ハッピーエンドに向かうのかバットエンドに向かうのか、という違いしかない。

私がアニメを観ながら考えていた点はこちらのブログに書いてあるまさにこれで、その解決としてはアイが「死ぬほど苦しい目にあったけどそれを通して私には友達ができた」というような着地がされるんだろうという予測をぼんやりと立てていた。
だが、その事実を4人のうちで言葉としてぶちまけた以上(3人は友達なら出来たじゃんか!に肯定も否定もしなかったけれど)そのオチを持ってくるとも到底思えない。

この後アイたちに待ち受けるものとは?(6話ではお助けアイテムという嫌な予感しかしないものが出ると予告された)
小糸ちゃんはなぜ死んだのか?
そもそも本当にアイ達の大切な人は甦るのか?
甦ったとして、彼女はどうするのか?
このアニメがどういう結末を迎えるのか、まだ5話時点では分からない。おそらく大傑作となるか、はたまた……な評価をくだされてしまうか、その両極端な気はする。

しかし卵が割らなければ中身はわからない。何が出てくるのかは分からないが、このアニメという卵が割れるのを私は見守りたい。
最後にEDテーマの「Life isサイダー」というタイトルだがはじける泡がlife=生命の示唆であるならとてつもなく不穏な歌になるのだが、さてどうなるだろうか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?