プロゲーマーを目指した若者の悲惨な末路|過酷なeスポーツの専門学校生
優斗さん(仮名:20歳)
「こんなに厳しい世界だと思いませんでした」
僕は高校の頃からずっと夢があったんです。
「プロゲーマー」
アメリカのトッププレイヤーの年収はなんと6億円、日本の方でもトップは1億円を稼ぐと言われています。一獲千金を狙うなら僕にはゲームしかない。心の底からそう確信していました。
僕は高校3年生の時、両親の反対を押し切り『eスポーツ』の専門学校に進学することに決めました。eスポーツというのはゲームをスポーツの1つの競技としてとらえる時の呼び名です。つまり、僕は『ゲームの専門学校』に進学したいと考えるようになりました。
当然、両親は猛反対をしました。特に父の怒りはすさまじく
「ゲームの専門学校に行くというなら高校を卒業後は家を出ていけ」
そう怒鳴られました。しかし、僕は「自分の人生をゲームにかけたい」という気持ちをあきらめきれませんでした。「高校を卒業後は両親から一切の援助を受けない」という条件で僕はeスポーツの専門学校に進学することになりました。
高校を卒業後、専門学校に入学してから僕は『ゲーム中心』の生活を送ることになりました。学校の授業のメインはやはりゲームのスキルを上達するための授業です。とにかく、レベルが高い人が多かった。しかも、講師は現役のプロゲーマーで世界タイトルにも出場する人だったので授業に熱も入ります。
周囲には笑われることも多い『プロゲーマー』という夢。しかし、この専門学校では同じ夢を持った仲間がたくさんでき、夢に向かって頑張るために良い刺激をもらうことができました。
実はこのeスポーツの専門学校では意外な教科も力を入れていました。この専門学校はeスポーツの世界大会に出場する選手を誕生させることが目的の学校なので『英語』の学習もしっかりと勉強させられました。
さらには数人でチームを組んでプレイするゲームの勉強の一環として、戦略や自分の役割にあったプレイの授業もありました。コミュニケーションを磨き、連携を取ることの大切さを学ぶ授業も重要でした。
専門学校を卒業後の進路はいくつか道があります。例えば、YouTubeで楽しく実況をするのが目的のプロゲーマー。この人達はゲームがうまいことではなく、見てくれる人を笑わせたり、楽しい実況をしてスパチャ(投げ銭)をもらったり、再生回数を増やして広告収入を選ぶタイプです。どちらかというとユーチューバーに近いですね。
しかし、僕はやはり、ゲームのスキルを磨いて世界大会で一獲千金をねらう道を選びました。僕が人生をかけることにしたゲームは『ストリートファイター』です。
学校は夕方の5時まで、その後はバイトを深夜12時までして、午前2時に就寝という生活を続けていました。しかし、入学してすぐに気づかされました
僕の腕ではとてもお金をもらえない
世界大会などのレベルではありません。専門学校の同級生にすら勝てないんです。eスポーツの世界はゲームが好きくらいのレベルでは話にならない『過酷な競争社会』でした。
僕はあせりもあり、とにかくゲーム漬けの日々を送りました。土日は朝の8時から夜の10時くらいまでぶっ通しでゲームをすることもありました。
そんな無理な生活をしていた僕の体が無事なわけがありません。まず『目』に影響が出ました。眼精疲労がひどく慢性的な頭痛に悩まされました。
次は『腰』です。一人暮らしでお金がなかった僕は安い椅子しか買えなかったことが原因で腰痛に襲われました。そして、手首に痛みが出ました。数時間もコントローラーのボタンを押していたので、腱鞘炎(けんしょうえん)になりました。
それでも同級生にすら勝てないあせり。それが原因でさらに長時間のゲームを続けることによる疲労。僕は心身ともにボロボロになっていきました。
そして、ついに僕の夢を打ちくだく『あの悲劇』が僕を襲いました。
あれは8月の暑い日のことでした。その日は日曜日。いつもの休日のように午前8時からストリートファイターをやり続けていました。僕のアパートにはエアコンがなく、汗だくになりながらゲームをプレイしていました。
3時間ほど経過した頃です。僕は左足が少し腫れていることに気づきました。
(ん?虫にでも食われたかな?)
僕はそれくらいに軽く考えてゲームを続けました。
しかし、その1時間後、左のふとももを中心に左足がパンパンにはれて激痛が走りました。
(痛い!なんだ!?)
次第に息苦しさも感じます。僕は、ただごとではないと感じ、急いで救急車を呼びました。数分後、駆けつけた救急隊員の方にこう告げられました。
「エコノミークラス症候群の症状です。一刻を争います」
水分不足と同じ姿勢を長時間続けていたことが原因で僕は『エコノミークラス症候群』になってしまったんです。幸い隊員の方と病院のお医者さんの処置が迅速であったため、命に別状はありませんでした。
後から医師の方に教えてもらったのですが、あと10分連絡が遅かったら命の危険性もあったということでした。僕の場合、1週間の入院で退院し、しばらく血栓の予防の飲み薬を服薬することで済みましたが、あのままアパートの部屋で倒れていたらと思うとゾッとします。
入院中にネットで検索して知ったのですが、韓国ではオンラインゲームを50時間もプレイして死亡した方がいるそうで、他にもインドでは16歳の若者がゲームで興奮しすぎて、アドレナリンの急激な上昇を引き起こし、心停止を起こして死亡した実例もあるそうです。ゲームでの死亡事故は世界中で多発しているという現実を知りました。
僕はこの入院生活でふと考えました。
(僕にプロゲーマーは無理だ・・・)
ゲームで飯を食っている人達は天才的なスキル、もしくはエンターテイナーとしての実況のスキルが天才的な人達のみ。僕はとてもその方たちのようになれないと痛感したんです。ゲームのトッププレイヤーは別世界の人達でした。
両親もすぐに病院にかけつけてくれました。両親は「もう実家に戻っておいで」と優しく言ってくれました。僕は病院を退院後、すぐにeスポーツの専門学校をやめました。
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